<5>
完全に日が沈み、月に照らされた大地に白い煙が一本たちのぼった。
「テオティ様、どうぞこちらへ」
ゼノンが焚き火のそばにある切り株の横に立ち、テオティに座るよう促す。
「ありがとうございます」
ぺこりと一礼してから、スカートを折りたたんで座ったテオティ。
その横にはイヴンと手を繋いだメアリが眠そうに目をこすっている。
「シャリオン殿はどうぞこちらへ」
テオティの隣にある切り株を勧められ、イヴンはメアリを膝に乗せて座り、ローブのフードを深く被った。
日が落ちてから、一行は野営の準備を始めていた。
今日一日で次の街に着くのは不可能で、やむを得ず野宿となった次第である。
育ちのいいテオティやイヴンにとって、野宿は生まれて初めての体験だ。
ゼノンはそんな二人を気遣って声をかけた。
「テオティ様、シャリオン殿。
外でお眠りになるのが苦痛でしたら、私が魔法で部屋を一室おつくりしますが、いかが致しますか」
「私はこのままで結構です。
こんなきれいな星空の下で眠れるなんて贅沢ですもの」
フカフカのベットで眠れないのに、テオティは天を仰ぎ、目を輝かせている。
新しいことにチャレンジするのが好きらしい。
虫とかもいるんだぞー。
「俺もこのままで結構です」
イヴンがゼノンに首を振って答える。
姫がここで寝るのに、おちおち自分だけ部屋で寝るわけにもいかないだろう。
それに、夜中の間ゼノンに魔法を使わせることになってしまうのも避けたいし、今のうちに野宿に慣れておくべきだ。
野営の準備は、ゼノンによって呼び出された姫直属部隊が進めていた。
周りがテキパキと寝床の準備をしているのだが、イヴンは些細な異常に気が付いた。
部隊に所属している女性達がイヴンに触れないようにとビクビクしながら支度を整えている。
「メアリ、寝る準備が出来るまでここに座ってるんだよ」
イヴンは膝からメアリをおろして腰掛けていた切り株に座らせ、そこから少し離れようとした。
だが、寝ぼけながらもメアリが慌てて衣服をひっぱってきた。
「どこいっちゃうの??」
「ちょっと風にあたってくるだけ。すぐ戻るよ」
そう言って頭を軽く撫で、少し離れた木の幹に移動してからフードをはずした。
イヴンの身は、月の光の届かない木の陰にすっぽりおさまっている。
テオティたちの方に目をやると、先ほどまで動きずらそうにしていた女性達がテキパキと働き出していた。
「やっぱり、怖いよな…」
魔本を所持している自分なんて。
イヴンは白い手袋をはずして、手を数回開閉させてため息をついた。
すると、横から急に湯気の昇ったカップが突き出された。
「イヴンさん、お疲れさまです。
これ、どうぞ」
横を見るとビルマが腰を下ろして、飲み物を飲みながら自分にカップを突き出していた。
「ありがとう。
いただきます」
湯気の上がっているカップを受け取り、イヴンも冷ましながら飲み始める。
よく喋るビルマは「熱いんでよく冷ましてくださいね〜」といった後、珍しく黙って飲み物を飲んでいる。
おそらく、疲労のでているイヴンを休ませようと黙っていてくれているのだろう。
そんな気遣いにイヴンは微笑み、姫たちのいる焚き火の方に目をやった。
焚き火の傍では、メアリが相変わらずうとうとしており、頭をふらつかせている。
テオティがそんなメアリになにやら声をかけ、二人で笑い出す。
何が楽しいのかわからないが、こちらもつられて笑ってしまう。
そして、ついテオティの方に目がいってしまった。
金色の髪が炎に照らされて黄金に輝き、心が惹かれる。
目がはなせられず、イヴンはボーっとテオティの横顔を見つめた。
どのくらいその状態で静止していたのかわからない。
すると、ビルマが声をかけてきた。
「知っていると思いますが、テオティ様には許婚がいますからね★」
その言葉で我に返り、イヴンは赤面した。
「な、なにを勘違いしているんですか!!
からかわないでください!」
「勘違いですかー?
