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5-6 若者たち-1

 どこからか、声が聞こえた。

 

 「私は、やったよ。死にかけた所から、ようやく、ようやく、……花ちゃんと比べる程のことじゃないけど、立ち上がってやったよ」

 

 そんな、どこかで聞いたことのあるような声が、確かに聞こえた。


 「キミは……!まさか、今になって、立ち上がったっていうのか!?何故だ、何のために!!」

 

 マアリの動揺した声が響く。いつしかアタシを踏み潰し続けるのも忘れて、この場に現れた誰かに注意を引かれているらしい。


 「……友達を助けるのに、理由はいらない、みたいな?」


 そんな薄っぺらい言葉とともに、猛スピードで()()()は突進してきた。

 

 「なっ!?」


 不意を突かれたマアリがそいつに突き飛ばされる。


 「馬鹿な!?」

 

 驚愕したマアリの声。開いた間合い。この場に乱入した()()()は、アタシに語りかけてきた。


 「さぁ、花ちゃん。しっかりしてよ。諦めちゃあ駄目だよ。諦める価値も、必要も無いんだから。聞いて、花ちゃん。アイツ……マアリはこの戦いが始まってから10日は経ってる、なんて言ってたけどね、ホントは5日しか経っていないんだよ。馬鹿馬鹿しい見栄はっちゃってまぁ。……だから、まだそんな風に諦める必要は無いよ」


 ……それが、どうしたってんだ。10日でも5日でも変わらない。アタシは、マアリに届かない、勝てない、殺せない。それは、変わらないだろう?関係ないことだろう?

 ――その思いが漏れ出していたのか……それに対する返答が返ってくる。


 「関係大アリだよ。“蜜”での戦いで最も致命的なのは、心を折られることだよ。マアリはね、5日を10日とサバ読んだのも意味がある。ちなみに、花ちゃんが殺されかけた回数も一億回、なんてこれもサバよんでる。精々、4千回くらいだよ。そうやって実際より絶望的に見せかけるために、花ちゃんにそう言ったの。タイミングもきっちり計って、一番衝撃的に聞こえるように演出して、ね」


 ふふ、と微かな笑いを漏らしながらアタシに話しかけてくる。()()()が誰だか……もうわかるはずだ。だけど、諦めかけていたアタシの頭はどうもドンくさい。

 この人は、誰なんだろう。アタシを助けてくれるこの人は、誰だっただろう。

 わからないけれど、なんだか、もう少ししたら――

 アタシはまた立ち上がれる気がする。


 「……マアリはね。恐らく、自分が何で強いのか知っているの。自覚してるかどうかは、わからない。――けれどね、花ちゃん。マアリがあんなにも強い理由、わかる?」


 ――それは。マアリが無限の力を持っているからで……


 「違う。『無限』じゃないのよね、コレが。マアリがとてつもなく強いのは、『単純にとてつもなく強いから』……それだけよ。『無限』なんかじゃないの。……だって、ホントに『無限』だったら、花ちゃん、とっくに終わってるはずじゃない。サバよんで、心を折ろうなんて小細工しなくてもいいじゃない。マアリの力には確かに、『限界』があるのよ」


 『限界』がある――?マアリに?あんな圧倒的なマアリに?


 「――花ちゃん、ずっと見てたよ。花ちゃんとマアリの戦いを。花ちゃんは殺されかける度に、“蜜”の力を使ってさらに強い身体を手に入れ、マアリに向かっていった。――その方法は、間違っちゃいなかったのよ。その方法でそのまま強くなり続ければ、きっとマアリに届いていたのよ――」

 「馬鹿馬鹿しい!!黙って聞いていれば!!春野花子があたしに届く訳が無いだろう!!あたしは、お前達が使う“蜜”の力の大本であり、だからこそ“蜜”を一番理解し、一番上手く扱えるんだ!!春野花子がいくら強くなっても、無駄だ!!あたしに届くことは、絶対に無い!!」

 

 マアリの否定の声が響く。だけど、何だか……

 

 「必死じゃない、随分と。ふふふ、何でそんなに焦っているの?」

 「……焦っている?」

 「マアリ、アンタは実は戦いにおいて戦略ってのをきっと自分でも思っているよりもずっと重要視しているのよ。花ちゃんの大鎌を傷一つなく受けているのを見せつけてみたり、一度は首を飛ばされて演出してみたり、数字をサバ読んだりして、花ちゃんの心を確実に折って勝利するため、戦略を練っていたのよ。『無限』の力を持っている、と花ちゃんに勘違いさせたくて、必死に頭を捻っていたのよ。自覚があるかどうかは知らないけれど、マアリ、アンタ結構計算高いわ。イイ感じの化けの皮を用意できたみたいね」


 さらに語気を強めた()()()の声が響いた。


 「アンタの化けの皮はアタシにはもう通用しない!“蜜”はね、確かにご都合主義な力かも知れないけれど、その限界は確かにあるのよ!私が何でさっきアンタを突き飛ばせたか、わかる?アンタと花ちゃんの戦いを見て、アンタだって私達と同じだって気づいたからよ!アンタも、戦う時は私達と同じように、勝つためにどうすればいいのか考えてるのよ!そうしないと、アンタですら『負ける』から!!本当に『無限』の力があるなら、そんなことをする必要は、無い!!それに気づいた私は、アンタの『負ける』可能性、『負ける』光景を思い描けた!!」

 「ば、馬鹿な事を!!」

 「私の思い描いた、アンタが『負ける』光景をアタシの中の“蜜”は、「思い通り」にしようとしたから、私はアンタに攻撃して、突き飛ばすことが出来たのよ!!花ちゃんが何度攻撃してもなんともなかったアンタに対して、よ!!――さぁ、花ちゃん、起きなさい!!勝ち目はある!!アイツの、マアリが『負けている』光景をしっかりと思い浮かべて、“蜜”の力で思い通りにしなさい!!」



 声が、聞こえる。力強い声が。耳慣れた声が。暖かい声が。

 ――もう聞くことはできないと思っていた、()()()の声が――!!


 

 「―――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 その形容不明な叫びが自分の喉から飛び出した。

 “蜜”の力を振るい、気力を振り絞り、アタシは立つ。

 

 さらに勢いを増す黒い炎に包まれた、漆黒の骸骨の姿。

 纏うは不定形の黒いボロ布。携えるは大鎌。

 ベタベタな姿の、『死神』。

 それが今のアタシ。


 

 「……リリィ」

 

 アタシにずっと語り掛けていたその人に、声をかける。


 「花ちゃん」

 「……何?」

 「……あの時は、ごめん」

 「いいよ。お互い様だ」


 そんな僅かな言葉だけで、アタシ達は和解していた。


 一時殺し合いまでしたのに、何でか、って?


 そりゃ、腐れ縁……いや。友達。親友ってやつだからな。中学からの、ながーい付き合いだから。大切で仕方ないんだよ、結局。お互いにな。



 ちょっと殺し合ったから、何だってんだ?

 アタシ達は、友達だ。だから今、リリィは、アタシを助けてくれたんだよ。

 それがわかるから、いい。


 そして、アタシ達は二人で、マアリと対峙する――


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