02 柳橋美湖 著 分岐点 『北ノ町の物語 94』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立ち、見事、免許皆伝。見習から第三の女神に特進したクロエの新たな〝試練〟は恋!
挿図/Ⓒ奄美剣星「橋の上で」
94 分岐点
皆さん、ご機嫌いかがですか、クロエです。見習から正規の女神となるための浮遊ダンジョン〝トロイ〟での試練が終わり、終生を共にする伴侶を選ぶことになりました。
◇
「クロエを射止めるのは誰かしら?」お婆様が微笑んで、私を送り出しました。
行先は、桜満開の並木に囲まれた、蓮の花が咲き乱れる庭園。なんてでたらめな季節感。されど美しい、「心」という字の形を表した池の畔を歩いてみる。
池には中島があり、太鼓橋で、向こう側へ通じていました。
求婚者三人のうちから一人を選ぶときが来ました。三人とも、今まで旅を共にしてきた仲間であり、皆頼もしい。そう私は考えていました。
三人のうち、最初に現れたのは、瀬名さん。
瀬名さんは、子供のころ、母ミドリの弟分だった人で、大人になると、北ノ町でお爺様の顧問弁護士になっていた人。そして私を、北ノ町へ連れてきてくれた。スーツが似合うノッポな小父様。
歳の差がある。これから始まる夫婦生活というものの中で、行き違いは生じまいか。
今の世の一般常識として伴侶は、同世代を選ぶもので、年の差婚というのは避けられる傾向にある。――というか異端者扱いされるというものです。
橋といえば、『マディソン郡の橋』という映画がある。古い屋根付き橋を撮影にやってきたカメラマンが、農家の主婦と恋に落ちる。主婦はカメラマンを愛しつつも、生き方が違うから、けっきょく別れてしまうことになることを予見し、カメラマンの求愛を断り、家族とともに生きることを選んだ。
池の水面を泳ぐオシドリが羽ばたきました。
今は、否定されてしまったのだけれども、心理学の学説に、「吊り橋効果」というものが提唱され、こういう不安定な場所に揺らされていると、危機感から、恋に落ちやすいというものです。――頑丈そうな橋なので、いずれにせよ、その効果はなさそう。――でも、逆に言えば安定感があるということでもあります。
瀬名さんは、控えめだけれども、少し離れたところから、さりげなく私をサポートしてくれたことを理解している。
五分ほど瀬名さんと話をする。私は次の場所へ。太鼓橋を振り返ると、愛らしい男の子の姿をした守護者・護法童子くんが顕現して、手を振っていました。――あの子はご主人様が大好きだ。そして私が彼とくっつくことを強く切望している。――出会ったばかりのころ、媚薬効果のある〝桃〟を私にくれようとした。もし食べていたら、私は瀬名さんにぞっこんになっていたはず。そういう意味で問題児。でも憎めない。
◇
橋の向こう側にある中島では従兄の浩さんが待っていました。
それでは皆様また。次回にお会いしましょう。
By クロエ
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。
●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。