へー。ふ〜ん」
ビルマはニヤニヤと笑い、ご満悦の様子。
イヴンは挙げ足をとられないようにそれ以上反論をせず、口をつぐんだ。
すると、ビルマが違う話題を振ってきた。
「なんであっちではフードかぶってたんすか?
あ、女の子達が髪に触れたら魔本に入っちゃうからですか?」
そう言って、飲み物をいっきに飲み干した。
「それもあるんですが、月明かりが好きじゃないんです。
髪が白く見えるから…」
白い髪は悪魔の象徴。
イヴンはすでに飲み終えたカップの底を見て、ため息をついた。
どうして魔法貴族だけ、悪魔に近い髪色をしているのだろう。
平民や獣人は茶髪で、貴族は金・銀・白・茶以外のカラフル色、王家とエルフは金髪だ。
激しく落ち込むイヴンに、ビルマは勤めて明るい声音で答えた。
「髪が白く見えるくらい、いいじゃないっすか。
まだ、羽が生えてないんだし」
あははっ!と手をパタパタさせている。
「『まだ』?」
少しおかしい言い回しにイヴンは首をかしげた。
まるで近いうちに羽が生えるみたいではないか。
「あぁ、間違えました。
『まだ』なんていらなかったです。
人間には羽なんて生えませんもんねー」
ビルマは、これまたあははっ!と笑ってから立ち上がり、空になったカップをイヴンから預かった。
「寝床の準備が出来たみたいです。
行きましょう」
そう言うと、さっさと焚き火の方に行ってしまう。
イヴンもフードを被ってから火の近くへと向かった。
「メアリ!一人で寝れるだろう!?」
イヴンは寝床についてびっくりした。
メアリがテオティと寄り添って寝ようとしているではないか。
姫と平民階級の者が一緒の寝床で寝るなんてありえない。
「いいのです、イヴンさん♪
昨晩も同じベットでご一緒しましたし、かわいらしい寝顔は見ていて飽きません♪」
ケロっと当たり前かのように言ってくれたよ、この姫は。
「昨晩もですか!?
メアリ、だめだろ!」
同じ部屋だっただけでなく、同じベット!?
うらやましい!じゃなくて、王に知られたら罰せられる!!
イヴンはメアリを怒鳴りつけた。
それに対して、メアリはテオティの衣服をひっぱり、小声で反論する。
「でも、だって、一人じゃ眠れなかったんだもん。
テオちゃんが近くにいると温かくて気持ちいいし、いいにおいして、メアリが寝るまで頭撫でててくれて・・・うれしかったんだもん」
「一人で寝れる歳だろう?」
メアリの体は人間の12歳に達しているのだが、実年齢が6歳であり、人間の12歳より精神的に幼いのだ。
今まで男手二つ(?)で育てられてきたものだから、テオティから母親の温かみを感じたのだろう。
イヴンは声を荒げるのをやめて問いかけた。
すると、メアリの代わりにテオティが返答した。
「イヴンさん、私がメアリちゃんと寝たいのです。
私、全然眠くないので、メアリちゃんの寝顔をみているのが楽しくて。
ですから、怒らないであげてください」
そうだった。
テオティは魔本に入ったせいで睡眠を必要としなくなったのだ。
眠くもないのに眠れるはずがない。
長い夜は、テオティの方が寂しいのかもしれない。
「・・・姫様がそうおっしゃるなら」
イヴンからその言葉を聞くと、メアリはギュっとテオティに抱きついて笑みを作り、テオティも微笑んだ。
二人ともうれしそうだからいいか・・・。
そう思い、イヴンは少し離れたところで床についた。
翌朝、一行は8時頃に野営地を後にし、次なる街を目指して出立した。
今日の道は少し坂道になっており、イヴンたちの足取りを重くさせ、時たま出くわす悪魔達も王都から離れるにつれて徐々に数を増やし、旅を難航させた。
