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三一 機械化は止まらない

想像力を全開にしてお読み下さい。

 炎帝を撃破してから一週間と少し。宗介は、エリスの力も借りつつ様々なゴーレムを創造した。


 火山で腐る程回収できるアダマンタイトやその他鉱石、及びエリスがヘリオスと契約することによって自由に作り出せるようになった“火の魔石”を使い、活火山の火口の底というおよそ世界一安全なシェルターの中で、誰にも邪魔されることなくゴーレム創りに精を出すことが出来たのである。


 その結果が……


「……身体の調子、どう?」

「最高、の一言だな。絶好調だ」


 エリスの問いに対して、ニヤリと、左半分が焼けてなんとも痛々しい――中二病的な意味も含む――火傷顔(フライフェイス)に不敵な笑みを浮かべる宗介の姿だ。



 黒光りする鋼の胴と四肢に、各所が機械で構成されている翼を背負った、もはや何が何だかよく分からない生物……と言えるのかも怪しい謎の存在。たった一週間でよくもここまで変わったものである。


 例えば元から義肢であった右腕と左脚だが、装甲がミスリルからアダマンタイトへと挿げ替えられ、漆黒のボディに淡く輝く金のラインが奔るというクールな代物へと改造された。勿論内蔵エンジンやパイルバンカー、アサシンブレード等も相応の強化が成されており、今までのモノとはスペックからして別物である。



 次に、炎帝の最後っ屁によって使い物にならなくなった左腕だが、こちらは思い切って肩より少し先から切断し、同じく黒と金の義手に変えた。丁度、右肩に輝く地の魔石とは対照的に火傷跡の残った肩が覗く形だ。


 勿論武装も内蔵している。例えば攻撃的に尖った指の根元、掌に空いた仄暗い砲口。これはヘリオスの使い魔である炎の巨人スルトを参考に創られた、内蔵の火の魔石をエネルギー源とする大出力火炎放射器だ。レーザー砲と言っても遜色無いかもしれない。


 そして勿論それに留まらず、同じ火の魔石を流用したヒートナックル機構や高馬力エンジン、ショットガン等が内蔵されており、右腕とはまた別の方向性を持った義肢となっている。



 同じく炎帝の炎によって消えない火傷を負った胴体は、その表面を削りパワードスーツ型ゴーレムを纏うことで、強靭極まりない漆黒の肉体を得た。


 殆ど肉体と一体化したそれは、筋力などを馬鹿のように増強してくれ、そしてアダマンタイトの体表は如何なる刃をも通さないという化け物である。漆黒の胸部の中心には魔石が煌めいており、そこから金のラインが幾筋も伸びているという……見た目だけで言えばSF作品にでてくるサイボーグのようだ。



 また、右脚も中頃からバッサリと切り落として黒光りする義足に変えた。【痛覚遮断】ありきの大手術であったが、それはともかく。


 この右脚で筆頭すべきは、やはり重力操作装置“フライハイト”だろう。


 ――――地の大精霊クロノスと火の大精霊ヘリオス、二体の大精霊と契約することで“地属性”と“火属性”を操れるようになったエリスは、同時にそれら二つを混ぜ合わせた魔法を使えるようになった。


 そう、“重力魔法”だ。


 宗介の見立てでは、固体とエネルギーを合成して出来るのは“引力魔法”が関の山であった。しかしエリスの場合、生まれ持った地属性への適性と、クロノスと交わした契約のお陰で、文字通り“大地”を司る存在と化している。故に大地が宿す膨大なエネルギー……“重力”にまでその手を伸ばすことが出来たのである。全くもって嬉しい誤算だった。


 という訳でエリスの力を借り、周囲の重力を操る超兵器を搭載した。これによって宗介は、自身にかかる重力を弱めたり強めたり出来るのだ。お陰でアダマンタイト製の身体が誇る重量も苦にならない。



 で、自身にかかる重力を操れるようになった彼は――――生物を大地に縛り付ける枷から解放された宗介は、背中に一対の“翼”を創った。


 より正確に言えば、肩甲骨の間に取り付けられたアタッチメントから生える、“翼手”とも言うべき代物だ。


 飛竜とコウモリの翼が合わさったような漆黒のそれには、第三、第四の腕としても使用出来るように鉤爪が生えており、更に三本の骨には大出力スラスターエンジンが搭載されている。その鋼の骨の間には、あろうことか気配遮断の黒マントを加工した翼膜が貼られている為、いわゆる竜人がするように翼を身体に巻きつければ、従来のマントと同じく気配を遮断してくれる。


