中学の思い出
「なあお前、高西とちけえんだったよな?」
「そうだけど……」
「じゃ、悪いけどこれ頼むわ!」
「は⁉ おいちょっと待て。これは日直の仕事だろ⁉」
「頼んだわー!」
なんてこった……。
中学二年。
愛沙とは致命的に距離ができていた。
二年生になった愛沙は一年の頃のようなギャルっぽい友達とは離れていたようだ。完璧美少女の風格が現れていて男女ともに近寄りがたい空気になっていたとも言える。
「はぁ……」
気が重い。
体調を崩して休んだ愛沙にプリントを届けることになったわけだけど、もう何年も行ってない家だ。近いとはいえ通り道というわけでもないし、面倒であることは間違いなかった。
「そもそもクラスも違うのにどうして……」
小学校高学年から妙に距離が離れたし、中学に入ってからなど嫌われているのではと思うほど冷たい視線を浴びせられているのだ。
去年の女子たちの会話が耳に入ったのもいまだにこびりついて離れない。
「いやもうこれは……間違いなく嫌われてる……」
なにをしたかはわからないけどそうだ。
そもそも愛沙は中学に入ってからきれいになりすぎて男子の人気もすごい。幼馴染というだけで気安く話しかけられる関係ではない。
そもそももう、愛沙なんて呼んでるのも嫌がられそうだな……。
「よし……」
あいつは高西。高西さんだ。
うん。このくらいの距離感がしっくりくる!
幼馴染だからとかそんな幻想のような話はもう忘れよう。
とにかく高西さんとはもうただ家が近いだけの関係。これでいい。
──ピンポーン
「はい?」
「えっと……藤野です。高西さんにプリントの届け物で……」
「高西……?」
「え?」
パジャマ姿で出てきた高西さんの表情は、これまでで最も恐ろしかった。
「……そう。ごくろうさま」
俺の持っていたプリントをひったくるように受け取って、すぐに扉の向こうに駆け込んでいった。
「怖かった……」
よほど家に来られたのが嫌だったのか……。
「とにかくこれでもう、関わることはないはずだ」
次に頼まれた時は絶対に断る……と心に決めて。
「──はっ⁉」
夢……?
にしても随分懐かしい夢だったな……。
思えばあの時からか。愛沙が怖くてしょうがなかったのは。
「気をつけよう。いまだに何が気に障ったのかわからないんだ……とにかく気をつけよう」
よくわからない決意を胸に、いい匂いのするリビングに降りていった。
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