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第117話 楽しい時間を終えて

 未代(みよ)、そして秋水(しゅうすい)の自宅。

 皆切(みなきり)宅はファミリー層向けの分譲マンションの一室で、俺たちが暮らす事務所兼シェアハウスと同じ位の広さをしていた。


 こ、こんな所でも生活水準の差が……


 それはともかく、俺たちはせっかくのお誘いということでラッカリカたちにもう一泊する旨を連絡してから皆切(みなきり)夫妻のご厄介になったのであった。


 夕食もご馳走になって、お酒もあったことからゲームの話や俺たちの昔話、それから互いの近況などでとても盛り上がり――


「――どうだったよ入浪(いろう)。二人の調子は?」

「ありゃダメだな……ぐっすり酔い潰れてた」


 未代(みよ)とクローリスを寝室のベッドに運んでダイニングへ戻ると、夕食の片づけを終えた秋水(しゅうすい)がエプロンを外していた。


 ついさっきまで騒いでいた未代(みよ)とクローリスがいなくなったことで、モダンスタイルなダイニングには落ち着いた静寂が流れていた。


 ようやく一息つけるな……

 

 なんて俺が思った矢先に、コツンと物音が響いた。


「……まだ飲むのかよ?」

「これから飲むんだよ。未代(みよ)たちがいたときは料理に酒にって色々やってたんだからな。夜はこれから、だろ?」


 なんて言いながら、カシュッと缶ビールを開ける秋水(しゅうすい)


 テーブルにはカルパスや柿ピーと言ったコンビニで買えるようなツマミたち。

 そして、まだ開けられていない缶ビールが一つ。


「オメーもまだいけるだろ、入浪(いろう)?」

「俺はそれなりに飲んでたんだがな……」


 秋水(しゅうすい)が料理担当なら、俺はクローリスと未代(みよ)の話し相手を担当していたようなものだ。


 それなりに酔ってる自覚はあったが……そんな言い訳で秋水(しゅうすい)が逃してくれるはずもない。


 俺は肩をすくめてから缶ビールを受け取ってテーブルに着いた。


「それじゃ」

「お疲れさん」


 言って、俺と秋水(しゅうすい)は缶ビールで乾杯した。


 ……さっきまでがそれなりにいいお酒を飲ませてもらっていたけど。


 こうして落ち着いた雰囲気で安いツマミで缶ビールを飲むというのも、これはこれでオツなものだ。


 なんて、しばらく低コストな幸せを味わっていると。

 タイミングを見計らったようにして秋水(しゅうすい)が口を開いた。


「それで?」

「……何がだ?」

「クローリスさんとはもうヤったのか?」


 俺はゆっくりとビールを飲み下してから、大きな嘆息を吐いた。


「なんだ。驚いてビール噴くかと思ったのに」

「……吹きかけてほしかったのか?」

「まさか。ヤローにぶっかけられる趣味はねーよ。テーブルも汚れちまうしな」


 秋水(しゅうすい)が缶ビールをあおる。


「そういうお前こそ、未代(みよ)とはどうなんだよ?」

「円満そのものだぜ?」


 やはり秋水(しゅうすい)もビールを噴き出すようなことはしない。


 ボリボリと柿ピーを食べながら彼は続ける。


「やることはそれなりにやってはいるが……DGLがあるからな。アレの運営が落ち着くまでは、それ以上はお預けって所だ」


 ……意趣返しのつもりだったが、思いのほかしっかりとした回答が返ってきた。


「オメーもデキたらちゃんと責任取れよ? 入浪(いろう)のことだから寝込みを襲われたり強引に迫られたりするだろーからな」

「余計なお世話だ。そんな状況になるわけがない」

「さーて。どーだか」


 ニヤニヤと楽しげに笑う秋水(しゅうすい)


 俺の恋愛事情はお前の娯楽じゃないんだがな……


 まあ、とはいえ。


 正直エピライブに入ってからはそれなりに身の危険を感じたりするので対策はちゃんとしているつもりだ。

 ……なんで対策を講じる必要があるかは考えないものとする。


 なので秋水(しゅうすい)が思うようなことにはならないだろう。


 ……たぶん。


 それから、俺たちは取り留めのない話を続けることしばらく。


 いつの間にか秋水(しゅうすい)は缶ビール数本を開けて、俺もチビチビ飲んでいた缶ビールを飲み切っていた。


 ……流石に飲みすぎたな。


 秋水(しゅうすい)もそれなりに飲んだはずだし、そろそろお開きにしてもいいだろう。


 そう俺が切り出そうとした矢先、秋水(しゅうすい)がポツリと言った。


「にしても……入浪(いろう)が元気そうでよかったぜ」

「……いきなりなんだよ。お前は親戚のおじいさんか」

「兄貴分ではあるだろ?」


 軽口に軽口で応じながら、俺はふと秋水(しゅうすい)を見つめた。


「……秋水(しゅうすい)は変わったな」

「何年経ったと思ってんだよ。お互いにもう酒が飲める年になってんだから、いつまでもガキのままじゃいられねーだろ」


 飲み切った空き缶をテーブルに置いて、秋水(しゅうすい)は俺を見た。


「で、だ」


 ――まるで、俺の奥底を見透かすかのような視線。


 それをもってして、秋水(しゅうすい)は問うた。


「いつまで()()()()()()()()()を追ってやがるんだ?」


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