4-6 戦え! 何を!? 人生を!
―――またココにやってきてしまった。
地球人代表者用の控室。
“ゲーム”が始まるその前に、代表者が戦いに向けて精神を集中……とかアタシはやったことないけど。そういう部屋に1ヶ月ぶりくらいに入ることになった。
“ゲーム”が始まる前は、いつもココに用意してもらったベッドで寝てた。
「んなキバルもんでもなし」そう思って。いや本来キバルもんだとは思うけどね。このデタラメ展開に圧倒されっぱなしで何が何やら、もうヤケだとふてぶてしくやってたってこともあるし。
大体いつもアタシが戦ってきた“戦士”って奴等はどっかパクリくさいキャラデザインの奴ばっかで、どーも「負けたら死ぬ」ってデスゲームっぽい雰囲気が感じられなかったし。
そんなテキトーでよくもまぁ、ここまで来たもんだ。
Cランク戦。初めに見たオオガミレンと同じところ。
彼は、目の前で死んだ。「最後のロックスター」はあっさりとパクリ満載デザインの侍野郎にばっさりやられた。
本来ならば、そのオオガミレンが敗れた侍野郎にアタシは挑むはずだった。
だが、状況は一変した。“ゲーム”の中止。それも、“ゲーム”の提案者であるリリィ自らがそれを宣言したのだ。ただ……
「……まぁそれでも、せめてちゃんと花ちゃんの“ゲーム”をちゃんと終わらせてあげたいの。例え結果が花ちゃんが負けて死ぬ事でも……っていう私のせめてもの気遣いかなぁ」
そういうことで、“ゲーム”の中止は宣言されたものの、アタシの“ゲーム”はまだ終わっていない。
本来のCランクの“戦士”となり替わる形で、リリィがアタシの前に立ちはだかる。
“ゲーム”のCランク戦、という形が残っている。言うなれば、リリィのお情けだ。
それを無視して“ゲーム”外で襲われなかったのも、やっぱりお情けだろう。
他の“蜜”の力を得た地球人代表者はみな死んだ、らしい。結託して連合軍を作ってリリィに挑んだが、返り討ちにされて皆殺し……だそうだ。
つまり、細かいコト言うと、「判明してる限り」残った地球人代表者はアタシだけ。
“蜜”の力を持ち、リリィ達に対抗できる地球人は、アタシだけ。
地球人の「最後の希望」ってやつかも知れないのだ、春野花子は。
んなこたどーでも良い、と思ってる、つもりだったのだけど、開始の一時間も前にココに来ているってことから考えて、もしかしたら気負ってんのかも知れない……まったく、そんなガラじゃねーだろ、春野花子……
そんな事をボケーっと考えていたら、誰かがこの部屋に入ってきた気配を感じた。
「誰よ?……ってアンタ?何か用?」
沢山のマイクと拡声器をつなげ合わせて出来た体を持ち、“ゲーム”の実況役を務めてきた男……えーと、そうだ、マイクン。……ホントテキトーな名づけられ方されたモンだよなぁ。
「よお、花子チャン。……いやー用ってワケでもねーんだけどなぁ。ちょっと話し相手になってくんねーか?」
いつもと違うちょいしんみりしたテンションに興味をそそられた。頷くと、マイクンはドカッと音を立てて椅子に座り込んだ。
「……なんつーかなぁ。どっから話したもんか。オレ、“ゲーム”の実況役してんじゃん?それってさぁ、実は頼まれたとかじゃなくて、立候補なんだよ。ホントは別に必要ねーんだろうが」
「へぇ」
「いやな、“ゲーム”の説明を聞いた時、ちょっと面白そう、なんて思っちまってよ。『真価』を証明するために地球人が必死で戦う姿を想像するとよぉ、なんかこー滾ってきちまってよ。どーせなら盛り上げまくってやろう、ってな。まぁ実況なんてやったことも無かったから、上手くやれっかどうかはわからんかったがな」
ふぅ、とそこでマイクンはため息をついた。
「地球人は嫌いじゃないんだ、オレ。ま、絶滅させんのに反対したり味方になってやるほどじゃねーが。たまにいやがんだよ、とんでもなくワクワクさせてくれるヤツが。どこまで勝ち進んだかってだけじゃねー。ヤケクソで馬鹿見てえに挑みかかるヤツ、隠し玉を持ってたヤツ、ギリギリで逆転するヤツ、あと一歩届かなかったヤツ……なんつーか、『ドラマ』を持ってるヤツがいる。それをオレも必死になって実況してると……本当に、スゲエ楽しかった。オマエラにとっちゃ不謹慎かも知れねーが」
確かに。マイクンだけじゃない。“ゲーム”を見て、あの異形の観客達は、異常に興奮していた。アタシ達地球人代表者達は、知らず知らずの内に、彼らに最高に興奮できるエンターテイメントってやつを提供していたのかも知れない。
「花チャンよ。オマエはそん中でもぶっちぎりでクレイジーだった。アンタの戦いの実況は楽しかった。……だからこそ、アンタが強くなり過ぎて、明らかに白けていくのは、正直オレも辛かった。もうイカレタ花チャンの虐殺劇は終わりか、ってな。―――それが、どうだ」
二ヤリ、とマイクンが笑った気がする。普通の地球人みたいな顔は持ってないから、表情は読めないが。
「最後に、あのリリィと戦うっていうじゃねーか。地球人だったリリィと花チャンって友達だったんだろ?その義理ってやつかどうかは知らねえが、“ゲーム”中止を宣言してるってのに、“ゲーム”でリリィと花チャンは決着をつけようとしてる。……さぞ特別なバトルなんだろうな?」
アタシは、力強く頷いていた。
「よし。イイねぇ。―――おい、ちょっと教えといてやるよ。リリィは今、地球人を絶滅させる計画の中心人物として動いている。オレ達のトップがマアリ姐さんからリリィにとって変わっちまったのかも知れねえってぐらいな……んでもって、実際そうなのかも知れねぇ」
トップがマアリじゃなくなった?どういうことだろう?
