表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/74

4-1 ハウリング地獄-1

 「―――実は『真価の闘技場』ってのは、あの円盤の中にあるのよ」


 そんなトンチンカンな事を言い出すマアリ。しかし、いくらトンチンカンだろうがこの一連の状況ではそれこそ『あり得ない、なんてことはあり得ない』ので、一々驚いてはいられない。

 

 今は2月の終わり。アタシは“真価の闘技場”での戦いをDランク戦まで勝ち残り、その次のCランク戦を間近に控えていた。


 「まじか」

 

 これほど心のこもっていない「まじか」もまぁ無いんじゃないか。

 円盤ってのは、マアリ達の地球人への宣戦布告の時に、巨大建造物「スターハント」を押しつぶした物だ。正式名称は……あれ、何だっけ。何のヒネリも無い名前だったってことは覚えてるんだけど。まぁいいや。UFOって呼んどこう。

 

 「まじまじ。スゴくない?エレベーターで下って行ってるのに行き先は遥か上空のアレよ?」

 「どうせ『蜜』で何とかしてるだけでしょ」

 「うわー感動の無い女だなー。随分慣れちゃった感じかい」

 「そりゃあもう腹一杯トチ狂った話を聞かされてるし。今だって『地球人丸ごとに宣戦布告した奴らのボスが自分の部屋に来てダベってる』なんて状況だし」

 

 マアリはよほど暇なのか、結構な頻度でアタシの部屋に侵入してくる。

 しかも壁をすり抜けてやってくるため、鍵とか全く意味が無い。ヤメロ。ちなみに今日は床から来た。気付いたら足元に首だけ見える状態のマアリがいた。「チャオ~」とか言ってさ。マジヤメロ。

 んでダラダラとダベる。一応は深刻な今の状況といまいち噛み合わない、ぬる過ぎる関係だった。

 

 「んー……じゃあコレは?あのエレベーターとか闘技場とか、全部リリィが創ったんだよ。『地下闘技場にはロマンがあるから』とか何とか。アタシにはよくわからんけど」

 「じゃあなんで闘技場自体には地下の要素ゼロなのさ。青空広がってるぞ」

 「コロッセオ設定も捨てきれなかったらしいよ」

 

 絞れよどっちかに。脈絡無さすぎるって。……てかリリィが創ってたのかアレ。勝手にマアリだと思ってた。あんなでっかいの何でもアリな“蜜”でも創るのキツそう。

 少なくとも今まで見たDランクまでの“戦士”の人達には無理じゃないかな……となると。

 

 「……もしかしなくてもリリィって結構強い?薄々わかってたけど」

 「結構どころか、アタシが創ってきた生命の中じゃナンバー1の性能だろうね。まぁ勿論あたしには及ばないけどね!エッヘン」

 「ハイハイ」

 

 こんな風に、結構重要なような、でもアタシの戦いにはあんまり関係ないような、ビミョーな豆知識をマアリが一方的に話し、アタシがしょうがなく聞き役になる、って日はわりとあった。

 そんな日はダラダラと駄弁り、ヌルヌルと時間は過ぎる。驚いてたのは最初の方だけ。今日も飽きたらマアリはサラっと帰るだろう。そしたら、



 ご飯食べてー


 お風呂入ってー


 寝る。


 それで今日はオシマイ。何の代わり映えも無い日常がいつも通りに何の成果も無く過ぎ去るはず。


 ……はず、だった。



 「…………え、え、ええぇ?何でさ?」


 もう大抵の出来事に驚かなくなったアタシの口から、驚きの声が漏れだした。

インターホンが鳴ったので2階のアタシの部屋の窓から玄関前を見下ろしてみたら、リリィがそこにいた。普通の恰好で。


 最近の、っていうより、マアリに蜂人間として蘇らされたリリィの恰好は、「普通」では無かった。ざっくり言うと、蜂の擬人化みたいなもので、私達地球人から見ればまぁ職務質問モノの姿をしているのが今のリリィだ。

 それが、今はコートにロングスカートという、少し肌寒い季節のファッションの、普通の地球人にしか見えない姿をしていた。

 まぁ姿なんて何でもアリな「蜜」でいくらでも変えられるんだろうが、わざわざそれをする意味が分からない。人目なんて今更気にしないだろうし、気にさせないことも可能だろうに。

 ……だから何?って話かも知れないけど。「何となく」でも通る話だ。でも何だかリリィの表情が張り詰めている気がして、それで余計に落ち着かない気分になってしまっている。

 わざわざインターホンを鳴らしているのも謎だ。この前まで、今日のマアリみたいにいつの間にかすり抜けてアタシの部屋に侵入してたのに。

 

 「……とりあえず出てあげたらどうだい」

 

 マアリの声にハッとして、思考から引き戻される。

 

 「何か話でもあるんだろうさ。あたしはもう帰ることにするよ。んじゃあねー」

 

 そう言って壁をすり抜けてどこかへ行ってしまった。

 ……まぁ、話を聞いてみないと異常かどうかも今のところわからないし。考える前に行動だね。一階に行く階段を駆け下り、リリィが待つ玄関前まですぐに飛び出していく。



 「……リリィ、どしたの。急に普通の地球人みたいな恰好してんの見ると違和感バリバリなんだけど」

 

 リリィを目の前にして開口一番、ド直球で聞き出すアタシ。

 うーん。目の前にするとホントにリリィが死ぬ前に戻ってしまったようなこの居心地の悪さよ。あの自動車事故が無かったことにされてしまったような。蜂人間として復活ってのはショッキングだったけど生前と全く同じ、っていうのもまた不気味だなと思ってしまう。

 その体がグロイ事になってるのアタシは見てる訳だし。

 

 「あー……いや、ちょっと、ね……。前みたいにしたくて……」

 どうも歯切れの悪い返事を返してくるリリィ。

 何だろなぁ、ただ「何となく」って感じでも無い気がする。

 

「まぁ、何て言うか……花ちゃん、久しぶりにどっか出かけましょうよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