 勿論、片翼に三基……両翼手合わせて六基も搭載された推力偏向式スラスターエンジンは、“フライハイト”と合わせて使用すればジェット機のように空を飛ぶこともできる。そうでなくとも地を弾丸のように疾駆することくらいは容易いだろう。全くもって発想が馬鹿だ。


 だが、如何に馬鹿と言われようと、炎帝との戦いで空中戦に難があることを知った宗介は、どうしてもこれを搭載せざるを得なかった。この世界には空を飛ぶ魔物だって普通に存在するのだから、飛行能力が無ければそういう敵が相手の場合、苦戦は必至である。



 後は、その翼手の下から伸びる二本のロボットアーム。腰の横までグルリと伸びた第五、第六の鋼腕は、その手の先に、ハンドガンや新兵装を収めた武装ホルダーと細長い柩型の黒盾を携帯している。何かと便利な副腕だ。


 武装ホルダーに収められているのは、アダマンタイトを使用することによって強度が増し、更に威力も格段に強化された黒と銀のハンドガン、対魔物戦闘用大口径自動拳銃“シュトラーフェⅡ”が左右に一挺ずつ。両腕がゴーレムとなり、左腕でも膨大な反動を受け止めることが出来るようになった為、もう一挺創ったのだ。そして同じく、アダマンタイトで強化された回転式拳銃(リボルバー)型ゴーレム“クーゲルⅡ”が二挺、収められている。


 その他にも、基本的に睡眠等の必要性が低い身体に任せて様々なモノを創ったが、それはまた別の話としておこう。



 ともあれ。


 宗介は、晴れて“半人半魔の半サイボーグ”から“半人半魔のサイボーグ”へと進化した訳だ。きっと、世界最強に脚を一歩踏み入れたのではなかろうか。勿論まだまだ強化の余地はあるだろうから、慢心はしないが。


 ただ少なくとも……幼馴染の隣に立っても恥ずかしくないくらいの力は得た。


 故に宗介は、火山を飛び出して勇者達と再開した時の驚いた顔を想像して、思わず頬を緩める。顔の左半分に残った火傷跡のせいで少々ぎこちないのが気になる所だが、慣れれば幾分かマシになるだろう。


 ――――これならば、悠斗達と戦うことだって、北池を見返してやることだって、できる。


「……どうかした?」


 と、不意にほくそ笑んだ宗介の姿にエリスが首を傾げ、きょとんと紅い瞳を向けた。若干上目遣いなのもあいまってなんとも愛らしい。


 ヘリオスを倒し、鋼の身体と共に心の余裕を得た宗介は、ほっこりするものを感じながら彼女の頭にポンと手を置く。


「いや、気にすんな。それよりも、何だかんだ助けてもらってばっかで……ありがとな」

「……んっ」


 そしてそのまま、銀色の髪を撫でてやる。エリスはどうもこれがお気に入りなようで、撫でる度に満たされたような表情をするのだ。宗介としても悪い気はしない。と言うより、宗介自身も彼女の頭を撫でてやる時の感触が気に入っている。絹のようにサラサラで、触り心地が非常に良いらしい。


 ……それもこれも新しく習得した技能、【感覚共有】によって成せる技である。


 大量の魔物をシュヴァルツェアレーゲンで蜂の巣にしたからか、気付いたらレベルが上がっており習得していた技能。これのおかげで、両の義手からモノを触った感触を脳に伝えることが出来るようになったのだ。


 お陰で全身をゴーレムに変えても手や足の感覚を失わずに済んだのは、僥倖と言えるだろう。流石に四肢全ての感覚が無いというのは、日常生活をまともに送れるかも怪しいので。


 他にも、レベルアップしたことによって【高速創造】なる技能を習得した宗介だが……これが現在のステータスだ。


――――――――――――

西田宗介

機巧師 レベル:83

体力:3542

魔力:230

筋力:5426

耐久:6093

知力:740

敏捷:4760

技能:【言語理解】【ゴーレム創造】【ゴーレム複製】【遠隔操作】【感覚共有】【高速創造】【刻印】【痛覚遮断】【吸血】【火除けの祝福】

――――――――――――


 筋力などの一部ステータスは身体がゴーレム化したことで実質意味を成さない数値となってしまったのだが、大精霊であるヘリオスがステータスプレートに住まう“筆録の精霊”に命令してくれた――もとい、命令させた――為、ゴーレムの身体を基準にした数値が表情されるようになった。そんな具合でもはや人外というのもおこがましい化け物ステータスと化している。なお内蔵エンジン等をフル稼動させれば、実数値は更に上昇する筈だ。


