5-3 Television Song-2
ほんの、昨日今日あたりの出来事だ。
それは突然に起こった悪夢。
崩壊していく、モノ、モノ、モノ。
ビルも塔も家も、山もダムも公園も。
乱雑に叩き壊されていった。
後に残ったのは無残なそれらの破片。大きな竜巻が直撃したような、大雑把で無茶苦茶な、破壊。
そんな映像が、テレビの画面を賑わしている。
「国会議事堂が―――」
「世界遺産のカカナ遺跡が―――」
「阿賀羅城が―――」
「デズ二ーパークが―――」
手当たり次第、という言葉がアタシの頭をよぎる。
こんなことが出来るのは―――
「“蜜”の力を持つヤツの仕業だね」
と、父と母に話す。
「また、か……」
「終わってなかったのね……」
うむむ、と二人が唸る。
「その死者の数は―――」
ニュースキャスターが日頃中々聞けないような桁数の死者が出ていることを語る。
昨日今日あたりの出来事なのに、早くも「人類史上最大の災害」等と大きく騒がれている。
ニュースはほとんど、この災害について報道している状態だ。
混乱。混乱。混乱。
唐突に訪れたそれが、今この世界を支配しているようだ。
一ヶ月も何も音沙汰無かったので、「終わった」とされていたこの一連の出来事。
それはまだ終わってはいなかった―――って滅茶苦茶唐突じゃねーか。脈絡無しか。
容赦の無さ、狙いの不透明さはますます増し、最早次にどこが襲われるのかさっぱり予測がつかない。
「次は自分達かも知れない」
そんなムードが世界を丸ごとすっぽり包んでいるように思える。
「ふーん……よし、じゃあちょっと行ってくるよ」
仕方あるまい。この混乱を収められるのは“蜜”の力を持つアタシだけだし。
そう思って敢えて軽ーく宣言する。
「・・・・・・・・・・・・」
父と母が沈黙する。
アタシもつられて黙る。
「……また、行ってしまうの?」
「……まぁ、ね」
「それが『やりたいこと』か?」
「……うん」
親二人、揃ってふぅー……と溜息をついた。
「どうせ止められないんでしょう?……いってらっしゃい。必ず、戻ってきなさいね」
「……行ってこい。『やりたいこと』をやってこい」
「……おうよ」
もう二度と戻ってこれないかも知れない。
……割に、あっさりとした家族の会話であった。
「今更退くなんて、無い」
そんな思いが伝わったのだろうか。
……悟られなかったか、不安だ。
終わってしまった、戦いの日々。
それがまたやってきたのかも、という予感に、アタシは喜び打ち震えていた。
それを家族に悟られなかったか―――
いや。それも承知で送り出してくれたのかも知れない。
壊れている、としたら最初からだった。
“蜜”を手に入れる前から―――
アタシは人生が退屈で、アタシ自身も退屈で。
心に穴が開いていた。
深い深い、暗い暗い。そんな穴が。
こいつを埋めるには、こんな、「穴」のことなんて考える暇も無いくらいの刺激が必要なんだ。
結局、アタシはそんな刺激をくれる、「どこか」に行っちまいたかっただけ。どっか違う世界にぶち込まれたりしたかったんだ。
「ツいてるツいてる。そうねぇ……ネトゲやってたらログアウトできなくなって現実世界に帰れなくなる、くらいには」
あぁ、あぁ。その通りだ。そいつはツいてるんだ。このクソッタレに退屈な世界を捨てて、「どこか」に行けるんだ。
死んでいるような日々を送っていた。
だから、生きていたいと実感したいだけ。
当ても無く家を出た。
この騒ぎの原因を探す。
心当たりはある。
例えば、リリィ。
なんせ“ゲーム”で殺されようがマアリにかかればあっさり復活できる、ってのは前聞いたしな。
甦らされて、また暴れまわっているのかも知れない。
だが、何となく、違う、と思う自分がいる。
もしリリィなら、「こういうこと」をしてくる前にこっちに筋を通してくるような気がする。
あの決戦での決着を完全に無視した行動をするとは思えないのだ。
……まぁ、こっちの勝手なイメージかも知れないが。
だとしたら、他の“蜜”の力を持ったヤツか……或いは、マアリ本人がこの破壊を実行しているのだろうか。
「ううむ……」
マアリか……なんというか、この一連の破壊活動には手当たり次第、テキトーにって感じで、何となくマアリらしい気がする。
でも、だとしたら、あのリリィとの決戦から、何故一ヶ月も期間を空けた?
「・・・・・・・・・・・・」
まぁ、考えてわかることじゃないか。
ともかく、誰だろうがここまで大暴れしてくれているんだ。
責任取って、そいつはさぞアタシを楽しませてくれるんだろうな?
舌なめずりでもしそうな自分に苦笑してしまう。
この一ヶ月、「終わったの!?終わってないの!?」なんてコトをずっと考えて、自分で思っている以上に溜まっていたらしい。
刺激が欲しい。あの命を削り合う感覚がもう忘れられない。
地球人の代表がどーとか、もう、というより最初っから興味無い。
思い切り、命を燃やすように、すぐ傍にある死を感じながら生きていたいのだ。
アタシは、壊れている。人間として、壊れている。認めよう。
アタシの「やりたいこと」はおおよそ、普通の人生ではできないことだ。
「『やりたいことをやれ』じゃねーぞ。『やるしかない』だ、花子……そんな夢とか希望のある話じゃねーぞ。向いてようが向いてなかろうが、『やるしかない』んだ。それしか方法はねぇ。俺達のつまんねー人生を、このクソッタレな世界の中で、幸せ、やりがい、希望?とかかぁ……?まぁ、そんなモンを手に入れるためにはなぁ、『やりたいことをやるしかない』、それだけが……それだけが答え、つーか、方法てーか手掛かりってゆーかだなぁ……」
そう、父は言っていた。そしてその通り、これは単純に夢とか希望とかがある話では無い。
なんせ、「やりたいこと」が無くなってしまったら、このクソッタレな世界をただ生き続けるだけになってしまう、ということだからだ。
生きているだけで満足できるわけは無いのだ。「やりたいこと」をやっている、その瞬間にだけ、アタシたちの生きる価値?みたいなモンがあるのだろう。
アタシは、退屈な日常の中で、退屈を打破しようと努力することなんか、最早できそうにない。
こんなデタラメな戦いを知ってしまったんだ。
じゃあ、今からこの騒ぎを起こしているヤツと会って、戦って、勝って、平和な日常が今度こそ帰ってきた、となったら。
アタシはどうすればいいんだろうな。
アタシは、これからの戦いに勝てるかどうかよりも、その後どーすんの!?なんてことの方がよっぽど心配だった。
……こんなんで勝てるのかねぇ。
それでもアタシは歩を進める。感じるままに、進みゆく。
「やりたいことをやるしかない」から。




