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5-2 《!マアリ!-4》

 「許可を出してやる。んでもって、帰ってきたらお前が総隊長だ」

 「マアリ、キミ、未来の総隊長様だ!今から媚売っとくよ!」


 ……記憶が蘇ってくる。皆の笑顔。皆の期待。


 ……そうだ。まだ大丈夫。

 あれだけ大見得切って、この星にやってきたんだ。

 たかだか自死をみたくらいで、挫けるものか―――


 “蜜”の力で地球人に対して不可視、不認識になるように自分の状態を調節しながら、とある駅に紛れ込んでいると、こんなアナウンスを耳にした。


 「―――只今、人身事故により列車が遅れております。お客様にはご迷惑を―――」

 

 今日も誰かが自死を選んだらしい。“蜜”の力でその現場に急行してみると、バラバラの肉片が飛び散っていた光景を目にした。

 しかし、こんなことは珍しくもないらしい。

 駅員がどこか淡々とした様子で肉片を片付けている。

 こんな状況だが、仕事は仕事。

 電車を使って移動する人間は大勢いる。早急に片付け、運転の再開を行わなければならない、らしい。

 

 あたしの考え方としては、そんなことしてる場合じゃないと思う。

 死を悼まないのか。

 もう二度と起こらないように、何て思わないのか。


 もう一度先ほどの駅に戻る。

 先ほどのアナウンスを 聞いた地球人の反応の観察を行う。


 「すみません、人身事故で……ええ、遅れます。申し訳ありません……」

 「またかよ。クソだな」

 「え、めっちゃ遅れるじゃん!もーホント迷惑!」

 「……ああ、全く。お前のいう通りだよ。マジで、迷惑かけられる側の気持ちになれってんだ」

 



 そこに、死者を悼む様子は一切無い。

 一体全体、どうなってるんだ?

 直接見てなかったらこんなもんなのか?

 人が一人自死を選んだことよりも、電車の遅れの方が重要なことなのか?


 

 あたしを班長とする「キブカ惑星調査隊マアリ班」の面々にこれをテーマとし、集中的に調査を命じた。

 それに関する書物やインターネットを調べて回った。

 

 その結果をざっくりまとめる。

 一つ、確認になるものの、地球人の自死は本当に珍しくない。国毎に傾向の違いはあるものの、基本的にはわざわざ調べない限り、一人の人間が死んだことに対するニュースを目にすることはほぼ無い、と言うぐらいには、ありふれている。ありふれ過ぎて、一々大きく取り上げない。

 二つ、世界では年間数十万の地球人が自死を選ぶ。

 ……その多すぎる数に、様々な感情がそこに埋もれて、掘り返されなくなる。


 「自殺は悪である」

 「要は自殺って逃げでしょ?」

 「自分勝手にならないで!残された人のことを考えて!」

 「『皆様に迷惑をかけて申し訳ありません』なんて言って、馬鹿だよね。列車飛込自殺なんてすごい迷惑だよ。迷惑をかけて申し訳ない、なんて思うんなら、自殺なんてするなよって思わない?」

 「自殺したい、等と思う人は、自殺の愚かさ、迷惑を知った上で考え直して頂きたいですね」

 

 

 そうじゃ、ないだろ?

 一つの命が消えた悲しみ。

 それを自ら選んだという虚しさ。

 それに追い込んだ何かに対する怒り。

 それがすっぽり抜けているじゃないか……!


 「郷に入れば郷に従え」そんな言葉がこの星にはあるらしい。

 あたし達も従うべきだろうか。

 ありふれたものを、ありふれているからといって軽率に扱うべきだろうか。


 どんな結論を出したかは、覚えていない。




 ―――覚えていない。


 地球人達はお互いを騙し見下し争い殺す。

 そんな光景を、何度も見てきた。

 その成果は、それらをありふれたことと切り捨てられるようになれたことである。

 まるで地球人のようである。

 あたし達は精神的に地球人に寄り添おうとしているし、……実際できているんじゃないだろうか?

 調査すること、観察すること。

 それがあたし達の役目の一つだから。

 

 

 ―――覚えられない。


 人は皆違うように産まれる。

 しかしその違いを認める機能はついていない。

 「成長」によってその機能を身に着けられるものは一握り。

 しかし地球人達は「成長」を殆ど無条件で、好ましく受け入れる。

 今日はあなたのハッピーバースデーだ、と。

 産まれてから一歩も前に進んでいなくともそれはそれ。

 年齢に応じた振る舞いを求められる。

 年齢に応じた恩恵を受けられる。

 年齢に応じた他人との接し方の変化が認められる。

 よくわからない。

 彼らの多くは産まれてから一歩も前に進んでいないのに、そんなことばかりまかり通る。



 ―――覚えていられない。


 不完全なコミュニケーション。

 不条理な社会。

 その不完全さも不条理さも飲み込んで生きることが美徳らしい。

 悪を悪と言うのはいけないこと。

 それでも世界は素晴らしいと、肯定しろ。

 それが立派ってやつ。

 それが幸せというもの。




 ―――ああ、覚えてたらなんだっていうんだ。


 このクソッタレな世界の何を覚えていろという。




 ―――覚えていることがある。

 

