表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/58

十三 半人半魔の半サイボーグ爆誕

「そもそも、あのゴーレムは何なんだ? 色々と調べたが、規格外にも程があるぞ」


 カツン、カツンと石製の松葉杖を突いて難儀そうに歩きながら、宗介は先を行くエリスに尋ねる。見上げた先には、禍々しい黒金の扉が聳え立っていた。鮮血姫と戦った、奈落の墓場――――“ボス部屋”から出る為の唯一の扉だ。


「……あれは、魔王が、ここを守る為に置いた駒。命令を出していたのは私だけど、詳しいことは知らない……」

「そりゃ残念。ま、解析すりゃ分かるんだろうけど」


 自己修復機能然り、巨体らしからぬ挙動然り、魔力障壁然り。どれも過去に確立されていれば、今なおゴーレム技術は現役だったであろう代物ばかり。もしも魔王が創ったならば、魔王も相当に規格外な存在である。宗介からすれば是非ともコピーして自分のものにしたい技術だ。


「魔王も、実は機巧師だったり……」

『それは無いわねぇ。あれは空間魔法の使い手よぉ。居城に張られた、大迷宮を支点とする大規模空間断絶結界なんて、精霊王様でも破れない代物なの。ゴーレムを創る力は持ってないと見るのが妥当ねぇ』


 ふよふよと舞う光球クロノスの言葉に宗介は、空間魔法? と首を傾げた。


「確か、エリスが着けてる指輪(・・)に付与された属性だよな。瞬間移動とか、空間圧縮とか、そういう感じの」

「……ん」


 宗介はチラリと、エリスの左手に目をやる。小さなダイヤモンドのような魔石が輝く、シンプルな指輪だ。魔王から貰ったというそれには、いわゆる“異空間収納”の魔法が付与されているらしい。


 と言っても、そもそも吸血鬼には生活するにあたって必要なものが少ない為、食料となる貯め置きの血液くらいしか入っていないようだが。


「そんな属性で、どうやって他者を隷属させるんだっていう疑問が湧いた。あと、わざわざ魔王城に引きこもる理由も謎だな。人間の街に魔物の軍勢を転移させるだけで、阿鼻叫喚の地獄絵図だってのに」

『そんなこと、私達に言われても分からないわぁ』

「……魔王なりに、考えが、ある?」

「ま、今考えることでもないし、関係もないか。それよりもまず、この先のゴーレムだ」


 カツンッと松葉杖を止め、宗介は目の前に聳え立つ大扉を見上げる。


「頼む」

「……ん」


 その扉に、エリスが無言で手を添えた。


 すると、ガゴォン……と重い音を立て、ゆっくりと開いた。半ばまで開いたその扉を、二人と一匹は潜る。


「おぉ、瓦礫の山が片付けられてる」

「ん、ソウスケが眠っている間に、片付けた」

「……迷宮運営の裏側を垣間見た気分だ」


 扉の向こうに築かれていた筈の、元大橋とゴーレムによる瓦礫の山は綺麗に姿を消し、そこには巨大な石の騎士が横たわるのみであった。


 その騎士像の姿に、宗介は怪訝そうに眉を顰める。


「修復されてる? 機能は完全に停止させた筈だが……?」


 何故か、落下の衝撃で歪んだボディも千切れ飛んだ四肢も、全て綺麗さっぱり元通りだったのだ。


 チラリとエリスに目を向けるが、「私じゃない」とエリスは首を振る。


「私は、ゴーレムの造りなんて知らないから、修復なんて出来ない」

「それじゃあ、なんであのゴーレムは――――ッ!?」


 不意に、部屋が揺れた。


 同時、ドッ、ドッ、ドッと鼓動を打つような重低音が鳴り響き、ゴーレムの各部装甲が展開される。そこから白煙が吹き出し、そして頭部のスリットに紅い眼光が宿る。


「な、なんで……。間違いなく止めた筈なのに……」


 ズシン、ズシンと重く地を鳴らし、騎士像が立ち上がった。


 高さは二十メートル。刺々しい装飾が施された鎧の、胸部装甲の中心部には、光を失った黄色い魔石が埋め込まれている。


 間違いなく起動式は破壊されているというのに、その巨大なゴーレムはドルルン、ドルルンと独特な駆動音を撒き散らして咆哮する!


「――――ォォオオオォォオオ゛オ゛オ゛ォォ!!!」


 暴力的な音圧が、奈落の底を揺るがした。


「っ、訳が分からねえ、なんであいつは動けるんだ……」


 完全に、機能を停止させたゴーレムを解析するつもりだった宗介は、ただ唖然とした。


 起動式は依然として宗介が破壊したままだ。動力が無いのに動ける筈がない。だというのに、あのゴーレムは当然のように動き出した。そんなことあり得ないのに。


「いや、規格外なのは分かってたけどっ! エリス、止まれって命令してやってくれ!」

「……無理。今の私は、マスターとして認識されていない」

「マ、マジか」


 当然といえば当然だろう。あれは元より“魔王”がエリスに貸し与えただけなのだ。そのエリスが魔王軍から離反したのなら、没収されて然るべきである。


 しかし、そうすると宗介には止める手段が無い。また、こんなことになるなど微塵も想定していなかったので、パイルバンカーはおろか回転式拳銃(リボルバー)型ゴーレムすら持ってきていない。右腕が無いのでガントレットなど論外だ。気配遮断のマントだって、そもそも義肢が出来るまで百層から出るつもりは無かったので羽織っておらず、あるのは少し血の跡を残した服と武器ですらない松葉杖だけ。


