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三二 黒級冒険者

 それから、新たに強化された“ランサー”に乗って――――実際、運転はフォルテの【直感】に任せ、宗介は訓練がてらにその後ろを飛行しながら、トリッド活火山の荒れた岩肌を駆け下りること数刻。


 太陽が天辺を跨ぎ、傾きかける頃、彼らはまた冒険者ギルドに訪れていた。


 ドッシリと構えた扉に手をかけ、宗介達は久方ぶりのギルドに足を踏み入れる。その瞬間、中に居た冒険者達の視線を一斉に浴びるのは、やはり仕方が無いだろう。


 スマートな黒い全身鎧――サイボーグであると知らなければ辛うじてそう見える――の上からマントを羽織るように鋼の翼を纏った、顔の左半分を覆う火傷跡と眼帯が特徴的な灰髪の少年、宗介。


 煌めくような長い銀髪と蒼い瞳が美しく、しかし何処か気圧されるような独特な気配と魔力を感じさせる、氷のような絶世の美少女エリス。


 それと、何気に街ではそれなりに有名で人気な金髪碧眼の聖騎士である、フォルテ。


 これで目を惹くなという方が酷である。むしろ悪目立ちという言葉をここまで体現しているのも珍しい。翼に張られた気配遮断効果を持つ翼膜によって宗介のみ影が薄くなっているものの、マジマジと見つめられてしまえばその異常性が露見してしまう。


「今更になって言うのもなんだが、やりすぎた気がする……」

「気付くのが十日遅かったな」

「……でも、後悔はしてない、でしょ?」

「まあな」


 まあ、宗介としては全て割り切っているので、その不愉快な視線の中を悠々と歩いて行く。鋼の身体も異形の翼も、勇者達に追い付く為に必要不可欠だっただけなのだから、恥じる点はどこにも無いのだ。


 そうして辿り着くのは、ギルドの玄関正面に位置する受付カウンター。そこの空いている所へ適当に足を運んだ宗介は「どうされましたか?」という受付嬢の定型文に、体内に内蔵された“異空間収納の指輪”――宗介の魔力量的に銃の弾丸程度しか保管出来ない――から小さな金属のタグを取り出して答える。


「ギルドマスターと話がしたい。取り次いで貰えるか?」


 途端、ギルド内が一気にざわめいた。ギルドマスターと直接話をする者など、そう居ないからだ。果たしてあの色々とヤバイ奴らは何者なのか。名高い冒険者なのではないか。見慣れないのは“帝国”の奴だからだ。そんな憶測が無数に飛び交う。


 一応、その中でも宗介から金属のタグ……“仮登録証”を渡された受付嬢は、その仮登録証と彼の顔へ交互に目をやり、正体に察しがついたようだ。後ろの方で、いつぞやの投げ飛ばされた冒険者が正体に気付いてビクビクしているが、それは別に良いだろう。


「えっと、ギルドマスターから話は伺っております。ですが一応、ご用件をお伺いしても?」


 聞く限りではどうやら、仮登録証を発行された奴が居るということは知っていても、理由等は知らないらしい。そしてギルドマスターに取り次ぐには相応の理由が必要となる訳だ。仮にも一ギルドのトップ、その仕事に自由な時間が豊富ということはないだろう。


 そんな具合で尋ねてくる姿に、宗介は少し考え込む。果たして言っていいものなのかどうか、と。


 しかし数秒で、「まあ言いか」と結論付けた。どうせ直ぐに知れ渡るのだから隠す意味も無いだろう。


「言われた通り“炎帝”を討伐してきたから、その報告に来たんだよ」


 故に、さも当然のようにそう言い放つ。さっさと話してしまった方がスムーズに事を運べると判断したからだ。


「あ、はい、炎帝討伐のご報告ですね。かしこまりまし……」


 それを復唱し、ギルドマスターへ伝えに行こうとした受付嬢の動きが、ビシリと凍りついた。手持ち無沙汰に聞き耳を立てていた冒険者達もピタリと目を丸くして動きを止めた。


「あ、あの、大変申し訳ないのですが、もう一度お伺いしても?」


 やがて、聞き間違えたのかしら? という表情でおずおずと尋ねてくる受付嬢。無理もない。魔王軍幹部の一人、炎帝を討伐したなどと言われて、はいそうですかと信じられる者が何処に居るというのか。


