第三話 もう一度問おう。我と組んで神を討たぬか?
時は再び魔王の居城へと戻る。
「──どうだ? 思い出したか?」
剣の切っ先を突き付けられたまま魔王はユーマに問いかけた。
「何がだ! あの日、確かに魔物が村を襲っていた! それはこの目ではっきりと見ている!」
「ふむ。──残念ながらお主の見たものは魔物ではないぞ」
「なに……? まさか命惜しさに適当なことを言っているのではないだろうな?」
ユーマはそう言うと、魔王の喉元に突き付けた切っ先を皮一枚を切る程度に押し付けた。
「笑止! 我がそのようなことをすると思うたか! お主が見たのは『グリフォン』。つまるところ、神の僕だ」
「神の……?」
「ああ、そうだ。いくら魔王と言えど、あんな魔獣を生み出すことは出来ない。そんなことが出来るのは神くらいであろうな」
「ではなぜ神が村を襲う! 村の民は皆、神を信仰していた! 襲う理由などないはずだ!!」
「お主の幼馴染、エレナと言ったか? あやつはSランクの能力を出した。それが原因だ。そしてあやつを亡き者にするために神は村を襲った」
「……は? 何を言っているんだ? Sランクは『魔王を倒す』能力で神にとっても害にはならないはずだ。そもそもそれ以前に能力は神が与えたものだろう? お前の話はどこか矛盾している」
「そうか……。まずはそこからか。まず能力についてだが、これは決して神が授けたものではない。各個人がそれぞれ生まれ持ったものだ。『神が授けた』と言った方が信仰が厚くなるからな、それを利用するために神官どもが吹聴したのであろう。そしてSランクは『神にも届き得る』能力と言った方が正しい。ここまで言えばお主にも理解できるであろう?」
「……。じゃあエレナは……エレナは死んだのか??」
「──ああ。その通りだ。それが神の目的だったからな」
魔王は一瞬の間ののち、そう答えた。
その時の魔王の顔はどこか儚げなものであった。
「…………」
ユーマは言葉を失っていた。
エレナは生きている、冒険者として頑張っている、今までずっとそう思って生きてきた。
それもそのはず、ユーマが確認した限りでは村の中にエレナらしき遺体は見つからなかったからだ。
「エレナは……、エレナの遺体は村にはなかった。それはどう説明する?」
「簡単なことだ。遺体が残らないほどの火力で焼かれたのであろうな」
「っ……」
容赦のない魔王の言葉にユーマは顔を歪ませた。
ユーマは少し考えたのち、魔王へこう問いかけた。
「……お前が神を討とうという目的は何だ? どんな理由がある?」
「そんなもの簡単だ。己の身を守るため。神が崇められている限り、我を討とうとするものが後を絶たないからな。それに魔王が神を倒そうとして何がおかしい?」
「確かにここまでのお前の話は筋が通っている。それは認めよう。──だが、俺はそれだけでお前を信用することは出来ない」
「それでも良い。少しでも不信を感じたらその時はすぐさま我を殺せばよい。お主の力なら造作もないことであろう?」
「…………」
ユーマは無言のまま、魔王へ突き立てている剣の力を抜いた。そしてその瞳は綺麗な蒼色へと変わっていた。
「ではもう一度問おう。我と組んで神を討たぬか?」
☆
ユーマと魔王は魔王の居城を離れ、王都へと訪れていた。
石畳の街道に、石造りの街並み。街は活気で溢れ、そこかしこで出店も開かれていた。
ユーマにとっては『鑑定日』以来、五年ぶりの王都であったが、ユーマは景色を懐かしむ様子などなく、逆に人目を避けるように顔を伏せながら歩いていた。
と言うのも、王都から逃げ出したユーマとタロウはお尋ね者となっていた。そのため、人目のつかない森の中にタロウと共に五年もの間潜んでいたのであった。
「もう五年も経っているのであろう? 成長したお主の顔なんて、誰も気付きなどせん。それにいつまでもそんな風にされていては、この先が思いやられるな」
魔王はユーマをたしなめるように言った。実際にユーマを見つめる瞳は一つもなく、ユーマと魔王の歩く様は美男美女のカップルのようでもあった。
「──うるさいぞ。黙れ魔王」
とは言え、ユーマはタロウの教えを忠実に守っていたのだ。五年間もの間守り続けた教えはそう易々と変えることはできなかった。
「ふん。まあよいわ。──さあ、ついたぞ」
そう言うと魔王は立ち止まる。
ユーマ達の眼前には、鑑定が行われた教会があった。その建物は他の建物同様に石造りであったが、他のそれに比べ一際大きく、圧倒的な存在感を放っている。そしてその教会の入り口上部には天使をモチーフにしたレリーフが彫られていた。
神を討つと言っても、神がどこにいて、どのようにすれば会えるのかは全くの謎であった。
それを知るためには神に近しい存在に確認するのが一番の近道だとユーマ達は考えたのだ。
ユーマは大きな深呼吸を一度行ったのち、真っ直ぐ前を見つめ、目を見開いた。
「いくぞ」
その言葉と共に、教会の扉を開いた。
「神官はいるか?」
ユーマは入り口付近にいた警備兵へ問い掛ける。
「なんだ貴様は。神官様に何の用だ?」
警備兵はユーマを睨み付ける。
「借りたものを返しに来た。──どこだと聞いているのだが?」
ユーマは警備兵を睨み返す。
そしてユーマの後ろでは魔王が楽しそうにその光景を眺めていた。
「素性の知らぬ者を神官様の元に通す訳にはいかん。痛い目を見たくなければ帰るがいい」
「そうか。ではそこで寝ていろ」
ユーマはそう言うと、その瞳を赤く光らせながら警備兵の頭に手をやった。
「…………」
すると警備兵は突然倒れ込む。
警備兵の頭を『振動』させ、脳震盪を起こさせたのであった。
これもタロウに教えてもらった使い方である。
「さすがだのう。では奥へと進んでみるかの」
後ろに控えていた魔王がひょっこりと顔を出した。
「なんだ? みているだけか? 俺の配下になったのだろう??」
「ふむ。そのうち活躍してやるから待っておるがよい」
「──ああ。期待せずに待っているよ」
ユーマは少し不満そうな口調でそう言った。
そしてユーマ達は鑑定を行った広間を抜けた先の廊下で、いくつか扉があるのを見つけた。
「この中のどこかにいるかもしれないの」
「ああ。一つずつ開けていくか」
手前から順に開けていく。
「違う」「ここも違う」「ここも」
そうして四つ目の扉に手をかけた時、その先に人の気配がするのを感じた。
(ここだな……)
ユーマは意を決して扉を開ける。
するとその先に居たのは貧弱な体つきの金髪のオカッパであった。




