3話
撮影は順調に進んでいた。
ユウトの妄想世界は、映像として形になり始めていた。
照明の当たり方、役者の表情、カメラの動き。
どれも、ユウトの脳内劇場をなぞるように、現実の空間に再現されていく。
だが、違和感は日に日に濃くなっていった。
「このシーン、君の“第9話”の続きだよね?」
レンが言ったとき、ユウトは首を傾げた。
「……第9話、俺、まだ投稿してないよ」
レンは一瞬、言葉に詰まり、苦笑した。
「そっか。じゃあ、俺の妄想だったのかも」
その言葉に、ユウトの胸がざわついた。
レンの妄想と、自分の妄想が、どこかで重なっている。
それは、偶然なのか。
それとも、もっと深い何かがあるのか。
撮影が進むにつれ、ユウトは“妄想の中のキャラクター”が現実に語りかけてくるような感覚に陥った。
夜、眠る前。スマホを見つめながら、ふと聞こえる声。
「君が書いた物語は、誰かの記憶に触れてる」
「だから、俺はここにいる」
ユウトは、ベッドの上で身を起こした。
誰もいない部屋。
でも、確かに“誰か”が、自分の妄想の中に入り込んでいる。
ある日、レンがユウトを大学の屋上に呼び出した。
夕焼けが、校舎の壁を赤く染めていた。
「俺さ、昔、妄想でしか生きられなかったんだ」
「高校のとき、現実が怖くて、ずっと脳内で物語を作ってた」
「“記憶を操る転校生”って設定、俺も考えてた。
でも、ある日、全部消した。現実に戻るために」
ユウトは、言葉を失った。
自分の妄想が、レンの過去の妄想と一致していた。
それは偶然ではない。妄想は、記憶の残滓。
誰かの“忘れたはずの世界”が、別の誰かの中で再生される。
「君の投稿を見たとき、思い出したんだ。俺の“あの世界”を」
「君の妄想は、俺の記憶を呼び起こした。
だから、俺は映像にしたかった。
君の妄想を通して、俺の過去に触れたかった」
ユウトは、胸の奥が熱くなるのを感じた。
妄想は、誰かに触れるための“祈り”だった。
そして、レンはその祈りを受け取った。
「俺の妄想って……誰かの記憶に触れてる?」
ユウトの問いに、レンは静かに頷いた。
「妄想は、孤独の中で生まれる。
でも、誰かに届いた瞬間、それは現実になる」
「君の妄想は、俺の現実を変えた。
だから、俺は君に触れたかった」
夕焼けの中、二人の影が並んで伸びていた。
妄想と記憶が交差する場所。
それは、現実の“その先”だった。




