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5-5 3104丁目のDANCE HALLに足を向けろ-2

 ――もう何度目だろうか。

 この腕を引きちぎられたのは。


 もう何度目だろうか。

 この足を切りとばされたのは。


 もう何度目だろうか……

 この胸に大穴を開けられたのは。


 もう何度目だろうか?

 この頭蓋を握り潰されたのは――


 

 まだ、届かない。こいつに届かない。

 とりあえず、アタシの大鎌がコイツに傷をつけれるくらいに強くならないと。

 それが最初にクリアすべき課題なんだ。

 例えほんの少しでもダメージを与えられなければ、勝負にならない。

 そして、今はまだその「勝負にならない」状態だった。



 粉々に砕かれても、砕かれても、砕かれても――

 アタシは“蜜”の力を振るう。

 届け、届け、届け。

 さらに強く、強く、強く――

 まさしく、アタシは無限に強くなりながらマアリに立ち向かっている。

 

 「まだ、まだ、まだ!まだまだまだまだまだまだァ!!!」

 

 思わず叫んでいるのもこれでもう何回目だ。

 そうしないと、正気を保ってられそうにない。

 まだ終わりじゃない。まだ上がある。アタシが諦めさえしなければ、この“蜜”は力をいくらでもくれる。

 

 「諦めてたまるか……!」


 そんなベタベタな理由で戦い続けられる程、この“蜜”の力はご都合主義な力なんだから。


 殺されても、壊されても、殺されても、壊されても。


 「もう一回……!!」


 ――立ち向かい続ければいい。反撃なんて全部無視で、アタシは大鎌を振るう。

 当たっている。確かに当たっている。手ごたえがある。

 それでも、傷つかないマアリの体。


 (何で……?)

 

 微かに疑問が頭をよぎる。


 (アタシは強くなっているはずなのに、何で……?)


 疑問を振り払うように、大鎌を振るう。


 (何でこいつに届かないんだ……!?)


 駄目だ、考えるな、いつか届くはずだ、何度でもやり直せるんだ、アタシは。

 だから、絶望しちゃ駄目だ――


 

 「今、ちょッと『絶望』が頭をよギっただろウ?」


 ニヤリ、とマアリが笑う。

 見透かされている。


 「うるせえ、うるせえ、うるせえ……!それでも!まだやれるっての……!!」

 「まだやれる、ネェ。オマエ、この戦いが始まってカラどレくらい経っていると思っテる?」

 「……は?」


 それは、それは、それは。

 ……わからない。いや待て、そんな時間は経っていないと、思う。

 とにかく必死だったからな、時間なんて分からないけど。

 精々数時間じゃねーの。


 

 「ハ、マルでわかってない、って顔じゃあなイか。じゃ、教えてやるよ。10日だ。10日間。10日間アンタはアタシに殺サレそうにナっているのを続けテるんだ。アタシはワリと几帳面でネ。その間何回殺ソウとしてヤッタかもカウントしてるんだ」


 そこで言葉を切って、さらに顔を歪ませながら、マアリはアタシに語り掛けてくる。



 「オマエが何回死二かけ、何度立ちアガッタか、教えてやろうか」



 その言葉が、頭の(心の)奥底ま響き渡った。


 「やめろ」

 「ヤメない。オマエが――」

 「ヤメロっつってんだろォォォォォォォォッッッ!!!」

 

 それを知ったら。こんなご都合主義な力を持っている癖に、諦めてしまいそうで――

 決死の覚悟で。必殺の意志で。絶対の自信で。――逃げ出すような速さで、マアリに突撃していった。

 

 くそ、くそ、くそ!

 その口を塞いでやる。

 いや、首を斬り飛ばしてやる。

 殺してやる。ころしてやる。コロシテヤル。

 殺してでも、それを聞いてやるものか――!!!


 一瞬で距離を詰め、大鎌を振るう。狙うはその首。

 


 ――――――――――――――――――――――



 ……殺った。マアリの首をアタシの大鎌で刈り取ってやった。

 宙を舞うマアリの首。やがて、ぼとり、と落下した。

 首の無くなった体は、膝からガクリ、と崩れ落ち、そのまま倒れ、動かなくなった。

 

 首だけになったマアリの顔には表情というものが浮かんでいなかった。

 

 「はっ、ざまあみろ……!!」


 驚く暇も無かったらしい。

 ついに、ついに、殺ってやった。

 一気に、気が抜けた。


 「……舐めてるからだよ、ぶぁーか!!」

 