 【感覚共有】と同時に獲得した技能、【高速創造】だが、これは読んで字の如くゴーレムを創り出すスピードを早める技能。恐らく、炎帝との戦闘中に全力でゴーレムを量産した為、発現したのだろう。一週間と少しという短い期間で身体中を改造出来たのはこの技能があったからこそである。


 最後に【火除けの祝福】だが、これはヘリオスから無理矢理貰ったものだ。これが無ければ翼のスラスターエンジンや左腕の火炎放射器は使えないので。


 閑話休題(それはともかく)


「さてと。ここで出来ることは大概やり尽くしたし、そろそろおいとまするか」

「……ん」


 ひとしきり撫でて満足した宗介は、まだ堪能しきっていないらしいエリスを連れ、ヘリオスの隠れ家に増設された工房を後にする。


 工房を出た先は……酷いの一言だった。元から存在した一室は、生活必需品を除くあらゆるものが――アダマンタイトの壁面も含む――宗介達に回収されており、黒一色だった壁は悲しいかな、ただの岩肌へと成り下がっている。ポツンと置かれたテーブルとソファ、そしてそこにグッタリと腰掛けるフォルテの姿と言ったら、何とも哀愁をそそる光景だ。


 と、工房から出てきた宗介達に気付いたのか件の女騎士フォルテが恨みの篭ったジト目を向けた。


「……やはり、君達を斬らなかったのは間違いだったかもしれない」

「いきなり何言い出すんだ」

「こんな人外魔境に十日も閉じ込め、あまつさえヘリオス様を良いように利用したこと、胸に手を当ててよく考えてみると良いんじゃないか?」

「あぁ、そのことか。悪かった悪かった、この通りだ」


 両手を上げ、ヒラヒラと降参の意を示す宗介に、フォルテは諦め切ったようにため息を吐く。


 まだ辛うじて人間と言える彼女は、トリッド活火山という世界屈指の危険地帯で十日も過ごした事が、相当な疲労として溜まっているらしい。まあ、機械の化け物と鮮血姫、そして火の大精霊ヘリオスと一つ屋根の下、一歩外へ足を踏み出せば燃え盛るマグマと未だ残る魔物達という極限生活を送れば、誰だってそうなってしまうだろう。特訓と称して魔物達と戦っていたこともあるが。


 ただの監視という依頼がこんな事態になるなど、流石に自慢の【直感】を以ってしても予想できなかったようだ。


「……それで? やっと出発するようだが、今後の予定は決まっているのか?」

「トリッドで冒険者登録やら何やらを済ませたら、しばらく羽を伸ばすつもりだ」


 エリスとの約束もあるしな、と気恥ずかし気に頬を掻く宗介。活火山に入る前に交わした約束は健在だ。勿論忘れてはいない。


 また宗介としても、ここ暫くは腕と脚を喪ったり義肢を創ったりストーカーに遭ったり火山で死闘を繰り広げたりと、中々に濃かった為、ここいらで一度休憩を入れたかった。という訳でエリスと一緒にのんびりトリッド観光と洒落込むのも悪くないと考えたのだ。


 それにここは折角の異世界だというのに、今の今までゆっくりと街並みを眺めることもできなかった。ならば少しくらい気を抜いてもバチは当たるまい。


「ふむ……私も久しぶりに休暇を取るとしようか」


 フォルテも、どうやって身体を休めようかと思案しつつ、外に向かう宗介達に追随するように立ち上がる。


 果たして、お姫様抱っこが積年の夢らしい少女趣味の騎士様がどのようなオフを過ごすのか。少々気になるものはあるが取り敢えずスルーし、宗介は両の義手に力を込め、おもむろに隠れ家の外へと続く扉を開けた。


 ……ここは火口の底に位置する居住スペース。ならば当然の如く荒れ狂うマグマが侵入してくるのだが。


「エリス」

「ん」


 生憎とエリスが手をかざせば、それだけで紅蓮の流れは押しのけられていく。


 今の彼女は、大地と炎を統べる存在。故にマグマ如きは問答無用で彼女の前に平伏し、炎の海はその海底を晒して島へと続く一本の道を作り出した。


 ……しかし現れたのは、十日前と違って実に無残な道だ。元々、荘厳な漆黒のオブジェクトが立ち並んでいたと言うのに、もはや柱と石畳の跡しか残っていない。当然ながら宗介が回収……もとい強奪した結果である。今やその柱等は、義肢の一部と化していたりインゴットに加工されてエリスの指輪に収納されている。


