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第十二話 生き別れ

今回でハクと黒菜の過去は一度終了します!

では第十二話です!

 後天性免疫不全症候群、エイズとは正直言って余程のことがない限り発症することがない。

 空気を伝って飛沫感染するわけでもなく皮膚が触れる接触感染を起こすわけでもない。よっての感染経路というもはかなり絞られることになる。

 そもそもエイズというものは感染すると体の中内ある免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を発症させてしまう病だ。後天的ということもあり黒菜のように生まれた瞬間から体が弱いわけではなく、確実に原因が存在して生まれた後に発症してしまうものなのだ。

 よって感染経路がいかに少なくとも、発症してしまった以上間違いなく病原体が体内に侵入する隙があったということになる。

 そして今の白駒にとってそれは日々繰り返されている新薬開発の臨床実験が発端だった。

 臨床実験では大量の点滴や注射器を使用する。

 一応白駒の両親は医者なのである程度個人でそのような器具は所持していたが、それでも白駒に投下されていく薬の数がとてつもなく多かったため、自らが経営している病院からいくつか黙って持ってきていたのだ。

 その中には新品のものもあれば、一度誰かが使用したものも混ざっており衛生環境が整っていたとは絶対に言えない。

 いくら臨床実験といっても実験の正確性を正すために、実験体の健康を保たせることは最重要項目になってくるはずなのだが、やはりそれを実行しているこの両親は壊れていた。

 黒菜がどれだけ訴えてもその環境は変わることがなく、どんな汚い注射器や点滴器具であってもそれを使いながら白駒を実験体にし続けたのだ。

 その結果がこれである。

 白駒はいつのまにか後天性免疫不全症候群を引き起こし、立ち上がることも出来なくなってしまった。

 エイズは基本的に早期発見が難しい病としされている。それは病状進む時間があまりにも緩やかだからだ。

 まず初めに、発症してしばらくすると急性感染期と呼ばれる時期に入る。これは所謂インフルエンザにかかったような症状が出現し、一見すればただの風邪のようにも見えなくない。そしてこれが収まるとしばらくの間、何事もなくその症状は消えてしまう。

 これこそがエイズという病気を発見することを遅れさせてしまうのだが、この症状は決して直っているわけではなく、本人の知らないところで病気は進行している。

 そして当然白駒の症状もこの流れに沿って出現した。

 しかし当時はまだ臨床実験を行っていた両親でさえその症状を風邪だと勘違いしており、気づくことはなかったのだ。

 だがそれでもこの現状に真っ先に気が付いた人物がいた。

 それは当然黒菜である。

 毎日毎日白駒の姿を見ていた黒菜にはその体に起きている不自然な症状に違和感を覚えたのだ。

 これが普通の六歳児であればこの段階で思考を投げ捨てていただろうが、黒菜は普通ではない。この歳になった黒菜の頭脳は既に両親が持っているそれを遥かに超えていた。よって白駒に現れた症状を見た瞬間、それがエイズであるとすぐに看破したのだ。

 はっきり言ってそれはかなり無茶苦茶な話である。

 いくら頭が良くても検査をしなければわからないようなことでさえ答えをはじき出すということは、やはり現実的にあり得る話ではない。

 しかし黒菜が導き出した答えは今まで外れたことがなかった。

 よってその声を聴いた両親は白駒に仕方なくエイズの検査を受けさせることにしたのだ。

 だが間違ってもらっては困るのだが、この行動の真意は子供の体を気遣っているようなものではない。あくまでもこのまま臨床実験を続けられる体なのか、というところが二人の中で一段重要なポイントだった。

 そしてその結果は見事に黒菜の言葉が的中する形ではじき出される。

 つまり結果は陽性。

 エイズの感染は確定的だった。

 新薬開発の臨床実験によって耐え難い苦痛を与えられてきたはずなのに、さらに命すら脅かす病気に感染する。

 ここまで酷い人生を歩まされてしまった白駒は、もはやこの段階で生きているのか死んでいるのかすら見分けがつかないほど衰弱してしまっていた。エイズは発症してからその脅威をむき出してくるまで大分時間が必要になる。よって今の白駒を苦しめているのは、日々打ち続けられた薬と自分がいつ死んでもおかしくないという恐怖だった。


 しかし不幸なのか幸福なのか。

 このエイズという病気が白駒をこの地獄から解放させることになる。


 エイズに感染してしまった白駒を見て両親は、さすがにこのままでは新薬開発の臨床実験すら行えないという結論をはじき出した。今までの白駒はどういう因果かはわからないが、どれだけ大量の薬を打ち込もうが悲鳴を上げるだけで、健康な状態を保っていたのだ。