イヴンたちはその日の夕方に小さな街に到達し、翌日も早くから次の街に向けて歩き出した。
そして王都セオドルを出立してから6日目の夕方、一行は4つ目の街に到着していた。
ここは、街というより村。
木の柵で家々が囲まれており、ほとんどが畑なのだ。
「静かで美しいところですね」
まだ人がちらほらと農作業を続けている横を、テオティたちが通り過ぎる。
そうして村の奥にたどり着くと、小さな広場になっており、この村の全ての店が並んでいた。
メアリは中央にある噴水に興味を示し、一人で水をパシャパシャいじりだす。
そんなメアリの様子を見てから、イヴンは一つの店に目を留めて立ち止まった。
「ひどい・・・」
その店はペットショップ。
外からでもガラス越しに犬やネコを見ることができる。
だが、その中に人間の赤ん坊らしきものもいたりする。
本当に人間と言うわけではなく、耳と尻尾が獣である獣人だ。
獣人は人間の備えている能力に加え、その身に宿った獣の能力も備わっており、悪魔の次に身体能力が高い。
見かけは基本人間で、耳や尻尾・羽など、獣のものがくっついている。
(メアリはネコの獣人で、黒いネコ耳と黒い尻尾がついている)
そして、寿命がたったの50年。
人間の2倍の速度で成長するため、人間の寿命100歳に対してその生は半分。
だが、その急速な成長に精神面が追いつかず、見かけによらず内面が幼い者が多いと聞く。
「人間より勝っているのになんで」
イヴンは、ガラス越しに笑いかけてくる獣人の赤ちゃんに悲しいまなざしを送った。
すると、背中から声がかかる。
「でも、イヴンさんもネコちゃん飼ってるじゃないすか」
その時、イヴンの周りの空気が1℃下がった気がして、声をかけたビルマが一歩後退した。
「・・・メアリは魔法学校の中庭に捨てられていたんです」
直後、ビルマは『まずいこと聞いちまった』と舌打ちをし、テオティが悲痛な顔でイヴンに話しかけた。
「イヴンさんが保護なさったのですね。
だから、メアリちゃんも寮の部屋を知って・・・」
そう言って、テオティとイヴンは噴水で楽しそうに水をいじくっているメアリに目をむけた。
「拾った当時、メアリはまだ1歳くらいで泣くことしか出来ませんでした。
そんな子を捨てるなんて、殺すも同然。
飼い主は最低です・・・。
ペットショップで獣人を扱っているのもありえません!
獣人は人間以上にすばらしい能力を持っているのに、ペットにして首輪をつけるなんて侮辱しています。
しかも、大人になったら自分の家でただ働きをさせるっ。
今、獣人が自由に暮らせるのは『獣人の都ロドゥルーナ』だけです。
こんなの、おかしいっ」
イヴンは岩の壁を叩きつけて、唇をかみ締めた。
どうしてこんな差別が生まれるのだろう。
「じゃあ、イヴンさんにとってネコちゃんは何なんですか?
ペット以外に何が?」
ビルマが本当に不思議そうに首をかしげてたずねてきた。
獣人がペットなのが当たり前だと思っているらしい。
「家族です。
血は繋がっていませんが、今の俺の家族はメアリと師匠なんです」
もう二度と失わないと誓った大切な・・・大切な家族。
その夜、宿に着いた一行はそれぞれ床につき、二日ぶりの居心地のいいベットで熟睡した。
・・・二人を除いて。
夜11時頃、イヴンはテラスから聞こえる物音により、浅い眠りから目を覚ました。
誰かの足音のようなそれは、この部屋のテラスからではなく、隣のテオティとメアリの部屋からのようだ。
テオティが長い夜の寂しさを紛らわすために、テラスに出たのだろうか?
