4-1 ハウリング地獄-2
「デートだねぇ」なんて言って無茶苦茶に意識させたい。
……なんてキモイ冗談の言える雰囲気じゃ無かった。リリィとこうやって二人で遊びに行くのは以前は少なくなかったし、今のリリィの姿はどっからどう見てもただの地球人で、まるで昔に戻ったようだったけど、まるで落ち着かない。
前みたいにクソ下らない話でもしてりゃいい、と思うのだけど、そのクソ下らない会話の糸口すら見つからない。大体そういうのは考えて思いつくもんじゃない、適当に垂れ流すもんである。そして呆れられる。当然の帰結である。
リリィの表情も妙に固い。どう考えても「何か」あった。それもシリアスな話題なんだろうさ。リリィは「前みたいにしたい」なんて言ったけど、こんなんじゃできる訳が無い。
結局アタシ達は変わってしまったのだと思う。何故今までそんな事を考えなかったのかが不思議だ。
「……どこ行くよ」
「……花ちゃんが決めて良いよ」
「ほう?言いおったなこやつめ。よしよしオジサンがイイトコに連れてってあげようウシャシャ」
「……ははは」
無理と分かっていながら「前みたいな」ノリを狙ってしまうアタシ。或いは、と思ったが無理だった。空回った。いや空回りは前からだけど。何かそれ以上に手応えが無い。虚しい。
とりあえず最寄り駅近くに行くことにする。ここから駅に行くには自転車に乗っていくのも手だが、バスも少ない本数ではあるが通っている。携帯で時間を調べたら丁度いい時間のやつがあったので、アタシの家から徒歩5分のバス停から乗り込む。それなら駅まで15分くらいだ。
……会話が無い。付き合い始めのカップルか。いや付き合ったことないから知らんけど。ドチクショウ。
何だろうな、生きかえった後のリリィとは、あの恰好だからこそ話せた気がする。あのツッコミ所しかない姿が、生きているアタシと一度死んだリリィの間をうまく取り持っていたんじゃないのか。蜂人間なんてぶっとんだ設定の前には一度死んでる、なんて割とどうでも良かったのかも。蜂人間ならしゃーねぇ、みたいな。
いやしゃーなくないけど。
今の恰好だとどうも、「一度死んでる」ってのをどうしても意識してしまう。生前のリリィに対しての最後の記憶は、今見てるその姿が素材のグロ画像なワケで。ははは、はは……
ていうかリリィが張り詰めた表情で黙り込んでるのが一番の原因だよ。おい前みたいにしたいんじゃないのかコノヤロー。
だけど、それももうお終いだ。さぁバスが駅前に着いた。そこから歩いて3分程の場所にアタシ達の思い出の場所がある。もうそこに行けば二人はまたあの頃のように、みたいな。タブン。
―――その場所は「アドベンチャー&トレジャー」という安直な名前で、古本を主に扱う店なんだけど、この寂れた町には似つかわしくない程デカくて広くて品揃えがやたらめったら充実している。アタシ達はよくそこで遊んだ。
古本の他にもCDやらゲームソフトやら楽器やら服やらアクセサリーやらと言った中古品がズラリと並び、それを見て回るだけでも楽しかったけど、アタシ達の目当てはその中でも特別な物だった。
店に入るといつも、アタシ達は直感的に「こっちかな?」「あっちかも」「そっちのような気がする……」なんて言いながらソコを探し始める。奇妙な事にアタシ達二人の直感は、ほとんどの場合一致していた。
「あった!」「今日はここかぁ」「いつも場所が違うなんてヘンだね」―――そして、アタシ達は毎回違う場所でソコを見つける。
例えば、聞いたことのない作家の小説。知らないミュージシャンのCD。見たことの無いゲーム機のソフト。そんなモノが所狭しと並ぶ一角だった。
「この人ってダレ?」「こんな名前のゲーム機ってあった?」「……なんだか、他の世界からやって来たみたい……」……幼いアタシ達が初めてそれらを見た時、まさに異世界の物のような、いつも見る物と違う雰囲気を感じて、なんだかワクワクして胸が高鳴った。
今思えば、そりゃただ単にその頃のアタシ達が世の中に何があるのか知らなかったから、ということなのかも知れない。ただ、それと同時にさらに不可思議な事にも思い当たる。
例えばソコは、リリィとアタシ、二人が揃った時に、直感が働いて行ける所だった。ひとりきりだったり、他の人を連れてきたりすると行きつかないのだ。
一度、中学の頃同じクラスで、アタシ達二人と珍しく親しくなりかけていた女の子をそこに案内してあげようとしたことがあったのだけれど、さっぱり行きつかず、「何よ、そんなところないじゃない」「栄田さんも春野さんもワケわかんない」とか散々言われて疎遠になってしまった。それがアタシ達が二人だけで行動する事が多くなった1つの原因になるワケだが。
他には、その辺りでアタシ達以外の人を全く見かけなかったりだとか、今日に至るまで他の場所でそれらを見たことが無かったりだとか。マニアック、というには何だかそれが過ぎるような気もする。
少しだけ怖い感じもあったが、それよりも冒険心や楽しさが勝った。アタシ達二人が年を取るに連れていく頻度は下がっていったものの、初めの頃は毎日のように学校終わりに自転車を漕いで「アドベンチャー&トレジャー」に向かい、毎回ソコを直感を頼りに探し出した。
「『ネット流行語』……これってホントに流行ってるの?聞いたこと無いんだけど」
「ねぇこの攻略本ラスボスの攻略してないよ?丸投げ?丸投げなの?」
「うっはリリィ見なよコレ、セクスィ~じゃない?」
「ナニ見てるのよ花ちゃん……」
何と言うか、もしかしたらアレがアタシ達の青春だったのかも知れない。アタシ達二人だけで通じるモノ、それを通したお喋りってのは本当に楽しかった。
―――まぁー、今日行ったら潰れてたんだけどね。
「ナ、ナニィ」
「あらら。無くなっちゃったのねココ。何だか残念」
うーん……これも時代の移り変わりってヤツか。もっと行っとけば良かったーなんて言っても後の祭りだ。寂しい。タイミング悪すぎるだろうよ。
この二人で行くにはベストな場所だと思ったんだけど。こうなるとどうするか。
「じゃあ……えー……七ノ蘭駅で」
仕方なく、妥協案を出した。
七ノ蘭駅はここから地下鉄に乗り30分で着く場所だ。ここから電車一本で行ける駅としては一番栄えていて、とりあえず一通りのものが揃ってる都会で遊びたかったら行く感じ。つまりこの辺りの住民にはベタベタの選択肢だった。……だってそれ以外のトコが思いつかないんだモン。
そう言えば、今の蜂人間verのリリィが初めて来た日にも、アタシは七ノ蘭駅に行っていたなぁ。
……あれから2ヶ月ぐらいしか経ってないのかぁ。何だか盛り沢山過ぎて一年くらいに感じるよ―――