 マアリの生首から視線を外す。終わったんだ……

 アタシの最後の一撃は、マアリに届いた。

 完全に油断していたんだろう。

 馬鹿野郎だ。間抜けめ、助かったぞコンチクショウ。

 

 「ふはーーー……、やっばい、キツかった……強すぎだろコイツ……何回再生して、何回強くなったんだよアタシ、って話――」

 



 「お、やっぱ知りたい?しりたい?シリタイヨネェ!!」


 「ゑ?」


 


 振り向くと。


 首だけになったマアリが笑っていた。

 

 異様に顔を歪ませて、非人間的な笑みを浮かべていた。


 首の無い体がむくり、と起き上がり、首を拾いあげた。


 「やめろ」


 アタシは、思わず呟いていた。

 首なしの体の腕が、首を元通りの位置に持っていって、ぐちゅ、ぐちゅと音を立てながら押し付けた。


 「やめて、くれ」


 勿論、やめてくれない。――どうやら、首はキチンとくっついたようだ。マアリは、「あー……」なんて言いながら、体操でもするかのように首を右へ左へ傾けて見せる。


 「どうだい、春野花子。良い演出だったろ?勝てた、と思ったろ?ザ・ン・ネ・ンデシタ。くは、くははッ!」


 嗚呼、最悪だ。最低だ。このタイミングで言うつもりだ、アイツは。

 思いっきり持ち上げて、堕とす。それが、思惑だったんだ。

 ――そうして、アタシの心を折る気なんだ……


 マアリが近づいてくる。

 動けない。

 マアリがアタシに手を伸ばす。

 動けない。

 マアリがアタシの頭を鷲掴みにする。

 ――動けない。



 「コレで、丁度――」

 

 鷲掴みにしている手に力が込められる。何の抵抗も無いかのように、指が食い込んでいく。


 「一億回目だ。やったねェ。大台にノッタってやつだなァ、春野花子」


 アタシの頭蓋が砕け散る。


 駄目だ、まだだ、アタシはまだ――


 「――再生が遅くナってるゾ?」


 元通りになりかけていた頭蓋をまた砕かれる。

 アタシは、バタリ、とその場に倒れこむ。


 駄目だ、コレはコイツの思惑通りだ、また“蜜”の力で再生しなければ――



 (駄目だ、勝てない)



 今まで何度もやってきた!今すぐ体を再生して、またコイツに挑まなければ!


 

 (今までで一億回もソレを繰り返したじゃないか)



 “蜜”の力は超ご都合主義だろうが!そんなもんがあんのに負けるワケないだろうが!


 

 (“蜜”の力の大本はマアリだ。その扱い方で敵う訳が無いだろうが)



 うるせえうるせえうるせえ!まだだ、まだまだまだまだ……!!


 

 (ソレを一億回も繰り返してまだ勝負にもなっていない)



 

 倒れたアタシの体をマアリの足が踏みつぶしていく。


 頭、首、胸、腕、肩、腹、腰、膝、足……(そして、心も)


 骨だけのアタシの体は、バキバキ音を立てて、マアリの破壊を受け入れる。

 その度にアタシは再生しようとするが、それが終わる前にまた壊される。


 「アア、遅くなってる。サイセイがオソクなってる。諦めた?あきらめた?アキラメチャッタ?」


 

 諦めない!!


 

 (諦めよう…………)


 

 諦めない!



 (諦めよう……)



 ――諦めない。



 (諦めよう)



 諦めない。



 (――諦めよう)



 諦めない……



 (諦めよう!)



 諦めない…………



 (諦めよう!!)



 (ああ、ああ!もうダメだ、最初から無理だったんだよこんなの!馬鹿馬鹿しい、やってられない、こんな、こんなの無理に決まっている!!大した恨みも勝ち目も信念も無いのにコイツに勝てるワケなかったんだ!!)



 (あきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようあきらめようもうしのう)




 ――うぜえ…………


 だけど、その通りなんだろう。

 まだ再生は試みてるけれど、それも今までみたく不死鳥のような力強いものじゃない。

 今まで見たく強さを増していない。

 むしろどんどん脆く、弱くなっていっている……

 そして、再生したところからまた踏み潰されている。



 もうヤケクソにもなれない。ヤツアタリする余裕も無い。



 ああ、ここがアタシの死に場所か。

 「死」を、受け入れなければならないみたいだ。


 

 あーあ。もう、さよならなんだ……

 全部、お終いだ。









 「……まぁ、そんな悲観することも無いって。まだ行ける行ける。頑張れ頑張れー」

 

 ――?

 ……誰?


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