 勿論宗介にとっては些事に過ぎない。ただ、そこに有ったから使っただけだ。


 宗介は、「流石だな」と賞賛混じりにエリスの頭を撫でる。そして嬉しそうに頬を緩める彼女を優しく抱きかかえ、義足のエンジンを打ち鳴らすと、一息に道の先に鎮座する島へと跳躍した。


 アダマンタイトの鎧を着ているような身体でよくもまあ、と言ったところだが、これは普段から軽く展開している重力操作装置“フライハイト”のおかげである。宗介の身体は、常時、アダマンタイトという重金属の重さを緩和する反重力場を纏っているのだ。


 それによって生み出されるプロアスリート顔負けの身軽さに任せ、宗介は階段などまるっと無視して眼前の岩石島――――旧、決戦場に降り立つ。背後で、フォルテが必死の形相で閉じて行くマグマの峡谷の中を走っているが……とりあえずは大丈夫そうだと判断した宗介は、エリスを傍らに降ろしつつ、旧決戦場に佇む“それ”を見上げた。


「よう、火の大精霊様。身体の調子は、問題無さそうだな?」

『非常に不本意な上、全くもって気に入らんが……認めてやろう。絶好調だ、半魔の小僧(マイマスター)


 予想通りの良い返答に、ニヤリと笑う宗介。


 その目の先には、一機(・・)の巨大な赤い龍が居た。


 鏡のような輝きを放つ鋼の胴体と、そこから伸びるバルカン砲付きの太い四肢。


 長く重厚な刺々しい尻尾の先端には、両刃の大剣が取り付けられていて。


 背中からは二対、計四つも、旅客機ばりに巨大なジェットエンジンを搭載した翼型のウェポンベイが生えている。


 もたげられた頭には、赤熱したブレード型の角と宗介達を睥睨する眼光が輝き、胸部の中心では全身に赤い光のラインを迸らせるコアが、煌々と赤い光を放っていた。


 ――――翼を含めた全高はおよそ二十メートル、全長三十メートル強を誇るその巨龍の名は、機導龍“ベテルギウス”。


 宗介が自身の義体に搭載する兵装や新たな武器の試作がてらに創造し、そして改良を加えた、火の大精霊ヘリオスが搭乗する規格外極まりないゴーレムである。


 そんな龍がズゴゴゴ……と頭を宗介達に向ける。同時、フォルテも島まで上がってきたようだ。ダラダラと冷や汗を垂らしながらエリスに詰め寄る。


「こっ、殺す気か!? あのまま火口の底で燃えカスになるかと思ったぞっ!!」

「……生きてたから、結果オーライ」

「そ、そういう問題では……っ!」


 まあ、勿論サラリと受け流され、ぐぬぬと歯噛みすることになるのだが。この十日間で何度か目にした光景に、宗介とヘリオスは呆れたようにため息を吐く。


『……それで、黙って出て行かなかったのは何か理由があるのか?』

「いや、一先ずお前のボディ創りは出来なくなる訳だし、トリッド活火山を守護するゴーレムの最終チェックも兼ねてな」


 とりあえず二人を無視して尋ねるヘリオスに、宗介は肩を竦めて答えを返した。


 勿論、何処かに不備がある、なんてことは無いだろう。何せ宗介のゴーレムなのだから。


 そしてヘリオスも、自らを手の平の上で弄んだ宗介を恨んではいるが、その“機巧師”の勇者として召喚され自身を打ち負かした彼の力だけは認めている。殺したい程憎んではいるが。むしろ何度か本気で命を獲ろうとして小競り合いを起こしているが。


 ともかく。


「まぁ……大丈夫そうだな?」

『ふん、不本意だがな。何ならその身で試してやっても良いぞ?』


 絶対的な自信に満ちた表情で笑う宗介に、ヘリオスが、四つの翼型ウェポンベイを展開し搭載されたミサイルの鼻頭を向ける。


 先端が尖った二メートル程の円筒に四枚のウイングが生えた、銀色の槍。


 宗介はその破壊兵器を前に、ニヤリと嗤った。


「良いね、俺も新しい身体のテストがしたかったんだ。さあ来い」

『クク、上等ではないか!』


 嬉々として吼えるや否や、ウェポンベイのミサイル達がけたたましい轟音と炎を噴いて射出された。


 宗介は即座に傍のエリスを抱きかかえ、何事かと目を剥くフォルテを背から伸びるロボットアームで掴み上げると、ドルルルンッ! とエンジン音を響かせて地を蹴り高く跳び上がる。


