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4-7 泥水のメロディー-5

 笑っている。リリィが、笑っている。

 

 あの後、動かなくなって積み重なった大鎌の山の中からリリィがニヤニヤしながら這い出てきた。

 それから、ゆっくり、ゆっくりとアタシに歩み寄ってきて、さらに笑みを深くしながら見下ろしてきた。


 アタシは、胸に(心に)大穴を開けられた苦痛に、残ったほとんど残りカスみたいな“蜜”の力で耐えていた。

 もう使い果たしたと思ってたんだけどな……だけど、まだ残っていると言っても、ほんのわずかだ。


 この胸を(心を)貫いた大きな銀色の針……というよりこれは……


 「『槍』よ、花ちゃん。とても大きくて、綺麗な円錐の形をしてるでしょう?ファンタジー物とかで、騎士とかがもってるあんな感じのやつ。これが、私の武器。まぁ、私、蜂人間だから、『槍』っていうよりはやっぱり、『針』なのかなぁ?すごい大きいけどね」


 そんなリリィの言葉を何とか聞き取る。

 これにもさっきと同じような「毒」があるらしい。


 さっきから脳味噌をグチャグチャに混ぜられる感覚を必死に抑えている。

 アタシは無様に蹲っていた。

 完全に隙だらけだ。

 だけど、それどころじゃない。

 今この「毒」を何とかしなければ……


 「ほら、気を抜いたらまたあの時の感覚が戻ってきちゃうよ?」

 

 そう言いながらもがくように動いていたアタシの右手に向かって、今胸に刺さっているものと同じ大きな銀色の「針」を構えて……


 縫い付けるように突き刺した。


 「ウぐアあああアああアアああッっ!!!」

 

 自分の喉から異様な悲鳴が上がった。


 「さぁ、そこからも毒が流れ込んでくるわよ―――!!」


 もう耐えられない。しかしそれでも、どこかに「負けられない」と思う心があるらしい。

 また“蜜”の力を引き出して抑え込む。


 それにしたって、コレは痛い、辛い、キツい、嫌だ、寂しい、寂しい、寂し


 (おい待て、不味い……!)


 リリィの毒は初めて“蜜”の力を得た時の苦痛を蘇らせるものだ。

 「混ぜられる」感覚。それは、孤独、焦燥、寂寥によって……


 (耐え切れなくなってきてやがる……!!)


 無我夢中で残ったもう片方の手で、右手に刺さった針を強引に引き抜こうとしたら、


 「だーめ」


 その手も、縫い止められた。


 「イやああアああああアアっッ!!!」


 また、侵入(はい)って来る、あの毒が……

 駄目だ、終われない、終われないんだ……耐えろ。たえろ。タエロ。タエロタエロタエロタエロタエロ…………ッ!

 

 ……クソッタレめ。もうほとんど視界に気を回す余裕は無いはずなのに、リリィがまだニヤニヤ笑ってるのが見える気がする……!


 「ほら、またベタ展開だよ、花ちゃん。あの時みたいに『死』を乗り越えよう?『死』という未知の中から今の状況を打破する手がかりを見つけるの。一回やったでしょ?出来るでしょう?……ねぇ……」


 すぐ耳元で囁いてくるリリィ、それに、


 「……うっせえ、このクソッタレ……」


 そう返すのが精一杯だ。


 「そう」


 リリィの笑みがまた深くなる。


 「そのぶさけんなクソッタレ、ってテンションが大事。死んでたまるかーっていうソレが大事、一番大事。復習復習、花ちゃん。“蜜”の力は無限なの思い通りにできちゃうのご都合主義なの。ねぇ花ちゃん」

 「そんな力持ってるのになんでまだそんな風になってるの?まだまだ行けるの、花ちゃん、あなたはね。それでね、わたし……そうして『無限』に至った花ちゃんを殺すの」

 「“蜜”の力が無い時だって、花ちゃんは凄いって、本当は思ってた。崇拝、なーんて言葉を使ってもいいくらい。神様みたいに見えたよ。でもね、神様と信者って関係じゃ離れ離れになっちゃう気がして、そういうの、わたし全部隠してた」

 「……私にとって神様みたいな花ちゃんを、対等な条件で殺すの。そしたらやっと、わたし花ちゃんのことを『凄いけどアタシ程じゃない』って思える気がする」


 一体、何言ってんだ、コイツ。


 「大体、さっきから的外れだよ、花ちゃん。言ったでしょ、『パワーよ、パワーが全てっ!力こそパワー!ゴリゴリ押せ押せ!』ってさ。何、あの小細工。わたし、付き合うの疲れちゃったよ」


 「だから、早くして引き伸ばさないで焦らさないで。……できないのなら、そのまま殺しちゃうけど、どうする?ねぇ……」


 不意に両腕の感覚が無くなった。不思議に思って見上げると、リリィが引きちぎったアタシの腕を投げ捨てているところだった。


 「―――ねぇ?」




 何も出来なかった。突きとばされた。蹴り飛ばされた。投げ飛ばされた。

 

 アタシの体中を針が貫いた。

 

 それから両足を引きちぎられてからはもう自分が何をされているかわからなくなった。



 痛い……


 辛い。


 怖い。

 

 うるさい!


 寂しい。


 ヤメロ。


 許してください。


 助けて!

 

 焦る。


 うざい。


 ……寂しい。

 

 逃げたい。


 やってられない!


 生きたくない。


 死にたくない。


 どうしようもない……


 逃げらんねーじゃねぇか。


 くっだらね。


 ああもう。

 

 もうお終いだ!何もかも!



 ……寂しい。嗚呼、寂しい。



 さびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしい。









 ………………きっとアタシの体は目も当てられないカタチになっている。何も見えない。何も聞こえない。何も感じない………………


 はずなのに、なんで。


 「―――花ちゃん」


 リリィの声が聞こえるんだろう?



 アタシは。アタシは……アタシは。アタシは―――アタシは!


 

 なんで、まだ諦めてないんだろう―――?



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