イヴンは上着を羽織ってから、自らもテラスに足を向け、手すりに身を乗り出して隣を窺った。
すると、予想通りテオティがテラスに一人佇んでいた。
彼女は純白の夜着の姿で、微笑みながら夜空を見上げている。
その視線を辿ると、夜空に浮かぶ満月にいきあたった。
「綺麗な満月ですね」
イヴンが、テオティの孤独な時間を少しでも減らそうと声をかけると、彼女は驚きながらも満面の笑みで答えた。
「イヴンさん♪
あっ!私が起こしてしまいましたか?」
最後はしょげた顔をされた。
そんな彼女に、イヴンは優しく微笑んで答える。
「いいえ。俺も月を見に出てきただけです」
二人は互いに微笑み、また同じ満月を見つめ始めた。
イヴンは、旅を始めてからテオティに確かめたいことがあった。
彼女はなぜ、魔本から守ることが出来なかった自分をかばったり、理解しようとするのだろう。
そして、王との謁見前に言ったあの言葉・・・
『謝らなければいけないのは、私の方です・・・』
あれはどういう意味なのか。
今こそ聞くときだ。
「姫様、よろしければもう少し近くで月を見に行きませんか」
このままでは距離が離れているので喋りづらい。
「近く・・・ですか?」
テオティはきょろきょろと周りを見て、首をかしげた。
今いるテラスより高い建物が見受けられないのだ。
そんな彼女を見たイヴンは、足元に淡く光る魔法陣を出現させ、テオティのいるテラスの前まで宙に浮いて見せた。
「あの木までお連れいたします。
かなり高いですが、平気ですか?」
眼前にフワッと現れたイヴンに彼女は瞳をキラキラさせて、差し出された手に自分のそれを重ねた。
「高いところは大好きです」
二人はその村で一番高い木に近づき、太い枝の上に腰を下ろした。
先ほどより、数倍満月が近くに見える。
「姫様、こちらを。
葉で傷つかないよう」
羽織っていた上着をテオティの肩にかける。
「ありがとうございます。
本当にお優しいですね、イヴンさんは」
彼女は、肩にかけられた大きな上着に手をそっとあてて微笑んだ。
だが、イヴンにはその笑みが本物じゃないことがわかってしまった。
嫌々誘いを受け入れたのだろう。
彼女の顔は翳り、明かに無理して笑っている。
この悲しそうな顔を自分がさせているかと思うと、イヴンは胸が痛んだ。
「辛い想いをさせてしまい、申し訳ありません」
本当は明るい話でも1つ2つしてから本題を切り出そうとしたが、彼女の反応を見たら到底そんな気分にはなれなかった。
愉快な話をしても、心から笑ってはくれないことがわかったから。
「・・・どうされたのですか?
私は、イヴンさんやメアリちゃんと一緒にいられて幸せですよ」
テオティは、きょとんとした顔でイヴンの顔を見てきた。
不思議そうな表情をし、どうして辛いと言われているのかわからないらしい。
イヴンは例を一つあげてみた。
「本日も長い夜をお一人にしてしまいます」
「ですが、今はイヴンさんが一緒にいてくださいます」
「・・・」
返す言葉が見つからない。
姫は自分が思っているより気にしていないのか?
いや、だったら時々見せる寂しそうな表情はなんだというのだ。
わからない。
辛くないわけがないのだ。
年頃の女の子が故郷を離れ、環境の悪化に耐え、お腹がすかない上に眠れない。
自分に気を遣わせまいと強がっているのだろうか?
こうして沈黙を守っていたイヴンに、テオティから声をかけてきた。
「・・・いつも気にしてくださっていたのですか?
私より、イヴンさんの方がお辛いのに。
心労をおかけして申し訳ありません」
またそう言う。
「どうしてあなたは!・・・ぁ・・・なぜ、姫様は私の方が辛いとお思いなのでしょう。
私の苦労は自業自得で、姫様がお辛いのは私の力がいたらなかったからです。
王やあなた様を守るために選ばれたガーディアンなのに、魔本に入れて、主にまでなってしまった。
悪魔も・・・逃がしました。
あなた様を不幸にしてしまった私を、もっと責めていただいてかまわないのです」
イヴンはいい終わってから、首をかしげた。
何か違う。
自分は、姫の前で反省会をしたいんじゃない。
これでは、一方的に自分の気持ちを訴えているだけだ。
姫の気持ちが窺えない。
だが、結果的によかったようだ。
二人は、お互いの気持ちを知ることがなにより必要だった。
「イヴンさんを責めるなんて筋違いです!
イヴンさんは、私のことを恨んではいらっしゃらないのですか?」
「姫様を恨む?