 四本のミサイルは、跳び上がった彼に向けてグルリと軌道を修正し飛翔する。勿論、創った本人である宗介は、そのホーミングミサイルから逃れるというのが一筋縄では行かないことを理解している。


「な、なな何をっ!?」

「舌噛むから黙ってな――――フライハイト、リミッター解除」


 故に紡がれた短い言葉。それをトリガーとし……


 ギャリリリイイィィィッ!!


 宗介の両義足が黒いスパークを纏い、装甲が展開して白煙を噴き出し、そして金属と金属を擦り合わせるような耳をつんざく異音が鳴り響いた。


 そう、重力操作装置フライハイトがフルパワーで稼働した証だ。重力を操る程の膨大なエネルギーが、魔力のスパークや熱、音として漏れ出すのである。


 そして宗介は、自身にかかる重力がほとんど打ち消されたことを確認すると、耳を押さえるエリスとフォルテを抱えたまま、背中の翼手を大きく広げる。六基のスラスターエンジンが付いた翼だ。


「空中戦は、まだ不慣れなんだがなっ」


 異形の姿を晒しつつ吐き捨てた宗介は、跳び上がった彼に向けてグルリと軌道を曲げて迫ってくるミサイルを睥睨すると……翼のスラスターから六条の青白い火を噴き、流星の如く天へと舞い上がった。


「良い風だ!!」

「んっ!」

「――――ッ!?!?」


 ヒャッホゥ! と叫びそうな勢いで空を疾走する宗介。その彼にギュッと抱きついて風を全身で味わうエリス。一人顔から色を失って声にならない叫びを上げるフォルテ。


 空は古来より人類が求めてやまない境地。ミサイルという邪魔こそあれ、宗介は今そこにいる!


「しかし、このままじゃミサイル直撃は必至なんだよな」

「……スピードが、違う」


 残念なのは、空気抵抗やスラスターの出力等の違いのせいで、宗介とミサイルではどうしても速度に差があることだ。しかもミサイルの威力的に、追いつかれたら宗介達は三人ともミンチと化すだろう。


「なら、堕とすまで!」


 翼を大きく開き、急制動をかけてミサイルに向き直った宗介は、その死の未来を回避するべく左腕のギミックを稼働させる。


 突き出された左腕がジャココンッ! と展開し、機関部や排熱用のラジエーター、大規模吸気口が日の目に晒された。


 内蔵された火の魔石が、それら全てに魔力を供給し、瞬く間に鮮やかな赤色のラインが刻まれて行く。


 そして掌に空いた仄暗い孔に……紅蓮の炎が凝縮される。


 それを見てニヤリと口の端を釣り上げた宗介は、左の掌に空いた砲口を眼下より迫るミサイルに向け、呟く。


「――――吹き飛べ」


 刹那。


 ドォウッッッ!!!


 膨大な熱量と紅蓮の輝きが一条の熱線と化し、義手の掌から迸った。


 見た目は、もはやレーザービームそのもの。その極太の炎は迫って来ていたミサイルを容易く呑み込み、瞬時に融解し、四発とも無残に爆散させてしまった。


『クク、流石だな』

「だろ?」


 自慢気に笑う宗介の左腕に内蔵された兵器……焼却砲“メギド・カノン”。その最大出力は鋼鉄をも焼き穿つ。ならばミサイル如き、羽虫と変わらない。ちなみに出力や熱線の形状はある程度操作することも可能。


 ただし、最大火力で放てばアダマンタイトの義手すら耐え切れずに融解し、クールタイムとメンテナンスが必要になるという欠点がある。この点に関しては“試作品”の段階から改良出来ていない。


 しかし、その欠点を考慮してもお釣りが来る威力だ。十分に実用範囲内と言えるだろう。


 無事にミサイルを迎撃出来たことに、宗介は赤熱し白煙を上げる左腕を気にしながらも満足気に頷く。


「ま、こんなもんだな」

「……十分過ぎる」

「あんなもの、生身の人間が受けたら塵も残らないぞ……」


 呆れたように息を吐くフォルテ。しかし宗介はそんなことを気にはしない。スラスターエンジン付きの翼を広げ、六条の火を噴いてフワリと舞い上がる。向かうは上空……火口の天辺だ。