 それゆえに両親もこれ以上ない道具だと思いながら実験を続けてきたし、利用してきた。

 だが今の白駒ではそれさえも満足に行えない体になってしまっている。

 やはり効果的な新薬を作り出すためには、抜かりない実験を繰り返しデータを蓄積させる必要がなる。

 それなのに今はまだ完全に直す方法がないと言われているエイズに感染し、動けなくなってしまった実験体をこのまま使っていてもいい結果など出てくるはずがない。

 だがからこそここでようやく白駒の臨床実験は終わった。

 それは弟を愛している黒菜にとってとても嬉しいことであったのだが、ここでその気持ちはまたしても壊されてしまうことになる。

 いくら子供を人間と捉えていないにしてもこのまま放置して殺してしまっては、さすがに問題になってしまう。

 そう判断した両親はエイズに感染している白駒を隔離し、白駒を自分たちの家から追い出すプランを練り始めたのだ。

 つまり完全に小園という名前を剥奪し、誰か別の家に養子として渡してしまうということである。

 その結果こそが、白駒に桐中という名字を与え普通の生活に戻していくことになるのだが、これを聞いた黒菜は非常に複雑な気持ちだった。

 当時の黒菜にはその頭脳の聡明さから、かなり多くの仕事や依頼が舞い込んできていた。そしてそれは同時に医者である両親の地位も同時に高めていく。つまり黒菜は白駒についていくことはおろか、この両親から抜け出すことすら出来なくなっていたのだ。

 黒菜の気持ちとしては今すぐにでもこの両親から離れ白駒と一緒に生活したいという感情が渦巻いている。

 しかしそれは叶わぬ願いだ。

 だが白駒だけでもこの地獄から抜けさせることが黒菜の最重要項目であったがため、黒菜は白駒の幸せを祈りながら引き取られていく白駒を見送った。

 両親からすればいい実験体がいなうなることは多少ダメージになったが、それでも小園家の膿のような存在であった白駒を追い出すことができ、心の中では晴れ晴れした気持ちになって、この結果にある程度満足していたのだ。


 だがこれこそが小園家を完全崩壊させていく一歩であることは知る由もない。




 これこそが白駒と黒菜の過去。

 地獄に地獄を重ねたような惨劇は一度ここで終幕する。

 当然異世界に飛び立ったハクを知っている者ならば、この後の白駒がそれなりに幸せな生活を送ったことは想像出来るだろう。

 真話大戦や新話大戦は確かにある一面を見れば辛いこともあったかもしれない。しかしこの惨劇と比べると、少し霞んでしまうのは否めないだろう。

 この後、生き別れた黒菜がどうなったのかはまったくわからなかった。

 だがハクが真話大戦に巻き込まれる数年前に黒菜という実の姉が行方不明で死んでいるということは、桐中の両親から伝えられていた。

 そのため黒菜が今になって目の前に現れてくるなど、桐中白駒の記憶を引きついだハクであっても予想は出来なかったのだ。


 だがこの邂逅こそ、小園家が発端で起きてしまった本当の惨劇を明らかにさせる大きな鍵になっていくのであった。








「とまあ、こんな感じだ。かなり惨い話だし、俺も話しているだけで気分が悪くなってくるけど、俺と姉さんの過去はこの流れで終わっている。………悪いな、今まで話さなくて。でもやっぱり今でもこの話は話すべきじゃなかったって思ってるよ」


 俺は一通り自分の、いや桐中白駒の過去を話し終えると息を吐きだしながら座っている背もたれに体重を預けた。

 自分の過去はいずれ話さないといけないとは思っていたものの、さすがにこの話は今の赤紀にとってかなり大きなダメージを与えているようだ。

 話を聞いていた赤紀の顔はどんどん青ざめていき、途中からは涙を流しながら嗚咽の音を部屋に響かせていった。

 しかしそれでも赤紀は最後まで聞くことを止めず、俺の話を最後まで聞ききったのだ。そこにはおそらく俺という兄の過去を妹として受け止めたいという心があったのだろうが、それでもさすがにこの話は精神的に痛かったようだ。

 俺はそんな赤紀を落ち着かせるために一度立ち上がり、ポットに入っているお湯を急須の中に流し込んで温かい緑茶を差し出した。

 これは桐中の両親が泣いている俺を落ち着かせるためによくやっていた方法で、その時に味わった温かい味はいまだに忘れられない。

 その緑茶を涙を拭いながらも喉に流していく。そして赤紀は腫れてしまった目をこちらに向けながら言葉を呟いてきた。


「い、今の、お兄ちゃんは………エイズに感染してるの?」


 その声は実の両親のように俺を忌避するような言葉ではなく、純粋に俺を心配しているものだった。

 確かに俺はこの家に引き取られる原因となったエイズに感染していたし、そもそも大量の薬を打ち込まれて満身創痍の状態だった。普通ならば何らかの後遺症や病気にかかっていてもおかしくはない。

 ましてエイズは確かに進行が遅い病ではあるものの、さすがにあれから十四年も経過していればとっくに立てなくなっていてもおかしくはない。最悪の場合死んでいても不思議ではないのだ。

