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とある異世界旅行記  作者: 字
7/9

彼のスローライフ(仮)

 ルケと川辺で暮らしはじめて、一週間が経った。


 ルケと共に過ごすにあたって、藤麻が最初にした事は魚の生け簀造りだった。

 ここは日本ではない。空に飛行機も見えない。人間どころか文明も無い可能性が高い。ならば有るかもわからない人里を探すより、ここで暮らして行く覚悟が一番必要な物だろう。

 そんな中、ルケと出合えたのは大変心強い。なので彼が好きな魚を食べてもらうべく、一先ず再び多めの魚を蓄える為に生け簀をつくったのだ。

 ちなみに便宜上彼と言ったが、ルケの性別はわかっていない。彼の下半身は毛が多く、普通に後ろから見ても何も見えない。流石にこの知的生命体を持ち上げて股間を覗き込み「オスだ!」とかしたくない。メスなら更にまずいだろう。

 セクハラ、ダメ、絶対。

 ちなみに藤麻が水浴びする時はルケも後ろを向く。その点の気の使い方も人間と同じようだ。


 ルケは時々藤麻から離れてふらりとどこかに行き、木の実や果実や花を土産に持って帰って来る。だが、狩りをしてくる事は無い。肉を食べないのかとも思ったが、落ちていた鳥(っぽい生き物)の死骸は美味しそうにバリバリ食べていたので、肉も好きなのだろう。ライオンの生態に詳しくはないが、幼い子ライオンが狩りをするとも思えないので、狩りの仕方がわからないのかも知れない。

 そう考えると、彼の食事として獣も穫った方がいいのだろうかと藤麻は考える。この川辺に暮らすようになって、時々小さな小動物は見かけていた。鋭い爪と太い前足を持つ耳の長い(うさぎというには憚られる)獣や、蛇のように胴が長く、毛も長いげっ歯類の顔をした獣?などなど。