 しかし事実である為、宗介はやはりあっけらかんと言ってのける。


「だから、炎帝を討伐してきたから報告に来たんだって。早いとこギルドマスターに取り次いで貰えるとありがたいんだが……」


 その瞬間、ギルド中の時が止まった。


 受付嬢も、隣で何か手続きをしていた冒険者も、後ろで聞き耳を立てていた者達も、一様に「……え?」という唖然とした表情を浮かべたまま凍り付く。


 動いているのは呆れたようにこめかみを抑えて溜息を吐くフォルテと、小さな手でエルフのようにちょろんと尖った――正確には吸血鬼のものだが見分けはつかないらしい――耳を塞ぐエリスと、面倒臭そうに眉を顰める宗介だけだ。


 粛然とした空気に包まれる冒険者ギルドトリッド支部。その空気は、大体一、二分程続き……


「「「えええぇぇ――っ!?」」」


 何やら不穏な雰囲気を察したのか、奥の扉を開けて訝し気な表情のギルドマスターが出て来たその時、再び動き出すのだった。




 ◆




「また、随分と風貌が変わったように見えるが」

「流石に大精霊が相手だと、無傷とも行かなかったもんで」


 マジマジと、左半分が焼け爛れた顔や鋼の身体、翼手を眺めるギルドマスターに、肩を竦めて答える宗介。


 人類切っての快挙に騒然とするギルドから、宗介達は、ギルドマスターによっていつぞやのように奥の部屋へと連行されてお話をすることになった。テーブルを挟んで宗介とエリス、ギルドマスターのゴルドが腰掛け、宗介の後ろにフォルテが立つ形だ。ギルドマスターは傍に鞘に納められた剣を立てかけている。宗介がシュトラーフェの射撃で破壊した物は修復されたらしい。


 ともあれ。


「十日も帰ってこないものだから、死んだか逃げたものだと思っていたのだがな」

「それに関しては、色々と事情がありまして。申し訳ない、とだけ言っておきます」


 宗介は畏まったように頭を下げる。流石に、今ここで高圧的な態度を取る意味もないし、むしろそれで事を荒立ててしまい冒険者登録が流されてしまったら目も当てられない。宗介とて場を弁えるくらいの技術は持っているのだ。主にヘタレ生活を送っていたせいで。


 顔を上げた宗介は、ゴルドが目で説明を促すのに合わせ、話を続ける。


「言われた通り、炎帝はキッチリと討伐しましたし、代わりに俺が創ったゴーレムも置いて来たんで、もうトリッド活火山が魔王軍の拠点になることは無いです。流石に残党の魔物達はまだ残ってますけど」

「ふむ……本当か?」


 ゴルドは、宗介の後ろに立つフォルテに目をやる。監視役として送られた彼女に、事の真偽を確かめているのだ。


 勿論、フォルテはその言葉に頷きを返す。


「間違いなく。私の名の下に、彼が悪ではないことを保証…………します」

「……なんだその間は」

「いえ、その、色々とありまして……。少なくとも魔王側ではないかと」


 頷いたものの、歯切れの悪いその言葉。きっと、火の大精霊ヘリオスに対するなんやかんやが頭の中で渦巻いているのだろう。あれに“炎帝ヘリオス”を倒したという前提が無ければ、完全に大精霊を敵に回す輩である。


 そんなことを何となく察したゴルドは、「ご苦労だったな……」と憐れみの言葉をかける。フォルテは何処か救われたような表情だ。


「まあ、フォルテ殿が言うなら問題ないのだろう」


 ゴルドは、ふぅと息を吐き、改まって宗介達へと向き直った。


 そして中心に鎮座するテーブルに手を突き、その頭を下げる。


「トリッド活火山の攻略、及び炎帝の討伐、この街を代表して……そして人類を代表して礼を言う。君達の活躍は、この街にとっても人類にとっても多大な物だ。そして、初めに君達にあらぬ疑いをかけた事、ここに深く詫びよう」

「ああ、いや、自分の為にやったことなんで。俺を信用してもらえて冒険者登録してもらえるなら、それで……」


 思わず動揺し、言葉に困る宗介。異世界に召喚されてから二度目であるものの、大の大人に頭を下げられるというのは中々に慣れないものだ。それが本心であろうと建前であろうと、宗介はまだ高校生なので。


