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「んー、じゃぁさ、ハンドミキサーってあるだろ、それを手の平サイズに小型化って可能か??」
ハンドミキサー、存在するんだよ。
前世で言うところの中世ヨーロッパな感じなんだけど、中途半端と言うか、そこまで不便では無いのだ。
家電も魔道具として開発されているし、公衆衛生も前世程では無いにしろ、酷くはない。きちんと下水処理の概念があるので、トイレが無く道に捨てる……なんてことは、流石にない。良かった。ホントに。
もちろん、前世ほどは便利ではないけど。ないものもあるし。
だけど、基本的な家電はある。冷蔵庫とかオーブンとかコンロとか洗濯機とか。……何故か掃除機は無い気がする。あと、お湯も出るしシャワーもある。でも、シャワーはさすがに金持ちのものって感じではあるけど。家電ももしかしたら、そうかも知れない。テレビやパソコンのような電子機器は無い。電話ほど手軽では無いけど、魔法で連絡する手段はある。それから、もちろんゲームもない。……トランプとかチェスのような娯楽は存在するけど。さすがに、将棋は無いと思う。
なんと言うか、それこそ物語の中のような都合の良さのような気がする。今まで不思議に思ったことも無かったけど、そう考えると何だか納得してしまう。
けれども、さすがにパッと作られた世界でも無いわけで。……無い……はずで。
つまりは、それらを開発した人物が存在するわけで。前世でもそうだけど、そうやって家電を生み出す人は凄いと思う。
ま、おかげで思い出した知識でチート!ってわけにもいかなそうである。……本物の天才には勝てないってことだよね。うん。
そもそも、作る技術が俺には無いしね。結局は、天才に頼らざるを得ないわけだし。
例えば、目の前のこいつとかね。
家電的なものもそうだけど、冒険に役立つ方面での魔道具の作成も凄いんだよね。
「牛乳を細かーく泡立てたいんだよ」
たぶん、こんな物を作ってと頼むような相手では無いな……と思いながら、続ける。
「それで?」
けれども、ブライアムは意外にも興味を示し、紙を広げて何やらメモをしながら、俺の言ったハンドミキサーの小型化について検討してくれていた。
俺は、前世のそれを朧気に思い浮かべながら、こんな感じと説明する。あんまり上手くもない絵を描いたりもしながら。
「その泡立てたのを、コーヒーの上に乗せて飲みたいんだよ」
いわゆる、カプチーノ。
正確にはエスプレッソだったと思うけど、まぁ、いっかな。とりあえず、コーヒーにふわふわしたのが乗ったやつが飲みたいのだ。
あと、インスタントコーヒーも作ってもらいたい。コーヒーはあるし、ドリップコーヒーもあるけど、インスタントコーヒーは無いんだよね。どういう仕組みなのか全く分からないけど、とりあえずウィリーに相談しようと思ってる。何年かかるか分からないけど、きっと開発出来るだろうと思う。その辺は、丸投げ予定。餅は餅屋に。
「あ、あとね、それとは少しサイズが変わるけど手の平サイズだと物を潰すのにも良さそうだから、スープとか作るのが楽になるかもね」
何か、そんな商品あったよなぁと思いながら言うけど、具体的にどんな風に便利なのかはよく分からない。使ったことないし。
でも、ふと思い出したので言ってみた。需要がないとか、作成が難しいとかは、他の人が考えるだろうみたいな、これも完全丸投げ精神だ。
ブライアムは、その俺の話をしっかり聞いていて、メモのスピードが物凄いことになっている。
それを見て、瞬時に、『あ、これ、倒れるやつだ』と悟り、ゴメン……と思う。
すまん。
「それより、本題があるんだ!」
ブライアムが、そのまま思考モードに入りかねないので、俺は思い出したとでも言うように、声を上げた。
いや、話の繋ぎがこんなに食いついてくれるとは、思わなかった。別のヤツに頼めば?とでも突き放されると思ったのに。
あ、でも、珍しいことに関しては、目が無いからこうなる可能性はあった!うーん、普通に既存の魔道具を作って貰えば良かった。そうだ、念の為、魅了防止のアイテムを作ってもらおうと思ってたんだった。
コーヒー入れてたら、カプチーノのことを思い出して、気になったのだ。美味しかったよなぁと思って、飲みたくなったのだ。仕方ない。うん、仕方ない。
「本題……?」
面白そうな話を聞いて、そちらに向かっていた気持ちを遮られ、少々不満げにブライアムは、俺を見る。
「そ、本題」
俺は真剣な顔でそう返し、防音の結界も張った。俺とブライアム二人分、少し小さめの結界を。
ここは、学園に与えられたブライアムの研究室なわけで、そもそもが防音の部屋で、その性質上、盗聴盗難には配慮されているが、念の為。
不用意に話すには、まずい内容になるだろうから。
「……それは、なんだ?」
結界を張ったことで、俺の話の重さを察してくれたブライアムは、幾分か真剣な眼差しで、問い返してきた。
内容が内容なだけに、やけに緊張する。
「……これからする話は、結構……と言うかかなり?大分、突拍子も無い、と言うか荒唐無稽な話になるんだけど……ちゃんと聞いてくれると、助かる」
「ん?うん、まぁ、聞くは聞くけど」
俺の曖昧かつしどろもどろな説明に、かなり怪訝な表情を浮かべるも、ブライアムは聞く姿勢は見せてくれる。何より。
聞いてくれて、その後、どうするかは分からないけど、と言った態度だけど、それで十分である。こいつは、どんなに馬鹿馬鹿しい話だって、途中で投げ出したりはしない。基本的に。……まぁ、流し聞いてほとんど、聞いてない、なんてことはあるけど。
それでも、一方的に決めつけて蔑ろにするなんてことは、ほとんど無い。
興味無いと判断されたら、かなり投げやりになるけど。でも、関心を引ければ真剣に考えてくれたりするのだ。
基本的に人を信じていないが、人の話はある程度、聞いてくれる。どんな話でも何がヒントになるか分からないって言うのが信条らしい。それに、基本的に人を信じていないが故に、誰の話も疑って聞いているし、誰の話も一方的に判断はしないようにしているのだ。
まぁ、一方的に人を嫌ってはいるし、自分に近付く女は基本、危険人物扱いではあるが。もちろん、男についても信用はしていないと言う矛盾はあるけど。
そういうところが、もう少しどうにかなれば、色々マシになるのになぁ……と思う。ムリだろうけど。
だからこそ、俺はそう言う部分をフォローしてくれる存在が出来れば良いのにと思う。
弟子とか雇えばいいのに。
……育成とか、下手そうだけど。
……それに、最終的に裏切られそうだ。才能に対する妬みとかで。うん、だから人間不信なんだっけ、こいつ。
女に対しては、言わずもがな。
うん、その辺はイケメンの悲しき運命だよね。ルドウィンとか王太子様とかその他、人気の令息は大変そうだしね。
でもなー、こいつはそう言う弟子系にやんや言われながら、過ごすのとか似合いそうだと思う。
それか、世話焼きでお節介で気の強い系の女の人。年上かなぁ?
うーん、この学院で探すのは中々、難しそうなタイプだよなー。
なんて、そんなことはどうでも良くて。
「で?」
と、ブライアムに促され、脳内のどうでも良い話はすっぱり流す。
「もしも、魔王の封印が解けるとしたら、どんな可能性が考えられるのかなぁ?って」
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