 大きさもそんなに大きくないし、罠を張れば捕まえられそうな気もする。

 ただ、捕まえて殺せるのかと言うと話は別だ。

 魚は馴れた。カッターは油で鈍らになったので、石を石で削ってナイフにした物を今は使用しているが、それで魚をさばくのは今は何も考えずに出来る。

 だが哺乳類はどうだろうか。

 そんな風に迷ってしまう自分のヘタレさに嫌気がさしながらも、藤麻は決断出来ずに居た。


 夜、焚き火の側で藤麻が座り、タオルを肩にかけるとルケも側に寄り添って眠る。

 朝になると火は消えて居るが、ルケが居れば心強かった。

 その日も朝に共に目を覚まし、顔を洗い歯を磨く。火を付けて捌いた魚を焼いて二人で食べた。

 本日ルケは出かけるらしい。

 もにもにとルケが何か鳴いて、森の中に入って行く。相変わらず何を言っているのかは解らないが、藤麻は「いってらっしゃい」と声をかける。

 藤麻は今日は、鍬を作る予定だ。と言ってもナイフと同じように、石を叩いて鍬風の物を作るだけだが。

 ルケが取ってきてくれた果物の種を取っておいたから、埋めてみるつもりなのだ。

 日本でも園芸や庭仕事など、草むしり以外やったことは無かったから、上手く育てられるかは解らない。だが、どうせ時間は腐るほどあるのだ。何事もチャレンジだろう。

 一先ず服を着替え、昨日着ていたものを手で洗濯する。

 ここに来てしまったのが合宿帰りで良かったと、つくづく藤麻は思う。お陰で何とか着替えを出来る。

「ま…この生活が長くなれば、服も駄目になっちゃうだろうけど」

 現に今着ているのは、あの蜘蛛に襲われた時の服で、あちこち切れて落ちなかった汚れも多い。状況が状況だから使っているが、日本だったら直ぐに捨てているレベルだ。

 物資は有限。大事に使いつつ、無くなった時に備えないといけない。

 そう心で言い聞かせつつ大きな岩の上に洗濯物を干し、鍬作りに取りかかる。

 まぁ鍬を使った事など無いし、見た記憶を頼りに薄目の石を叩き削って行くのだが。


 一心に削って、何とか形に成って来た時には日が暮れて来ていた。ルケもまだ帰って来ないから、時間の経つのも気付かなかったようだ。

 鍬擬きを石を退けた土に刺して見て、ようやく納得してうーんと伸びをする。

 体がバキバキと音を立てた。

「あー、固まってる」

 思わず漏れる独り言に、藤麻は苦笑する。言葉を発していないと言葉の出しかたも忘れそうで、出来るだけ独り言も言うようにしていたのだが、段々無意識に言葉が出てくるように成ってきた。

 体を伸ばしてストレッチをしていると、後の森からガサリと音が聞こえた。ルケも帰って来たようだ。

「おかえり、ゴハンにしようか」

 そう言って振り返ると、そこには見たことの無い一匹の獣が居た。

 頭が、二つ。犬…いや、狸か狐に近い顔と、ヘビっぽい顔が一つの体に並んでいる。

 体は虎とか肉食獣に近く見える。大きさは大型犬位か。

 フーフーと息を吐き、四つの目でこちらを見る獣に、藤麻は身を強張らせた。

 だが、すぐに気を持ち直す。

 あの蜘蛛と会った、あの時とは違う。もうすぐルケが帰って来るだろう。この獣がいる状態では、彼にも危険が及びかねない。

 獣から視線を反らさないまま、側に置いていたナイフを手にする。

 グワっと威嚇するように吠え、此方に駆けて来る獣にナイフを投げた。

 部活は弓道だが弓とナイフを投げるのは当たり前だか勝手が違う。

 ナイフは獣に当たりはしたが刺さりはしなかった。一瞬獣の視線をこちらから外させる事しか出来ない。

 それが藤麻の狙いだ。その瞬間を狙って先程作った鍬に手を伸ばす。

 武器としては作っていないが、破壊力は小さなナイフよりは上だ。

 だが、鍬を手にして構えるより先に、獣に突き飛ばされた。

「く、ァ」

 石の上を擦って止まった所を上からのし掛かられる。押さえ込まれた顔のすぐ上、二つの口がヨダレを滴ながら開かれた。

 痛みに顔を歪めながらも、鍬を掴んでいた右手を思いきり振り上げる。

「グ、ァァァ!」

「ガァァァ!」

 ヘビ顔が悲鳴を上げ、狸の顔が怒りに吠える。

 手に伝わる何かを刺した感覚を深く考えないようにして、鍬を獣から抜くと再び叩き込んだ。

 悲鳴を上げるより先に、狸顔が藤麻の肩に噛みついて来た。

「ヒ、グ」

 痛みに悶えながらも何とか鍬を抜き、もう一度攻撃を加えようとして血で手が滑った。

 鍬は手から滑り落ちて大きな音を立てる。

 痛みに霞む視線を向ければ、手の届きそうにない遠くへ、転がってしまっていた。

「く、そ」

 こちらの武器が無くなったことを理解しているのだろう、獣がニマリと笑みを浮かべた、瞬間。

 左手で握っていた鋭い石を、狸顔の目に叩き着けた。

 悲鳴を上げて転がる獣に蹴りを入れて、その体の下から抜け出すと、鍬を手に取り獣に思いきり振りかぶる。


 何度も何度も首に鍬を叩き混んで、二つの首を落とすと獣はようやく動かなくなった。

 手に残る嫌な感触。

 肩の痛み。

 疲れきってその場に座り込む。

 生き残った、ルケのことも危険に晒さないで済んだ。

 食べるためではなく奪った命だが、正当防衛だと自分で言い訳をして、苦笑する。

 こんな、命の危険のある場所だ。生きるために殺す。馴れて行かなくては、生き残れない。

 ルケが帰って来たら、肉を捌く練習もしないと、ああそれから、武器として弓矢を作ろう。後はもう少し殺傷能力の高そうなナイフとか。



 色々考えているうちに意識を失って、目が覚めたら直ぐにルケに傷の治る葉っぱを食べさせられた。

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