03 柳橋美湖 著 道 『北ノ町の物語 96』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。ダンジョンの試練を達成し、第三の女神となったクロエ。さらにもう一つ待ち構えた最後の試練は、恋!
Ⓒ奄美「白鳥さんと」
95 道
皆さん、ご機嫌いかがですか、クロエです。異世界で伴侶を選ぶ最終〝試練〟を受けている最中。求婚者は三人のうち、瀬名さん、浩さんと個別ミーティング。そして最後の一人の白鳥さんと……。
◇
池の北端に張り出した半島のような場所には東屋が佇んでいます。
東屋にはテーブルと椅子。出迎えた白鳥さんにエスコートされて着席した私。
白いジャケットを羽織った白鳥さんが、指をパチンと鳴らす。すると卓上に、お茶請け皿のビスケット、ソーサーに載ったカップが二つ、それから、一つ目玉の蝙蝠・使い魔ちゃんが現れて、お給仕を始めます。――さすがは魔界の貴公子というところでしょうか。
東屋の背後には、級羊羹を地面に突き刺したかのような、高さ5メートルくらいの石柱が5本並んでいます。
白鳥さんは、銀色の髪、色白の肌、碧眼、細身で長身。
紅茶を飲み干すと、挨拶に続ける、よくある庭園や空模様といった軽いおしゃべり。二杯目の紅茶のあと、いよいよ本題。
(あ、やだ、白鳥さんたら――)
カップを置いた私の手に、手を伸ばしてきて絡める。
視線が重なる。私は頬がほてってくるのを感じている。
どくん、どくん……。
鼓動が高鳴ってゆきます。
◇
白鳥さんと最初に出会ったのは、上野発の寝台急行列車で、お爺様たちのいる北ノ町へ向かう途中での出来事だった。次に会ったのは職場であるマダムの烏画廊。いつでも派手な登場で、私をさらっていこうとする。その度に、マダムやお爺様一派が私を、「魔の手」から守り切ってくださいました。退却するときも彼は華麗だった。――私はそんな彼の後ろ背を目で追ってしまったものだった。
神隠しの少女救出のため、異界へむかう軽便鉄道と鉄道連絡船での旅で、白鳥さんは、お爺様一派・パーティーに助太刀として加わり大活躍。私たちは目的地、竜骨ノ谷にたどり着きます。そこで神隠しの少女の正体が、異界の第二女神である母・ミドリで、少女をさらった死神の正体が、お爺様・鈴木三郎だったということが判明します。
第一女神のお婆様・紅子が、見習い女神として覚醒しだした私に、試練を課します、「浮遊ダンジョン〝トロイ〟十三階層の頂まで攻略し、異界に生じた異常を修正なさい」と。
命じられるまま私は、瀬名さん、浩さん、そしてマダムと一緒に、頂を目指しました。
白鳥さんは、父母やお爺様と一緒に、魔物たちを配下にして、私たちに襲い掛かるディフェンス側。階層ごとに出没。手加減なしの攻撃でしたが、時たま、口説いてくることがありました。――でも正直、嫌いではなかった。
◇
ところが……
テーブル越しで私の手に手を絡めてきた白鳥さんが、意外なことを口にしました。
「クロエ、僕はこのゲームを降りるよ」
突然の白鳥さんの言葉にパニックを起こした私。白鳥さんが続けます。
「僕はさ、クロエにとっての騎士でありたかったのさ。ちょっと頼りないけど愛おしい僕の妻、魔界の貴婦人になって貰いたかったんだ。それがどうだ。今や君は、僕の助けなど必要としない、この世界の強大な三女神の一柱になってしまった。――僕が君の伴侶になった場合、僕は魔界貴族から女神の眷属に、属性が変わってしまう。そうなるのもよし、否、アイデンティティーが僕のすべて。――なんて押し問答を心のうちでやっていたよ」
そして、決断を出したのですね?
――ごめん、クロエ――
白鳥さんが、私の手をとり口づけし、それから恭しく宮廷流のお辞儀をして後づさると、背後にある五本の石柱の真ん中で、手を振ります。
だんだん、白鳥さんが霞んでゆく。
涙が出てきちゃいました。
白鳥はどこまでも残酷な人。彼が魔界へ消えるのと入れ替わりで、私の腕には赤い薔薇の花束が残されていました。
◇
私、ふられてしまいました。逃した魚が大きすぎです。
それでは皆様また。次回にお会いしましょう。
By クロエ
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。