 しかし今の俺はまったくそのような気配を感じさせず、ごく普通の生活を送っている。

 ではなぜそのような結果になっているのか。

 それは至って単純な要因が解決してくれる。


「いや、今は完全に回復してるよ。体内にエイズのウイルスもいないし、そもそも体だって元気だ。まあ、これには多分だけど心当たりがあるんだけど………」


「こ、心当たり?」


 エイズという病気は今の段階では完全に直すことは不可能とされている。しかしそれが俺の体から消え失せているのだ。

 科学の力でダメならば、もっと他の力が影響している。

 つまりそれは。


「予想というか、ほぼ間違いないんだが俺の体はリアを受け止めるための妃の器だった。それゆえ、体内に入ってきた悪性の物質をゆっくりではあるけれど消滅させていったんだと思う。でないと、エイズはともかく四歳児が新薬の実験に耐えられるわけがない」


 妃の器は俺という人格が生み出される前から、桐中白駒がこの体を動かしていたときから既に完成されていたものだ。

 それはおそらく知らずのうちにこの体の強度免疫を向上させ、エイズを打ち破るほどの力をつけていたのだろう。

 だからこそ俺は今生きている。

 はっきり言ってこればかりはリアに感謝しなければいけないことなのだ。


「………そ、そうなんだ」


 赤紀はそう呟くと、俺が差し出したお茶を勢いよく飲み干し椅子から立ち上がると、俺の隣にやってきて抱き着いてきた。


「辛かったね、お兄ちゃん………。今の私じゃなにもしてあげられないけど、せめてお兄ちゃんを守ってあげたい………。お姉さんが何であんなことをしてきたのかわからないけど、それでもその頃のお姉さんはお兄ちゃんを守ることに必死だった。だから今度が私が……………」


 赤紀はそう呟くと、俺の胸の中で寝息を立てながら眠ってしまった。

 今日一日、学校でテストを受け、帰宅すれば怪しい連中に襲われ、今は俺の壮絶な過去を聞いた。

 赤紀にとって今日はまるで異世界に行ったようなとても内容の濃い一日になっていたのだ。

 であればその疲れから眠ってしまうことも頷けるだろう。

 俺はそんな赤紀の髪を軽く撫でると、ゆっくりとその体を持ち上げて赤紀の自室まで運んだ。正直言って年ごろの妹の部屋に入るのはかなり抵抗があったが、今日ばかりは許してもらうしかない。

 俺はその後、残されている食器を水と洗剤を使いながら洗い、能力で体を綺麗にすると、そのまま自分の部屋に入ってベッドに体を預けた。


 やはりどう考えてもあの姉さんが俺を今になって襲ってくる意味が分からない。

 赤紀に俺の過去を打ち明けていた時もその考えだけは離れなかった。

まして今の姉さんは魔術を使って、真話大戦のことも知っている。それに何やらよくわからない集団もついてきているおり、いくら考えてもその解答が出てくる気配はない。

 ただ一点。

 今の俺があの姉さんについて少しだけわかるとすれば。


『容姿の変化、かのう?』


「ああ。俺が考えられることっていうとそれくらいしかない」


 俺の目の前に現れた姉さんは記憶にあった容姿とまったく違うものになっていた。

 黒く綺麗だった髪は無理矢理変えられたような白に変色しており、所々黒いかみのけを残している。

 また瞳は片方は髪で隠れて見えなかったものの、露わになっていた右目はまるでアリスのような水色に変色していたのだ。

 異世界でもないこの世界においてそのような容姿はなかなか見られるものではない。

 であれば一体何が考えられるか。


『何かが憑依している、ということか。いうなれば私と主様、それにゼロと赤紀。強大な力が人間に宿ってしまった場合、その容姿を根底から変えてしまうことがある。主様はそう言いたいのじゃろう?』


「まあ、な。そしてそれが本当ならば確かにあの程度の魔術は使えてもおかしくはない」


 俺はリアが宿っていることで髪が金髪になっているし、赤紀もゼロが居座っていたことが原因で瞳の色が変わっている。

 姉さんの場合、単純にストレスによってその容姿が変わった可能性も考えられるが、髪はともかく瞳の色まで変えてしまうのはさすがに不可能だ。

 だからこそ何か別の要因があるのでは、と思った結果俺はこのような結論にたどり着いたのだ。

 しかしこれでもまだ断定することは出来ない。

 この世界の神々は全て俺の監視下にある。

 その状況で神々の神秘はおろか、その力を身に宿すということ自体あり得ないのだ。


『むう………。とはいえ本当にわからなんことが多いのう。ここはやはりあの女に頼るしかないか………』


「だな。ここは異世界でもないし、下手に俺も動き回れない。申し訳ないがシェリーが多くの情報を集めてくることに期待しよう」


 俺はそう呟くと、そのままベッドに顔を埋め意識を消失させた。

 神妃になってしまった俺は別に眠る必要はないのだが、何故だか今は無性に睡眠を取りたくなったのだ。




 こうして俺が異世界から戻ってきた初日は終了した。

 異世界ではリアが調整したものの、既に半年が経過している。

 だが、この現実世界では俺と姉さんを中心に大きな真実が暴かれようとしていた。


 そして時間は刻一刻と過ぎていき、現実世界二日目に突入する。


次回はシェリーとの話し合いと、ついにあの人が出てきます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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