 それに、これはあくまでも自分の為の行動による副次的な結果に過ぎない。というより、大々的に炎帝討伐のパレードやら何やらでも開かれたらたまったものではない為、むしろ自ら進んで感謝されたりしないよう、十日前は不遜な態度で交渉に臨んだまである。それなのに頭を下げて感謝されては、目論見が外れたと言うかなんと言うか……。


 と、ずっと隣で出された飲み物を啜っていたエリスがチョイチョイッと宗介のマントを引く。


「……ソウスケ。感謝は、受け取っておくべき」

「そりゃそうだが……。まあ、そうだな。そこまで言うなら、討伐報酬の冒険者登録には相応の譲歩を期待しても?」


 エリスの言葉に若干の動揺から帰ってきた宗介は、咄嗟に普段の調子を取り戻し、小さな優位者の笑みを顔に浮かべながら尋ねてみた。尋ねるとは名ばかりで、その実は要求に近いが。


「ああ、出来る限りはさせてもらうとも」


 そう言ってゴルドは、懐から金属のタグを二つ取り出し、テーブルに置いた。


 先程、宗介が受付嬢に渡した“仮登録証”に近いだろうか。手の平に乗るサイズで、装飾が付いたカイトシールド型の金属板だ。色は黒く、鈍い輝きを返してくる。上端には丈夫そうな細いワイヤーが取り付けられていて、恐らくはそれで身に付けるのだろう。


 宗介はそれをつまみ上げ、片方はエリスに手渡してからマジマジと見つめる。裏には名前やら性別やら、何年何月何日ギルド登録……といった具合に、宗介とエリスの情報が刻まれていた。仮登録証発行の時に教えた情報だ。


「これが、譲歩ですか?」

「ああ。君達の為に特別に用意していたギルドカードだ」


 事前に発行していたらしい。用意周到である。カードと言うには些か特殊な形だが、それはつまり冒険者ギルドのものであるという証拠だろう。


 それを見たフォルテが、驚いたように声を上げた。


「い、いきなり“黒”など……。本気ですか、ギルドマスター!?」

「勿論だとも。炎帝を倒すような存在なのだから、妥当であると判断した」

「それはそうですが、異例にも程が……」

「私なりの譲歩、という奴だな」


 ふふん、と鼻を鳴らすゴルド。しかし宗介達は“黒”の意味が分からずに首を傾げ、訝し気に尋ねる。


「見たところ、アダマンタイト製みたいだが……これは何か特別なものなのか?」

「ああ、やはり知らないのだな、説明しようか。冒険者ギルドにはランクがあってな――――」


 浮世離れして無知な宗介に、懇切丁寧説明してくれるゴルドによると、つまりこう言うことだ。


 ――――冒険者ギルドに加入した者は、全員が実力と実績に見合った階級(ランク)に格付けされ、受けることの出来る依頼等が決められる。そのランクは下から順に、(カッパー)(アイアン)(シルバー)(ゴールド)白銀(ミスリル)と存在し、その上に初代勇者や異世界から召喚された現勇者を讃える名誉階級、聖鉄(オリハルコン)が存在する。なおこれらは、先程、宗介達が受け取ったような盾型のギルドカードで表される。


 また基本的に冒険者達は皆、銅級から始まり、依頼をこなして実力と実績と名を上げていくことで上のランクへと昇格する試験を受けることが許される。それに合格すれば、晴れて一つ上のランクとなる訳だ。


 ちなみに言うと、銀級が凡人の限界。金やミスリルはズバ抜けた才能が無いと到達できない領域だ。実力だけで言えば、聖ルミナス王国騎士団長バラスト・シュヴェーアトやトリッドの街最高の実力者であるフォルテあたりが、金やミスリルに該当する。オリハルコンは、そもそも名誉階級なので論外。現在ではフォールン大空洞を攻略した六人の勇者達しか存在しない。