 あたし達の目的。


 「あたしが頑張って―――」


 そうだ、頑張って、なんとかしないと。

 そのために何をしようとしているのかは、覚えている。




 「―――そうだよ……セバスチャン、覚えているんだよ」

 

 長い長い回想から抜け出した。

 この「地球上で最も高い山」からの景色に目を移す。

 ……しょっぱいなぁ、やっぱり。

 

 「そうだ、頑張って、地球を何とかしないと。それが役目なんだから。大変だったねぇ、セバスチャン。この『マアリ班』もどんどん脱落して、最早キミとアタシだけか。悪いことをしたなぁ。これなら最初からあたし一人で行くべきだった。……セバスチャン……いや、『トバラ』」

 「ここまでついてきてくれてありがとう。面倒な役割を任せたね。目立たない、地味な事ばかりをやらせてしまった。こんな星で―――」

 「ほっほっほ、私はマアリお嬢様の執事ですから。まぁ趣味なのですが」

 「まったく、キミは惑星調査隊の中でも飛び切りの変人だね。あたしの思い付きのような指示にも馬鹿丁寧に対応するんだもの。……ま、助かったよ」

 「これからもお世話いたしますぞ、マアリお嬢様」

 「あぁ、ここからが本番だ。キブカ星のみんなのために―――」


 そう、みんな。

 


 ……みんな?


 

 「……おい、待ってくれ」

 「……お嬢様?」



 みんな。みんな。みんな。



 例えば、総隊長。

 ネク氏。

 インダ。

 キブカ王。

 「キブカ惑星調査隊」の仲間達。

 キブカ星のみんな。

 

 そして何より、あたしの愛する、アラバ。


 

 ―――記憶にもやがかかっている!

 

 あたし達には本来忘れるという機能は無い、必要ないから!

 

 でも、覚えていない……!

 

 みんなの顔を、覚えていない……!



 

 「馬鹿な、あり得ない、どうなってるんだよ、……アラバは!?あの人とは愛し合ってたぐらいなのに!!なんで、なんで、思い出せないんだよ……!?」

 「お嬢様!!落ち着いて、落ち着いてください!!」




 「―――アンタもう完全にぶっ壊れてるわよ」


 いつかのリリィの言葉が不意にフラッシュバックして、頭の中を埋め尽くした。

 

 そして、混ぜられる。


 ぐちゃぐちゃに―――


 


 「お、オオオ、おお、オおオおオオオオおオオオおおおオッっっ!!!」


 気づけば絶叫していた。

 もう我慢ができない。

 ワケがわからない。


 あたしは無我夢中で自分の指を切る。そこから“蜜”がポツ、ポツと垂れ落ちる。

 その“蜜”に自分の願望を込める。

 

 彼女に会いたい。彼女の助けが必要だ。あたしを助けようとしてくれた、彼女に会いたい。

 

 “蜜”はみるみる内にその姿を変え、彼女……リリィの姿になった。


 「んあ……私……」

 「リリィ!助けてくれ!覚えてないんだ、壊れてるんだ、もう耐えられない!あいつらを、皆殺しにしてくれ!!地球人を、全て!!残らず!!」

 

 あたしは……“蜜”の力で再び蘇らせたリリィの肩を揺さぶりながら、必死に頼んでいた。

 今すぐ、この悪夢から覚まさせてくれ―――


 「どうしたってのよ、いきなり……マアリ、ちょい落ち着いてよ。あーもう、どーすりゃいいのよ?」

 「混乱するのも無理はありません。……あなたは“蜜”の力によってまた蘇ったのです。落ち着いてからで結構です。また以前のように―――地球人を滅ぼす計画を進めてください」

 「おお、セバスチャンかぁ。久しぶり。……まぁ、何というか……なかなか急な話だね。蘇りたてほやほやの脳みそにはちょいハードな案件だ……」


 少し呆けた表情のリリィ。それでもあたしはお構いなく捲くし立てていた。


 「リリィ!リリィ!頼む、頼む、お願い……!!」


 そうやってリリィに縋りつき、抱きつきながら嘆願していた。頭のどこかで、今の自分をみっともないと感じる。それでも……もう耐え消えない。


 終わらせたい……帰りたい。みんなのもとに、帰りたい。


 そうしたら、思い出せるはずなんだ。


 最高の仲間達の、そして愛するアラバの顔を。




 ぽん、と頭に手を置かれた。……リリィの手があたしの頭にある。暖かい。安心する……

 視線を上げると、リリィが静かに微笑んだ、その顔が見えた。


 

 ―――これで最後だ。歯車が動き出す。



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