第四話 神官リスタ
(この男は……たしか……)
そう、この男はユーマに処刑を言い渡した張本人、リスタであった。
「なんだ? 貴様らは? 誰の許可を得てここへ入ってきた?」
リスタは椅子から立ち上がることなく、横目でユーマ達を見ている。
ここはリスタの執務室なのであろうか、部屋には机と椅子のほか、高級そうな様々な調度品が所狭しと敷き詰められた異様なものであった。
そして、机の上にはたくさんの金貨や銀貨により小高い山が形成され、リスタはそれを一枚一枚磨いている様子であった。
「お前に聞きたいことがある」
ユーマは単刀直入に話を振った。
「こちらの質問に答えるのが先であろう? それとも答えられぬのか? まあどちらでもよいがな」
リスタはそう話したのち、「衛兵!」と声を上げた。
しかし、その声に反応するものはない。
リスタはいらついた様子で再度「衛兵!!」と声を上げる。
やはりその声に反応するものはない。
それもそのはず、ここに来る途中で出会ったものは全て『振動』で意識を奪ってきたからだ。
「無駄だと思うぞ? お前の友達はみんな仲良く寝ているからな」
「っ……。な、なにが目的だ!」
「だから聞きたいことがあると言っただろ? 話を聞いていなかったのか?」
ユーマはリスタを睨みつける。
「まあよいではないか。それでのう、神にはどうやったら会うことが出来るのか教えて欲しいんじゃが?」
「は? 神に?? ──何を馬鹿なことを言っているのだ。お前らのような下等な存在に教えられるとでも思っているのか!」
ユーマは無言で剣を抜き、リスタに突き付けた。
「……お、脅しのつもりか? そんなものにはくくくく、屈さぬ。ややや、やりたければやるがいい!」
リスタはその言葉とは裏腹に、口調はどもり、足は震え、怯え切っている様子だ。
「そうか。わかった」
ユーマはその剣をゆっくりとリスタ目掛けて押し付けた。
「ひっ!!」その言葉と共に、リスタは椅子から転がり落ちた。調度品をはね飛ばしながら地面に倒れ込む。
そして一瞬の間ののち、リスタは手を抑えながら喚き始めた。
「──いたぁあ! 血、血がぁあ! 私の血がぁああ!」
どうやら転がり落ちるはずみで、剣で手を切ってしまったらしい。
(こんなやつに、俺は……)
さすがのユーマもあきれて言葉を失っていた。
しかしリスタはその隙を見逃さなかった。
「…………」
リスタの瞳が赤く光り、その手からは大きな炎が立ち上った。
「燃え死ねぇええぇえ!!!」
リスタは叫び声を上げながらユーマへとその炎を向けた。
「……なにをしている?」
しかし、先ほどまで立ち上っていたはずの炎はその姿を消していた。
ユーマはその瞳を赤く光らせ、リスタを睨みつけている。
「……あ、あれ? も、もう一度!!」
「…………」
再びリスタは瞳を赤く光らせると、その手からは大きな炎が立ち上った。
しかしその直後、炎は蝋燭が吹き消されるかのごとく、霧散していった。
「な、なんで……?」
「──残念ながら、俺に炎は通用しない。いや、正確には炎だけではないが」
ユーマはそう言いながら、リスタへと近づく。
「ひ、ひいいぃ!」
隠し玉を防がれたリスタには、もう成す術は残っていたかった。
一歩、一歩と近づいていくユーマであったが、リスタの直前まで迫った時、魔王に制止された。
「次は我の番じゃ。──それで、どうなんじゃ? 教えてくれるのか、くれないのか?」
「おおお、教えぬ! はは、早くここから立ち去れ!」
「ほう。では命はいらぬと?」
「ううううう、うるさい! ははは、はやくたちされ!!」
「ふむ。会話にならぬな。──もうよい。ではこれを持て」
魔王はそう言うとリスタに鏡を手渡した。
「自分の顔をしっかりと見ておくんじゃぞ?」
「……え?」
「おっと、そうじゃそうじゃ。その前に大事なことを聞き忘れておった。お主はこやつの顔をみて、何か思うところはあるか?」
魔王はそう言いながらユーマの顔を指さした。
「あ、あるわけなかろう! あ、あ、あったとしても、こ、こんな下等なやつを覚えているわけなかろう!」
「そうか。その言葉が聞けてよかったよ」
そう話す魔王の顔は怖いほどの笑顔を浮かべていた。
そして魔王はリスタの体に手をあて、何やら念じ始めその瞳を赤く光らせた。
「…………」
するとリスタの顔が少し老けたようにみえる。
怪我を負っていたはずの手の傷も消え、まるでリスタの時間だけが進んだかのようであった。
「どうじゃ?」
魔王はリスタの顔をじっと見つめ、問いかけた。
「こ、この程度がなんだというのだ!」
「ふむ。では次はもう少し進めるぞ」
魔王はリスタの体に手をあて、再び瞳を赤く光らせる。
「…………」
リスタの顔には徐々にしわが増え、髪の毛も白髪が増えると同時に、その髪が抜けはじめる。
「ひ、ひいいい!!」
リスタのその声も今までの覇気が失われ、どこか乾いたような声となっていた。
「どうじゃ? 話す気になった? おそらく次でお主は死ぬぞ?」
「わ、わかった。はなす、はなすからもうやめてくれ……」
初老のようだったリスタは魔王の手により老年へと変貌してしまっていた。
リスタはたった数分で二十年近くも歳を取ってしまったのであった。
「素直でよろしい。で、どうすればいいんじゃ?」
「──わからない」
「は??」
魔王はリスタの体に再び手を当てた。
「ほ、ほんとうなんだ! 私は神官の中でも下位の神官……。そのようなものには神と謁見する機会はないし、謁見する方法すら教えては貰えんのだ」
「ではどこに行けばそれがわかるのじゃ? どこに行けば高位の神官に会えるのじゃ?」
「……おそらく神官長か、それに近しい人物であれば……。ここから北に一週間ほど行ったところに大神殿がある。神官長はそこにいらっしゃるはずだ」
「ふむ。情報提供に感謝しよう。それでは行こうかの、ユーマ」
「ああ」
「……ユーマ? ………………お前はもしかして無能の?」
「ああ、そうだ。お前が処刑を言い渡したその無能だ。『振動』もな、使ってみるとなかなかに便利な能力だったぞ。ここにいる全員を簡単に倒せるほどにな」
「……そ、そんなバカな……。」
「それと、最後にもう一つだけ教えてくれ。辺境の村を襲うように指示したのはお前か?」
「へ、辺境の村?? なんの話だ?」
「そうか、ならいい。──命拾いしたな」
そう話すユーマの顔からは憎悪の感情が溢れていた。
「こんなやつ放っておいて、早くいくぞユーマ」
「ま、まて! 行くならこれを解いていってくれ! ちゃんと話しただろ??」
「ああ、それな。残念ながら戻せないんじゃ。まあ、元はと言えばお主が撒いた種じゃ。自業自得じゃよ。──二度と元の生活には戻れないだろうな、可哀そうにのう。あはははははは!!」
魔王は再び怖いくらいの笑みを浮かべながらそう話したのだった。
「そ、そんな……」
そしてユーマと魔王は教会を立ち去って行った。
悲痛な顔をしたリスタを一人残して。
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