 そして、宗介達に渡されたギルドカードは……黒金剛(アダマンタイト)級の証。通称、“黒”。オリハルコンに次ぐ特殊な階級だ。


「黒級は、言わば国秘蔵の冒険者である証だ。飛び抜けた実力者や訳ありの輩等、極めて特殊な者に送られる」

「一段飛ばしどころか、一気に頂点じゃないですか。あんまり目立つのは勘弁なんですけど」

「安心してくれ。黒級は、例えばギルドの依頼掲示板に貼り出せないような危険な依頼か極秘の依頼等が主な仕事。それ故に目立たれては困るからな、人々の中における黒級は殆ど噂レベルの存在にまで統制されている。公にしなければ目立つことは無い」


 黒級。それは、“暗部”を請け負う許可を渡された特殊にして強大な力を持った冒険者である証であり、国家的な戦力として勘定される存在である証だ。故に、無用な詮索をしてはいけないというのが各国暗黙の了解。下手に手を出せば戦争であるので。


 歴代では、超優秀な暗殺者上がりの冒険者などがそれに任命されている。成る程、半人半魔の宗介と吸血鬼のエリスには相応しい階級だろう。


 宗介はその説明を受け、ピクリと眉を顰める。


「つまり、聖ルミナス王国の犬ってことですか」

「言い方が悪いが……似たような物かもしれんな」

「だとしたら、俺達の自由が奪われることになるんじゃないですか? それは流石に遠慮したいんですけど」

「勿論、有事の時には君達の力も借りるだろうが……基本的に黒級は自由なものだ、安心してほしい。どうせ今のご時世、暗部の仕事など高が知れているからな」


 嫌な時代だよと肩を竦めて笑い、コーヒーを啜るギルドマスター。喉の乾きが潤ったのか、またも話を続ける。


「それに、君達にも黒級として活動するメリットは存在するのだぞ?」

「へぇ」

「例えばだな……。私の独断と偏見だが、君達は国を跨いで活動する必要があるだろう? しかし、その為に必要な国境を越える依頼というのは数が少ないんだ。そして勿論、正当な理由も無しに国境を越える事など、基本的には不可能」

「成る程、黒級ならそれを受けられる、と」


 うむ、と満足気に頷くゴルド。


 確かに、宗介は国と国を渡ることが多くなるだろう。彼は勇者達を追いかけて会いに行くつもりだし、勇者達は、ここ聖ルミナス王国以外にもアングライフェン大帝国など様々な国を渡り歩くことになる筈だ。


 しかし今のご時世、冒険者が国境を越える方法は少ない。具体的に言えば、危険を犯して国境を越えようとする商人等の依頼を受けて同行するか、密入国するくらいしか存在しない。


 魔王軍が台頭し、魔物達が跋扈するこの時代。わざわざ命の危険を犯してまで長い道程を征く、商魂逞しい――もしくは無謀な――商人は少ないと言える。これは、宗介達がフォールン大空洞からトリッドまでの道程で魔物の大群に追われたことからも推して測るべし。国を渡るというのはとにかく危険なのだ。


 その点、黒級ともなれば各国への諜報活動や亡命した犯罪者の始末など、探してしまえば国を渡る依頼には事欠かないだろう。魔物を撃退する実力は言わずもがな。


 更に前述の通り、黒級には各国共に不干渉を貫いている。これはどの国も少なからず黒級冒険者を保有している為、イチャモンを付ければ逆に付け返されるという泥沼に陥るからなのだが……不干渉ならば、依頼をでっち上げてしまうことも不可能では無い。


 つまり、黒級は国家の犬にして、最も自由な存在なのだ。


 そして何より、“黒級”であるというだけで、宗介達の異常さを詮索されることが減る。半魔の宗介と吸血鬼のエリスからすれば、これ以上ないメリットである。


「……ソウスケ、どうする?」

「そう、だな」


 それらをやはり懇切丁寧に説明された二人は、見つめあって少し考え込む。


 ともあれ、この話を蹴って銅級から始めるか、黒級になってたまに国家の犬となるかだと……考えるまでもないだろう。


「分かりました、お受けします」

「うむ、妥当な判断だな」


 宗介は、軽く頭を下げてその黒級のギルドカードを身体に内蔵された異空間収納に仕舞った。エリスもそれに、渋々ながら追随する。


「十分過ぎる譲歩、感謝します、ギルドマスター」

「……同じく」

「半ば脅迫を受けた身からすれば、随分と反応に困るのだが……」


 お、おう、と言いた気な感じでたじろぐゴルド。内心、異世界の武器で剣をへし折られたりしたことが残っているらしい。その第一印象とは対象的に随分と素直な宗介の姿は、それはもう戸惑って仕方がないだろう。


