5-3 Television Song-3
それは、何かに導かれたようだった。
ぴくり、とアタシの中の何かが反応する。
―――いる。一連の破壊行動をしているヤツが。
このすぐ近く……という表現は正確では無いのかも。
なんというか、こっから電車一本ぐらいで行けそうなところに「ソイツ」が急にぶっ飛んできた、そんな感覚。
ゴォン、という音がここまで聞こえてきた。次の破壊活動は、そこで行わるらしい。
「―――七ノ蘭駅くらいか……?」
音の方角と、感覚であたりをつける。
“蜜”の力で、その感覚を強化する。本当にご都合主義だな、この力。
「……間違いないな」
口角が吊り上がったのを自覚する。全く、アタシは本当に大馬鹿野郎だな。
そして、ここまで近づいたからか、「ソイツ」の正体にもはっきり見当がついた。
―――マアリだ。
マアリに対してやったみたことは無いから出来るかどうかわからないけれど、リリィとやっていたテレパシーもどきでマアリと会話を試みる。
(おーいマアリー、何してんのアンタ。そんな暴れまわってたらアタシ、止めないわけにはいかないよ?つーか、こんだけ暴れまわるんなら、アタシを無視しないでくれないかな?アタシ、知られている限り唯一の地球人の代表者なんでしょ?それなりの役をもらってると思うんだけど。ハブにすんなよー)
……とかいう、ゆるーいテンションで思いを伝える。
……返ってこねぇ。これリリィとしか出来ないことだったのかなーなんて思い始めた時にようやく……
(春野、花子……!)
返事が返ってきた。……うーん?なんかいつもとテンション違う?何か余裕無さげって言うか、今までのテキトーな感じがまるで無いというか。
(お前、お前……オマエがぁ……!くそ、くそ、クソクソクソクソクソォォォ!!)
(うおーい。どした?アタシあんたに何かしたっけ?)
異常な、憎しみともいえる感情をぶつけてくるマアリと、なにがなんだかわからずに普段通りボケーっとしたアタシ。その対比がなんだか馬鹿馬鹿しくて笑い出しそうになる。
(……ああ、ああ!いい機会じゃないか、春野花子!この地球ごと、ぶち殺してやる……!!ああぁ、来い……来いよ!あたしを止めたきゃ、あたしを殺しにここまで来い!!)
(おいおいどーしたってのよ。……ま、今から行ってやるから少しは落ち着けっての)
やれやれ。参ったぞ。よくわからんが、マアリがぶちギレている。
マアリ。“蜜”の力の大本。地球丸ごとと戦っても勝てる、という程の力の持ち主。
この一連の破壊行動……昨日今日の出来事だというのに、既に「人類史上最大の災害」と称されるほどの破壊行動が出来る女。
やっぱ、リリィより強いんだろうなぁ。
勝てるのかなー、という不安
やっぱ、これで最後なんだろうなぁ。
終わってしまう、という予感。
勝ったら、負けたら、どうしよう?
そんなこと、やる前から考えてるヤツに、あのマアリを倒せるのだろうか?
超唐突にラスボス戦に突入するらしい。締まらないなー。
現実はRPGみたいにいかないのだ。全く、もっとこー段取りをだなぁ。
思い当たることは、リリィとの決戦後の一ヶ月の開きだ。
この期間に、マアリに何かがあったのだ。
それが、この唐突な決戦の引き金になった。
……それこっちにも教えてもらえませんかね。気分が盛り上がんねーだろーが。
もしこの戦いでアタシが負けて死んだら……
「どうせ止められないんでしょう?……いってらっしゃい。必ず、戻ってきなさいね」
「……行ってこい。『やりたいこと』をやってこい」
「……おうよ」
このサラッとした会話がアタシの家族との最後の会話になってしまうんですが。
やだなーそれ。
今からでも帰って感動の決戦前イベントでもやろうかなー。
……つーかアタシもいい加減本気になりなさい。このバカ。
しょうがないので、今までの―――リリィが蜂人間として生き返って会いに来たあの始まりから、もう一度じっくり思い出しながら、目的地に向かう。ありがちだろう?
―――リリィが来た日。死んだはずだったのに、また現れたあの日。あの頃は何もかも信じられなくて、現実逃避ばかりしていたなぁ。
リリィに連れられて、初めて“真価の闘技場”に入った。馬鹿みたいにはしゃいでた異形の観客達。
そして、あの時、“蜜”の力を与えられた。地獄の苦しみだった。今考えてもふざけてんじゃねーそコラァ!と異議を申し立てたい。
その“蜜”の力を使った、“ゲーム”。マアリ側の“戦士”達の戦いの数々。すさまじいスリル。それを楽しむようになって、でも数をこなしていったら飽きてきて、モヤモヤしたこともあった。
そこにぶち込まれた、リリィとの決戦。最初に知らされた時の衝撃は忘れられない。……だけど、家族の助けもあって、アタシはそれに向き合って、挑むことが出来た。
リリィとの戦いは、今までの“ゲーム”の中で一番の困難であった。最悪かつ最高の戦いだったな。まさにアタシは命を燃やし、リリィとぶつかり合った。……そして、勝った。生き残ったのだ……
まるで走馬燈の様だ。短いような、長いような、滅茶苦茶でデタラメで、壮絶にも程があるだろうと喚き散らしたくなる日々。
だけど、その時には確かに、アタシの心に開いた穴は塞がっていた気がする。
……この感覚を知った今、もう戻れない。
なんというか、本当に、「やりたいこと」をやってきた。
その日々は確かに、蜂人間としてリリィが現れる前の、あのクソッタレで死んでいるような日常より、ずっとずっと……
マシだったのだ。アタシは、生きていると、あの日々で確かに感じていた。
だから、アタシは不謹慎ながら、こんな日々がずっとずっと続いて欲しい。
最低だ。最低なヤツだ、アタシは。
この一連の騒動でどれだけの人間が殺されたと思ってやがるんだ。
バーカ。アーホ。
それでも、「やりたいことをやるしかない」んだよな。
……この言葉はもう、アタシの絶対の道標になっている。
だったら。それなら。どうせなら…………
最後まで、大暴れしてやろうじゃないか―――




