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5-3 Television Song-1

 うーん。

 アタシの“蜜”の力による姿の形の変化に名前を付けようと思う。

 まずこのいつものいたってふつーの花子ちゃんがノーマルスタイル。

 黒いボロ布と大鎌をもった状態でスーパースタイル。

 そこから一部分だけ骨だけになって、その部分が黒い炎に包まれたらハイメガスーパースタイル。

 それがさらに進行し、完全に骨だけになり、黒い炎にすっぽり包まれたらジェノサイドスタイル。みたいな。

 必殺技はギャザリンビ〇ム。イカサマした相手には灰〇熊バゴス。



 ―――このネタ、一体誰にわかるというのか―――



 思い出の古本屋、「トレジャー&アドベンチャー」から見つけたネタを流用した安直なネタを思いついても披露する相手はもういなかった。

 まぁあたしが殺したからなんだけどね。

 

 “ゲーム”のCランク戦という名目でリリィと決戦して、勝利した。

 ビームを撃ったわけでも殴り飛ばしたわけでもない。

 切り刻んだ。焼き尽くした。

 アタシはこの手で、リリィを殺した。

 

 それからもう一ヶ月が経っていた。

 リリィによる人類絶滅計画ーとかいって行われていた破壊行動はぴったりとやんだ。

 地球人に宣戦布告した「キブカ惑星マアリ班」から地球人への干渉はあっさりと無くなってしまった。

 なーんにも起こらない、平和な日々。

 いや勿論リリィの破壊行動に対する復旧はまだまだ終わっていないのだが……

 

 ……何も変わらない。

 彼ら地球外生物の侵略は、唐突に終わったのだ。……終わったんだよね?

 

 終わったんなら、アレだ。なんか宣言的なものが欲しい。

 もーやめまーすって。

 また電波ジャックしてもいいから。個人的には。


 あの決戦の後、ボケーっと毎日を過ごしている。いやむしろ、“蜜”の力を得る前よりボケーっとしている。何もしない。部屋の中で何もしない。ベットに転がり天井を見上げて、見上げて、見上げていると朝から夜になっている。


 それでも一日一回は、どんなくだらないことでも“蜜”を使っている。意味もなくあの大鎌を出してみたり、真っ黒い炎に包まれた骸骨の姿になってみたり、手をふれずにモノを動かしたり、大鎌で電気のスイッチをつけたり消したり。


 そうでもしていないと、全部夢だったんじゃないか、なんて思ってしまいそうで。


 “蜜”の力を手にして、戦ってきた日々。

 今なら、分かる。


 アレ、アタシの「青春」だったわ。


 特に最後の決戦な。リリィと戦う事を決心して、滅茶苦茶必死に戦った。あんだけボロボロにされても諦めずに、さらに力を求めて思いを振るった。

 リリィをこの手で殺してしまった、という結果から見れば、手放しで喜べる経験じゃあ無いのかも知れないが、それでもあたしは……


 「・・・・・・・・・・・・」


 体を動かしたくなってきた。


 部屋の窓を開けて、飛び出す。“蜜”の力で、空へ向かう。

 「思い通りにする」力なんだから、他人にその様子を見られないようにすることは可能なはずだ。

 なのでテキトーにそうしておく。

 ぶっちゃけ見られても今やそれがなにか、って気分でもあるけれど、何となく。




 雲がこんなに近い。“蜜”の力で空に浮かぶあたしは、そこで思いっきり体を動かす。


 「そりゃ、うりゃ、ほあたー」


 徒手空拳でぶんぶんパンチやキックを繰り出す。


 「おりゃ、どりゃ、せりゃー」


 大鎌をぶるんぶるん振るう。


 「うっしゃ、本気モードー」


 リリィとの決戦時の姿になる。黒い炎に包まれた骸骨。


 超スピードで飛び回りながら、あても無く相手も無く大鎌を振るいまくる。


 「・・・・・・・・・・・・」


 もうこの一ヶ月で充分に自覚していたが。

 アタシは、“ゲーム”の、戦いの興奮に依存し切っていたのだ。

 リリィと戦ったのは、戦うことがあの時のあたしにとって一番やりたいことだったのかも知れない。

 倫理観とか全部取っ払って、リリィと全力でぶつかりたかった。

 自分がとんでもない馬鹿になった気分だった。

 今もこうやってあの時の興奮を再現するように、動き回っている。

 ブルン、と振る大鎌に相手がいないことが寂しいと感じてしまう。


 これでこの話、おしまい!

 そーいうはっきりとした区切りが欲しいな、せめて。

 そうじゃないと、アタシは「次」に行けない気がする。

 

 ……「やりたいことをやるしかない」のだ。

 今のアタシの「やりたいこと」はまぁ結局「全身全霊で戦いたい、スリルを得たい」になっちまってるんだろう。

 それはもーできません、っていうのなら何か言ってくれよ。

 またなんか、「やりたいこと」考えないとな。


 「はぁーーー…………」


 そんなことをうだうだ考えていると、自然とアタシの“蜜”の力によるデタラメな遊びは終わった。溜息が漏れ出す。


 こんなとんでもない力を持って、あんなとんでもない「青春」を過ごしたアタシに、これからの何の変哲も無い平和な人生の中で、「やりたいこと」なんて見つかるんだろーか。


 結局、アタシは未だに33歳無職独身無乳女だ。“蜜”の力も使う相手が居なければあんまし意味が無い。

 ……いや待て、いっそこの力まだあるんだから色々悪用もとい有効活用してみてはどうか。

 「思い通りにする」力、何でもできる力。

 職も男も乳もいくらでもどーにでもなると思う。下手したら歳だってどーにでもなるぜ。


 17歳職有り彼氏有り巨乳女になることは不可能ではない。

 ……とここまで考えたが、何か虚しいのは何故だろうか。


 “蜜”というトンデモパワーをこれからも使っていくのか、否か。

 “蜜”を使った強烈な「青春」の代用として、これからも“蜜”をつかって何かを為すのか。

 それども“蜜”をすっぱり忘れてしまうのか。

 何かどちらも、しっくりこないんだよな……


 あの「青春」をまだ覚えているからわかる。

 アタシ、このままじゃダメだ。

 “蜜”を手に入れる前の生活だって、ありゃダメだったんだ、どうしようもなく。

 ……また考えなくちゃな。

 どうしたら、また「青春」ができるんだろう。

 生きているだけじゃもう満足できない。

 笑うならば、笑え。アタシは今以上にババァになっても、死ぬまで「青春」していたい。



 「このドグサレゴミクズ自惚れ処女野郎がっ!!!」



 リリィの大暴言がフラッシュバックする。……そうだな、そんなのもう二度とゴメンだ。

 

 

 帰ろう。んで、考えるか。次の青春を―――

 まぁそんなの簡単に思いつくワケないし、思いつく自信も無いが。

 「やりたいことをやるしかない」のだから、「やりたいこと」を探さないとな。

 

 まだまだ足掻くぞ。

 不安もあるけれど、不完全ながらアタシは前向きにこれからのことについて検討することにしよう。

 急降下していく。

 アタシの家が見え、自分の部屋の窓を確認し、そのままその窓を開けて中に入る。

 帰ってきたのだ。



 アタシはとりあえずベットにダイブし、寝っ転がった。

 ―――これから、どうするよ?

 不安と希望の入り混じる、厄介な自問自答のはじまり、はじまり。



 まぁ、そんな日々は長くは続かなかったのである!キタキター。ベッタベタ。新章開幕。



 ―――いや、終章かも知れんが。


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