 ともあれ。


 これで宗介達は、確かな身分が保証された訳だ。身分証が無い魔族という目下の問題はこれで解決。各街や国への出入りも、勇者のステータスプレートを提示することなく可能になった。トリッドの街でこなすべき事は全て終わったとも言えるだろう。


 ようやっと心を落ち着かせて休養を取れるなと、宗介はエリスを見て疲れたように苦笑いつつ立ち上がる。実際問題、疲れるような身体ではないのだが、張り詰めていたものが解れたようだ。


 そうして、ギルドマスターに一礼すると、応接室を後にしようと歩き出す。


「……おつかれさま、ソウスケ」

「一番疲れたのは私だ、全く。炎帝討伐の手伝いなど、今まで生きてきた中でも一二を争うぞ……」


 彼の後ろで、心底疲労が溜まったように溜息を吐くフォルテ。むしろそれに次ぐ苦労があったのか、と宗介は内心で驚いたが、面倒臭そうなのでスルーしておく。


 そんな彼女に、ゴルドが労いの言葉をかけた。


「これでフォルテ殿の依頼も完遂となるな。十日という長期に渡る監視、及び炎帝討伐への協力、ご苦労だった。報酬は明日にでも準備しておくから、暫くはゆっくり休むと良いだろう」

「そうします……。それでは、また何かあれば」

「ああ、よろしく頼む」


 そんな具合で定型文の挨拶を交わし、軽い会釈と共に宗介の後を追うフォルテ。


 そのまま三人は、今なお騒然とするギルド内を何とか突破し、今夜の宿を探しに通りをのんびりと歩いて行く。空はもう既に茜色に染まっていた。


「エリス、なんか嬉しそうだな?」


 そんな空の下、ふと隣に目をやった宗介は、傍を歩くエリスの足取りが心なしか軽いことに気付く。なんと言うか、今にもスキップし始めそうな感じだ。頬もほんの少し緩んでいるように見えるのは決して気のせいではないだろう。普段通り無表情ではあるのだが。


「……明日、楽しみだから」

「明日……あぁ、そうだな」


 マントの裾をさりげなく掴み、嬉しそうな無表情でそう言うエリスに、宗介は彼女とトリッド活火山へ向かう前日に交わした約束を思い返す。


 そう。フォルテによるストーキングのせいで潰された街の散策――――もとい、デートである。厳密にはただ、二人でのんびりと買い物等をする程度なのだろうが。何せ宗介にそういう経験が無いので。


 だとしても、エリスはそれを心待ちにしたいるらしい。


「……お邪魔虫無しの、二人っきり……久しぶり……」

「お、お邪魔虫とは私のことか」

「……他に居ない」

「ぐ、まあ私とて、明日は好きなことをして休みたいからな、邪魔はせんよ。ともかく、ここは良い街だ。名所らしい名所は数える程しか無いが、存分に楽しむと良い」

「……殊勝な心がけ」


 それでいい、と言わんばかりに鼻を鳴らすエリスに、溜息を吐くフォルテ。二人の関係は相変わらずらしい。宗介としては、フォルテにも色々と助けてもらっているのであまり無碍にもできない為、これが目下の悩みだろうか。


 勿論この街を出発すればお別れのつもりではある。しかし、二人とも暫くはゆっくりしたい為話題には出さないが、“金狼族の掟問題”は未だ健在なのだ。最悪の場合、フォルテが無理矢理旅に着いて来るなんてこともあるかもしれない。


 そこまで考えた宗介は、「その時はその時だ」と無駄な思考を掻き消す。今考えるべきは、明日の事のみ。エリスが心底楽しみにしているのなら、宗介もまた真摯に向き合うべきなのだ。


 ともあれ。


 程なくして良さげな宿を見つけ、フォルテと別れた宗介は……


(何事も無く平和に済めば良いんだが)


 そんなことを考えつつ――――エリスたっての希望によってベッド一つの二人部屋に泊まることになった為、【感覚共有】によって義肢でも感じ取れるようになったエリスの体温に、翌日のことも合わさりやたらとドギマギして眠れない夜を過ごすのであった。

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