第50話 二人きりのデートのあとは
グッズのことはおいおい考えるとして、本来の目的地であるゲームセンターなど一通り回った俺たちは、元の中央にある広場へと戻ってきた。
「よお、デートは楽しかったかい。お二人さん?」
「お疲れ様です。イス、諏成さん」
広場の敷地内にあるオープンカフェ。
そこで俺たちを出迎えたのはシキータとクローリスの二人であった。
……にしても、はたから見れば妙な組み合わせの二人だな。
赤毛をポニーテールにしたジーンズとタンクトップ姿のシキータと、黒髪をお団子にまとめてレディススーツを着こなすクローリス。
見事にカジュアルとオフィスの対照的な組み合わせであったが、配信者の多いライバータウンではよくある光景だな。別に服装規約は事務所にないのでクローリスも好きでスーツ姿でいるだけなんだけど。
パっと見では眼鏡をかけた理知的な美人……
まあ、その正体は課金戦士なんだけど。
「ご、ごめんなさい……お待たせしましたか?」
「いんや、ようやくゆっくり休憩してたとこさ。酒があったらよかったけど」
「喫茶店での形態ではアルコールの販売はできませんよ。私もちょうど周回を一段落付けましたので。どうやら、社長も十分に楽しめていたようですね」
「えへへ……時間を忘れちゃっていました」
クローリスの言葉に、恥ずかしそうに頬をぽりぽりとかくラッカリカ。
「だったら何よりだぜ。んじゃ、さっさと買い出しに行っちまうか?」
「……悪い。みんなで先に行っててくれないか?」
席を立った二人にラッカリカを任せ、俺は一歩みんなから離れる。
ピクリ、とシキータの眉が動いた。
「なんだよ兄ちゃん、トイレか?」
「濁したのに言うなよ……」
からかうように肩を組んできたシキータをやんわりと引きはがし「後で連絡する」とだけ言って俺は彼女らと別れた。
……さて、と。
ラッカリカのことはシキータたちに任せるとして。
ここレスピタルはライバータウン一番の商業施設だけあって人が多い。
俺はそんな人だかりから離れるようにしてしばらく歩き、そして足を止めた。
立体駐車場で繋がる連絡通路の一つ。
近くにめぼしい店がないことからあまり使われることのない通路で足を止め、俺はゆっくりと背後へと振り返る。
「それで、俺にいったい何の用だ?」
俺の言葉に応じる声はなかった。
当然だ。
ここにいるのは俺一人だけ。
トイレどころか自販機の一つもないし、誰かが通ることだって少ない。
まったくの無人と言っても過言じゃなく、もし監視カメラ越しに警備員が見ていたら「なんだこの中二病は?」と呆れていることだろう。
……ま、ただの連絡路だからちょうど死角になってるんけど。
しかし、動揺する気配はあった
「誰だか知らないが、俺に用があるなら早く出てくることだ。それとも、お前たちは好きな女を口説く時もそうやってコソコソとストーキングするのか?」
見え透いた挑発。
しかし、素人相手には効果てきめんだった。
「テメェ――」
「お、一人目だな」
我慢できないとばかりに物陰から人影が飛び出してくる。
ヤンチャそうな少年だ。
俺の挑発に対し激高した様子の彼は、怒鳴り声と共に手に持っていたモノをこちらへ投げつけてきた。
――爆竹である。
すでに火が付いている。
普通に危険行為なのだが……ダンジョンのモンスターと比べればいささか危険に欠けるな。
パァン!
俺が避けた爆竹がすぐ背後で炸裂。
けたたましい音が通路に響いた。
「――ええい、こうなっては実力行使もやむなしですぞ!」
それによって尻に火が点いたのか分からないが、最初の少年に遅れて物陰からさらに人影が飛び出してきた。
今度は丸眼鏡と細身が特徴的な、いかにもオタクらしい男。
彼の手には折り畳み式のナイフが握られていて、同様に少年の方もポケットからナイフを取り出して、二人がかりで俺に突貫してくる。
「お前が二人目だな?」
「なんと――」「マジかよ……」
リーチの短いナイフを大きく振り回すように切りかかってくる二人。
その上で腰が引けているので避けるのは簡単だ。
……やはり素人だったか。
「確認するが……《《これで全員》》だな?」
「「は?」」
前方の二人と間合いを開けながら俺は半身をずらす。
瞬間。
俺の背後から振り下ろされたバッドが床を叩いた。
「「「――――ッ!?」」」
「襲ってきたのは三人。まだいるならさっさと出てくるのをおススメするが」
三人目の襲撃者は小太り気味の男だった。
俺が背後からの不意打ちを先読みしていたことに動揺したのか、三人が驚きの表情を隠せないまま俺から距離を取る。
……そりゃ、正面から対峙した状態で俺のすぐ背後に向けてアイコンタクトされたら普通に気付くさ。
全員の動きを見ても得物は使い慣れていないし、最初の突発的な襲撃からなし崩し的に襲い掛かってきた連携はバラバラ……まあ、目的もおおよそ検討が付く。
「「「…………」」」
「……いない、な?」
ならば、と。
俺はニヤリと悪い笑みを浮かべ、ポキポキと拳を鳴らした。
「次は俺の番だ」




