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十四話「酒屋」








「ぶーん。ぶんぶんぶーん。原付ぶーん」




休日前の夕方は、なんとなく心が躍る。

きつい仕事を終えて、原付で帰路についている時なんかまさにそうだ。


今日はいくらでも夜更かしできるから、これから気分のままに寄り道するぐらいはできる。



ぶっちゃけどこにも寄らずに家に帰るのはなんだか味気ないから、どこか寄りたいものだ。






「どこに寄ろうかな」



綺麗な夕焼け空を見上げながら頭を回す。

いつものコンビニやスーパーは気分じゃないし、どうせなら普段は行かないところに行ってみたいな。




「本屋……読みたい漫画もないしなぁ。今月のゲームも食指疼かんし」


場所が浮かんでは消えて、また別の場所が浮かんでは消える。

どうにもこうにも、寄ってみたいってなる場所が出てこない。





「あ、待て。この先にあの酒屋あったよね。割と最近に新しい納品先になったやつ。……今日はあそこの酒を飲もうっか」











今日寄った酒屋は、ちょっと特徴的なラベルをした日本酒をウリにしている酒屋だ。

一文字の漢字が中心に描かれている、そういうお酒だ。


だから当然、そのお酒を買った。

帰って飲むのが楽しみだ。








「ただいまだぞにゃん助ー」


うっきうきのほっくほく顔でアパートに着いて、ベッドの上に転がっていたぬいぐるみのにゃん助に飛びつく。

割と前にデパートのゲーセンで手に入れた、俺の友達。

すごくモフモフ。



「今日は酒屋に寄って普段買わないような酒買ったぞー。今日それ飲むぞにゃん助ー」


にゃん助を抱きしめながらベッドの上を寝転がる。

まだ飲んでないのになんか酔っているみたいだ。

もふもふ。





「とはいえ、お酒冷蔵庫に突っ込んでしばらく冷やさないとなー。その間、ゲームでもしようかね?」



にゃん助の頭を撫でながらゲーム機が繋がるテレビの方を見やる。

ちなみにお酒はもうすでに冷蔵庫に突っ込んであるから、後は本当に冷えるまで時間を潰すだけなのだ。


その時間を潰す方法が問題だったりするのだが。

今手元にあるゲームは一通りクリアしてしまっていて、リプレイするには若干飽きているのだ。

もっふー。





「もっふー」


とはいえ、今のこの身にはにゃん助のもふもふがある。

このもふもふがある限り、多分勝つる。

もふもふがあればおれはむてきなのだー。








「……とりあえず風呂だけ先に済ますかー」











「うまうま」



今日の晩御飯は、スーパーで買った冷凍の竜田揚げ。

割といつもの感じだ。

いつもの感じでうまい。

だからスーパーに寄るたびにこれを買うのだ。

うまい。




「さて、お待ちかねのお酒じゃーい」


それを半分ぐらい食ってから、冷蔵庫で冷やしていたお酒をグラスに注いで飲む。




「やっぱりあまーい」


そう。

このお酒、日本酒の癖してかなりフルーティーな味なのだ。

あまりにもフルーティーすぎて初めて飲んだ時はすごくびっくりした。

少なくとも日本酒と思って飲むものじゃねぇ。




「……いやまじであまい」


とはいえ、そうでなかったらおいしいかなーと思って今回二本目を飲む。

なんとなくチューハイのようで、でもやっぱりチューハイじゃない。

それが独特の癖になって、まぁたまになら悪くないという感じのお味だった。





「にゃん助ー……」


とはいえ、だ。

それはつまり当面はもういいやって感じということである。


この酒が不味いというよりは、ただ単にこの身の舌と合わなかったというべきか。

普通に酔うなら、いつものチューハイとかスーパーで売ってる安い日本酒とか、そういう飲み慣れたものがいいだろう。



今回あの店によって得た収穫は、前回と全く同じそれだった。




「なんだかままならないにゃんよにゃん助ー」











「おや、えらい別嬪さんがおるのぉ。あんな可愛い娘、この辺でおったかのぅ」

「ええ、あの娘はうちへ納品しに来るドライバーさんなんです。酒に興味があるみたいで」

「え、成人してるの? どう見ても中学生じゃろあの娘」

「納品は何回か来てますし、二回は酒を買っていかれますし、一応その時に免許証見せてもらいましたから大丈夫ですよ。……私も最初はびっくりしましたけど」

「はへー……。世の中には不思議なことがまだまだあるんじゃのう……」








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