今までにそのように思ったことは一度もありません」
まさかの質問に耳を疑った。
今までの経緯で、どこをどうとったら彼女を恨むことになるのだろう。
それこそ筋違いもはなはだしい。
「私が足手まといだったせいで、片目を失明なされたのに・・・?」
テオティは強くスカートを握り、顔を伏せてしまった。
この姫は、今までそれを自分のせいだと思っていたらしい。
イヴンはさっきも言ったとおり、失明したのは自業自得だと思っているため、この姫の言葉に驚いてしまった。
「先ほども申し上げましたが、この事態は私の力不足が招いた事態であり、決して姫様のせいではありません」
「でも・・・」
俯いていた彼女は顔をあげ、イヴンの顔色を窺っておどおどしながら言葉を捜している。
イヴンは、そんな彼女を安心させるように笑いかけてみた。
本当は言葉をかけてあげたかったが、また『でも』と言われそうだったので、黙って答えを待つことにした。
すると、彼女は少し戸惑う様子を見せながらも、背筋を伸ばして笑顔を返してきた。
「私達、お互いに気にしすぎていたのかもしれませんね」
照れくさそうに笑う彼女は楽しそうで、今まで感じていた不安そうな表情は微塵も見当たらない。
よくわからないが、イヴンは嬉しくなって、つられて笑い、お互いにクスクスと笑いあった。
村人達が眠りにつき、人っ子一人見当たらない静かな村で小さい笑い声がこだまする。
だが、それは突然止まった。
「あ!私、気にしすぎて言えなかったことがあるんです!」
テオティが笑いを止め、ポンっと手をたたいてから、キラキラさせた瞳をイヴンに向けてきた。
イヴンは突然の事にただ止まる。
「何でしょう?」
彼女は胸に手を当てて、深呼吸をしてからイヴンに向き直った。
「イヴンさん!
私とお友達になってはいただけませんか!?」
「え!?・・・はい?」
イヴンはこの後、『我ながら、なんて気の利かない反応だろう』と後悔した。
彼女はこの一言に、顔を紅潮させてまで緊張していたようなのだ。
顔を細い手で覆い隠して、ちらちらこちらを窺っている。
「え、えと。おかしかったですか?
私、『お友達』という方を自分から作ったことがなくて、どうすればいいのかわからないのです。
いつも、お父様が決めてしまわれるから。
メアリちゃんと仲良くなれたのは、奇跡のようで・・・」
奇跡ですか。
自然に解けこんでいたように見えたが?
しかし、そんな意地悪なことは言わず、親しげな笑顔で返事をした。
「私でよければ、喜んで」
この答えを聞いた途端、彼女は顔を隠していた両手をはずしてはじけるような笑顔を見せた。
「ほ、本当ですか!?
ありがとうございます!
とても嬉しいです!!」
子供でも、友達ができてこんなにはしゃぐ者はいないだろう。
だが、イヴンと同い年と思われるテオティは、かなり興奮している。
指を1つ2つたたみ、それを見てニコニコと笑っているのだ。
もしかして友達の数だろうか。(俺、二人目?)
イヴンが首をかしげて、それを確かめようとした時だった。
テオティがピョコンと上半身を跳ねさせて、真剣な表情を向けてきた。
「あの!
この旅は人々を救うためのもので、一刻も争う過酷なものですが・・・イヴンさんは笑っていてくださいね。
私たちの方が明るく振舞っていなければ民の方々はもっと不安になってしまいますし、イヴンさんも民のお一人なのだから幸せでなければいけないのです!
そうです!そうですそうです」
一人で始めて一人で納得している。見ていて面白い。
だが愉快なだけでなく、イヴンは、こんな心遣いができる彼女に尊敬の念を抱き、自分がどうかこの人の気持ちを踏みにじらないような存在でありたいと願った。
そして、次の言葉を己と彼女に誓った。
「あなたは必ずセオドルにお帰しします。
俺の命をかけて」
仰々しい物言いにテオティは一瞬驚いたが、すぐさま笑顔を作ってそれに答えた。
「帰る時は、イヴンさんも一緒です!
誰一人欠けることなく一緒にセオドルへ帰りましょう」
「一緒に・・・」
「はい。一緒に」
そして二人は満月を見上げ、穏やかな気持ちに満たされた。