「まぁ何となくわかってるかも知れねぇが……今のリリィの強さは尋常じゃねぇ。地球人代表者の連合軍をまとめてブチ殺す、なんて楽々やっちまうぐらいだ。なんつーか、その力の果てが見えねぇ。今のアイツが倒されるビジョンってのが全然湧いてこねぇ。……最早マアリ姐さん以上かも知れねえ……!」
「あちゃー……マジか」
「あれ?リアクションうっすいなオイ」
「まぁ、アタシの中では、もうそんな問題じゃないていうかなんというか……」
上手くまとまらないなりに、考えを話してみる。
「もうね、“蜜”なんてデタラメパワーがあんだからさ。相手がどれだけ強かろうが、勝ち目が無くなるってワケじゃないと思うんだよね。……なんつーか、うーん……マアリよりもってくらいリリィが強いんならさ、アタシは無理矢理にでもリリィより強くなって、勝ちにいくよ……みたいな?」
「・・・・・・・・・・・・っぶはははは!」
いきなり笑いだされた。まとまってないなりに、一生懸命喋ったのにぃ。
「そんな笑うとこ?」
「……ひひひ、いやぁ、こりゃあオレが色々言う必要なかったんじゃねーのって感じだわ!やっぱ花チャン、あんた最高だぜ!だはははは!…………よし、なんつうか、言うか言うまいか迷ってたけどよ、やっぱ言うわ」
「うん?」
「……頑張れよ」
ゑ?
「お、おおう!?……それはアンタの立場で言っていいもんなの!?」
「んー……駄目かも知らん。今やウチ全体としての目的は地球人の絶滅が目的で、この特別な“ゲーム”だって一応はその目的の為のモンだ。まず“蜜”の力を与えちまった地球人代表者をブチ殺して、抵抗できなくするってゆーな」
「……花チャンよ。リリィは今や無限にあるのかよってくらいの力を持ってて、クソ強い。オマエに勝ち目なんてねぇ。一方的にボコボコにされて終わりだ。普通はな」
「でもな花チャン。オマエには“蜜”がある。超ご都合主義な力があるんだ。足掻いてくれよ。なんだったら勝っちまっても良い。勘違いすんなよ、特別望んでるわけじゃねぇからな。……オマエが勝っても負けても、恐らくこれが最後の“ゲーム”だ。最高に盛り上げて狂わせてくれよ」
ちょっと気になるトコがあったんでノッてるトコ悪いけれど質問する。
「勝っても最後なの、“ゲーム”って?」
「そりゃあ今のリリィはAランクの戦士より強いからな。それに勝っちまったらそれ以上やる意味ねぇだろ?」
なるほど。……最後か。
「おう、最後、ラスト“ゲーム”だ。オレも超本気で実況してやらぁ。だからツマンネー戦いすんなよ。……そーだな、約束してやる。オマエが勝ったとしても、だ。オレは公平な立場を崩さねぇ。オマエを讃えるオレの魂のこもった言葉を“真価の闘技場”に響き渡らせてやる」
「まぁ、色々言ったが、要するに、だ。オレ、この“ゲーム”は楽しかった。楽しくて楽しくて仕方が無かった。終わっちまうのが辛いんだ。だから、最後に最高の戦いを見せてくれ。頼む」
そう言って、頭まで下げてきた。地球人であるこのアタシに、地球人を滅ぼそうとする集団の中の一人が、だ。
そして、マイクンは部屋を去っていった。
みんな色々あるよなーなんてベタベタな感想を頭の中で転がした。
でも、そーだな。アタシも“ゲーム”は楽しかった。ぶっちゃけ。
終わったらアタシどーしよ。
結局無職だしな。
なんか偉い人から感謝状とか賞金とかもらって働かずに済むようにならないかな。
でもそれでアタシ良いのかなー。
働かずに食う飯は旨いか!って言われて美味しいですよ!って力強く言えるかなアタシ。
「やりたいことをやるしかない」って言葉はアタシの中にまだ残ってる。強く強く。
でも実は今になっても「やりたいこと」なんてはっきり言葉にできなかったりするんだよね。
なんつーか、消去法っぽいんだよね。
戦う以外のもう一つの選択肢だった、リリィの仲間にあっさりなりまーすって何か違う気がするって感じ。
リリィは本気なんだ。何故だかはいまだにわからないけれど、地球人を殺して回るぐらいには本気だ。
アタシは、そんなリリィと、腐れ縁なんだ。
今更日和ったコトなんてできねーよやっぱ。
しっかり決着付けてやる。
マイクンにまでハッパかけらてんだ。
―――派手にやりあおうぜ、リリィ。
もう、アタシの中じゃ、何の余計な気負いも無いからな。
「やりたいこと」かどうかは知らんが、「やるしかない」って思って勝手に盛り上がれるくらいには、アタシは昂っていた。
本当、不思議な話だ。リリィどころかアタシまで、いったいどーしちまったんだろうねぇ……




