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4-1 ハウリング地獄-3

 電車に揺られる間もアタシ達二人に会話は無い。

 くそぅ、「アドベンチャー&トレジャー」が潰れてたのは痛かった。あそこなら会話のネタは次から次へと出てくるはずだったのに……七ノ蘭とかそれに比べりゃあただの都会、便利なだけの場所だし。駅について何処行くかも決まってない。

 うあー、なんで腐れ縁のリリィと遊んでるだけなのにこんなに気を使わなきゃならんのか不思議でたまらん。なにさなんなのさ!

 何か今も思い詰めてるし。やっぱ今やってる「ゲーム」関係なんだろうなぁメンドクセー。

 ぶっちゃけ今「ゲーム」とかこっちは割とテキトーにやってるし。相手との力の差があり過ぎる、つまらん、以外に悩んでいることはアタシ自身には無いんだけどなぁ。

 



 そんなことを悶々と考えていたら七ノ蘭駅に着いてしまった。どうしたモンかね。


 もう考えるのが面倒臭い。テキトーに決める。なんつーか、ネタだ。ネタになりそうなところを……


 「ってことを考えてたらココになった」

 「何というか……香ばしいわね」


 選んだのはこれでもかとアニメや漫画、ゲーム関連の店が立ち並ぶ場所だった。この辺りは七ノ蘭駅周辺での、いわゆる「オタク」の御用達の場所である。

 まぁシャレオツなファッションモール的なトコに行くよりはネタがありそうに思えたのだけど、正直アタシにはキツイ。リリィにもキツイかも知れない。何で来たんだろう。馬鹿なんだろうか。まぁそうなんだろう。


 「今から『メイドさんお好み焼き』を食べに行こう」

 「ナニソレ」


 「メイドさんお好み焼き」ってのはアタシが暇を持て余して以前来た時に見つけたモノだ。

 このオタクグッズ店が立ち並ぶ通りからビミョーに外れた場所にそれはあった。

 通りから少しでも外れるとその手の店は全くない、つまりそのニーズの客は来ない、来ないんだけど何を勘違いしたのか始めてしまった、そんな感じのコンセプトありきのお好み焼き屋さん。

 アタシは暇を持て余しまくっていたので何の気も無しにフラフラその近くを気ままにさまよっていてその店を偶然見つけた。

 外から店内を見れるようになっていたのでチラリと覗いてみたところ、昼食時にも関わらずお客さんは全く入っておらず、一人寂しくメイドのコスプレをした妙齢のお姉さんが虚ろな表情でお好み焼きを焼いていらっしゃった。うわきつ。

 その光景は思わず同情心で入ってしまいそうなほどだった。しかし同時にその光景に圧されて入る勇気が湧かず、アタシは呻いてその場を立ち去った。


 「―――つまり、今度は入ってみたい、と」


 アタシの説明を聞いたリリィが答えた。

 

 「イエス。あのお姉さんを励ましに行こう」

 「何と言うか、地雷原に行くような気分なのだけど……」

 「キノセイキノセイ」


 リベンジだ。赤信号二人で渡れば怖く無い。そして5tぐらいのトラックにぶっとばされる。それが青春。まぁ違うと思うけど。




 「オカエリナサイマセゴシュジンサマァ!!」

 

 勇気を出して赤信号の横断歩道もとい店内に入ると、振り切れたテンションの挨拶で迎えられた。

 その声の主を顔に目を向ける。前見たお姉さんと同一人物という事は……なんていうか、辛うじて分かった。

 顔色は青ざめ、頬はこけて、目に光は無く、口元には気力の無い笑み。控えめに言ってマジでヤヴァかった。んでそれにメイド服の凶暴的なこのマッチングよ。


 前来た時から何があったのか。いやむしろ何も無かったからそうなっちゃたのか。


 店の中には他に客らしき男が一人だけいた。……しかしそいつは床に突っ伏して動く気配が無い。恐る恐るそいつを指さしながら、


 「あ、あの……その人どうしちゃったんデスカ」


 と震えた声で聞いてみた。


 「お気になさらず。彼はヘルもといヘブンに行っているだけですから!」


 気になるわ。


 「当店のもんじゃはこの通りヘブンに行っちまうレベルの絶品ですよご主人様方。あ、お嬢様、の方がイイですか?か?どうだいアベレージガールズ?」

 「……おおぅ」


 そりゃアンタに比べりゃ大体のヤツはアベレージである。

 ……これは、励ますとかそういうレベルじゃない気がする。白とか黄色とかの救急車を呼ぶべきかも知れん。


 「てか前はもんじゃ、じゃなくてお好み焼きじゃなかったですか……?」

 「あれ、前にも来られましたァ?」

 「い、いや前は通りかかっただけで……」

 「あちゃーそれは残念!ワタクシ前はもっとかわいかったノニ!今も可愛いがモチロン!」

 「……っ!花ちゃん、ここは退却!退却よ!」


 このメイドお姉さんの登場から呆然としていたリリィが我に返り叫んだ。うむ、今まで存在を忘れていた。無理もないが。


 「ニガスカッ!ウガァァァァオキャクもといカネヅルゥゥゥゥ!!!」


 野生に帰ったメイドお姉さんは店内のオシャレなソファをひっつかんで放り投げた。するとそれは丁度入口を塞ぐように着陸した。


 「閉じ込めたれた!?」

 「どんな店よ!?」


 いやそれよりどんなパワーしてんのお姉さん。リミッター解除的なモノが使えるんですかね。


 「ふぅーははは食ってけモンジャァ!」

 「あ、あわわわわ」


 ガクガク震えるアタシ達。唐突なデッドエンドのフラグがビンビンだ。タ○ガー道場行き不可避。


 「んじゃ雌豚様方ァ、今から作りますんで少々お待ちィ!」

 「やめてー」

 「ウオォォォォォォ!!!ガツガツ!!!」


 もっきゅもっきゅと可愛らしく、の思いっきり反対の様相の猛烈な勢いで野菜やら肉やら何やらを生のままかっ食らっていく。てかアンタが食ってどーする。


 「ウオォォォォォォ!!!ゴクゴク!!!」


 今度は酒を飲みまくっている。瓶で直接。その瓶に書かれた銘柄は、酒に詳しくないから確かじゃないが、水か何かで割って飲むのが普通だったと思う。

 しかしこのメイドお姉さんは普通では無いのだ。色々と。

 

 そして、この一連の行為の当然の帰結として、彼女の体の中で逆流現象が起き……なんつーか、もう描写したくねーなぁ……


 「キタキタキタ!お待ちどう!メイドさん手作りもんじゃどえっす!」

 「食えるワケねーだろ!!!」


 リリィとアタシのダブルツッコミが入る。


 「ある一定のニーズには大人気デス!」

 


 床にぶちまけられたソレは、歪んだハートマークを描いていた―――


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