 しかし。それはヘリオスも想定していた。


『まだ、この身体は力を残しているぞ!』


 マグマの海に浮かぶ島にドッシリと構え、翼型ウェポンベイに搭載された四基のジェットエンジンを全て地面に向け、顎門を開く巨龍。


 その中に秘められていた特大の砲口……“試作型メギド・カノン”にエネルギーを集めていく。


 そう、巨大さに任せて改良を重ねた結果宗介の義手に搭載されたそれよりも最大射程、最大火力共に上回った、ベテルギウスが搭載している武装の中でも最強の兵器だ。しかも“火の大精霊”が宿っているせいでチャージ速度も尋常ではない。


「ちょ、おま、マジかっ!」


 創った本人はそれを良く知っている為顔を青ざめ、全力でスラスターをふかし踵を返して全力で逃げ出す。


 アレは“アイギス”を以ってしても防ぐことが出来ない威力なのだ。創った本人も「やりすぎた」と反省しているレベルと言えば、その絶大さが少しは伝わるだろうか。


 チャージはものの数秒で臨界点まで到達し、 キィィィ――――と、その温度のせいで凝縮された炎が純白に輝く。


 そして、その瞬間。


『蒸発するが良いぞ、小僧(マスター)!』


 最強の砲撃が、天へと向けて放たれた。


 極太の熱線が、今にも火口から脱出しようとしていた宗介達を容易く呑み込み、ただ一直線に天を衝いて迸る。


 威力に比例するように膨大な反動は、相殺する為に地面に向けてフルパワーで火を噴くジェットエンジンが地面を融解させていく程。わざわざこの為だけに搭載されたジェットエンジンは、何処か嬉々としたように唸り声を上げる。


 世界でも類を見ない威力の砲撃は、およそ数十秒、たっぷりと時間をかけてそのエネルギーを放出し切り……やがて細くなって霧散した。


 流石と言うべきか、射線上には何も残っていない。巻き込まれた宗介達も、一緒に呑み込んだ火口の縁の岩盤も、遥か彼方の雲すらも。


『……チッ』


 だというのに、ヘリオスは舌打ちを飛ばす。


 何故か? 自身と契約した吸血鬼の少女の繋がりが、今なお健在だからだ。


 ……あり得ない。いかに火除けの祝福を与えたと言っても、流石にあれで生き残るのはあり得ない。


 しかし事実、生き残っているのだ。その証拠に、熱線に呑み込まれて吹き飛んだ火口の縁から宗介達が姿を現す。


「いやはや、我ながら良い火力だ。その身体の操作も掌握したらしいし……最終チェックは完了だな」

『チッ、空間転移か』

「はは、ご名答」


 宗介が見せつけるように掲げた左手の甲に輝く、ダイヤモンドのような魔石。


 見た目だけなら右腕の“アイギス”と変酷似しているそれは……ヘリオスの隠れ家から取っ払った空間転移装置だ。


 名は“アクシス”。宗介の魔力量的に視認範囲内での短距離転移程度に限定される上に、アイギスと同じく乱用もできないが、それでも十分に強力な兵装と言える。何せ文字通りの瞬間移動なのだから。


 これを使用し、メギド・カノンの砲撃に呑み込まれる寸前にその場から緊急脱出したという訳である。


 そんな具合で火口の縁に立ち、砲撃のクールタイム真っ只中の機龍を見下ろす宗介。エリスは宗介に抱きかかえられたまま。フォルテは一人、「申し訳ありません、二人が色々と申し訳ありません!」と全力で謝罪しているが、それはともかく。


「じゃあなヘリオス。力を貸してくれたこと、感謝する」

「……火山の管理、頑張って」

『チッ、全くもって面白くない奴らめ……。二度と戻ってくるなよ。そして何処かで死んでくれ。火葬くらいはしてやる』

「そりゃどうも。ま、期待せずに待っててくれ」


 中々酷い見送りの言葉に、思わず苦笑う宗介。


 十日の間に似たような口は何度も叩かれているので慣れたものだと受け流し、今回の小競り合い(・・・・・)も無事に収束したことに満足しつつ、踵を返してトリッドの街への帰路に着くのだった。

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