 ――――割とヤバイ。


 宗介の頭をそんな言葉がよぎった瞬間、ゴーレムが石の床を砕き駆け出した。ドルルンッという駆動音と白煙を撒き散らして。


 振りかざされた巨剣に、宗介は青ざめる。片脚と松葉杖では機敏な動きなど不可能であり、つまりこの一撃を避けることが出来ないのだ。


 それを知ってか知らずか、エリスが静かに前に出た。


「お、おい! 何して……」

『落ち着きなさいな。この子なら何も問題なんて無いわ』


 クロノスの言葉に小さく頷き、向かってくる騎士像へと右手を伸ばす。細められた瞼から覗く紅い瞳が、スリットの眼光と交差した。


「ォオ゛オ゛オオッッ!!」


 騎士像にとっては、彼女も攻撃の対象。殺してほしいならば殺してやろう! と、その巨剣を振り下ろす。


 エリスは吸血鬼である為、直撃しても死ぬことはないだろう。しかし両断されるかミンチになるかは免れない。対鮮血姫戦で何度も見たとは言え、未だR18-Gを直視する勇気が無い宗介は、思わずその光景から目を背けた。


「石くれ風情が、この私に歯向かうなんて……」


 轟、と風を切り、巨剣が迫る――――


「……不敬」


 ――――ギシィッ!


 なんとも言えない嫌な音が響き、右手に巨剣の切っ先が触れるか触れないか、といったところで騎士像の動きが止まった。


 依然として動こうとしているのか、ギシギシと鎧が音を立てるが、まるでロウで固められたかのように動かない。


「……は?」


 またも宗介は唖然とした。


 二十メートル級の巨像と、それと比べるともはや豆粒のような少女が対峙し、巨像が動きを止めたという意味不明な事態が起こったのだ。理解が追いつかなくても無理はない。


 そんな何とも言えない事態を前に、クロノスがふわりふわりと得意気に揺れる。


『流石、私が見込んだ子よねぇ』

「…………どういうことだ?」

『あの子は生まれ持った“地属性”への適性に加えて、この私、“地の大精霊クロノス”と契約してるのよぉ? あのゴーレムの材質が地属性で操れる物質である以上、問答無用で支配下に置けるわぁ』


 そういえば“大地を統べる者”とか言ってたなぁ……と初邂逅の時を思い返す宗介。


 つまる所エリスは、騎士像の自立制御の上から、石の身体全体を操ったのである。そうすることで、無理矢理、物理的に動きを停止させたという訳だ。


「ぶ、ブッ飛んでやがる」

「ん……。クロ、何処をどうすれば止まるか、調べて」

『任されたわぁ』


 光球が、動きを止めた騎士像の周りをくるくると舞う。騎士像は鬱陶しそうにするが、エリスによって身体の自由を奪われており動けない。


『ふむふむ……。なるほどねぇ、面白いじゃないのぉ。ソウスケも見ておきなさいな! きっと役に立つわよぉ!』


 やがて解析し終わったのか、やけに興奮した様子で舞い戻ってくるクロノス。


「そもそもその為に来たんだけど。……しかし、俺にはその、分析するような目は無いんだが」

『あら、そういえば人間だったわねぇ。じゃあどうやって構造を調べるつもりだったのよぉ?』

「元々は停止してるゴーレムを解体分解して解析する予定だったんだけどな……。まさかの事態に予定が狂った」


 どうしたもんか、と宗介は頭を捻る。


 彼女――精霊に性別は無いので暫定的に女性としている――は、魔力の流れか石の構造を読み取ったのだろう。しかし宗介はそんな、目に見えないものなど見える訳がない。


「……クロ、ソウスケに“魔眼”を」


 不意にエリスが、そんな頼み事をした。絶えず駆動音を鳴らして抵抗を試みる騎士像など、どこ吹く風である。


 クロノスはふよふよっと、八の字を描きながら思案する。


『んー、そうねぇ。エリスを助けてくれた恩もあるし、本来なら契約して地属性魔法を使えるようにしてあげるのだけれど、ソウスケの魔力だとちょっと……って所だしぃ、アリね』

「おい待て、何だよ“魔眼”って。これ以上俺を人外に変えるつもりか……?」

『大丈夫よぉ。その見た目だけの左目を改造するだけだからぁ』


 改造という言葉に寒気だち、思わず宗介は松葉杖を脇に挟んだまま自身の左目を手で隠した。


 漆黒の強膜と血色の虹彩を持った、見た目だけは確かに“魔眼”と言われてもおかしくないような左目。そもそもこの目は後天的に吸血鬼となった者の証であり、()人族の()ではあるのだが。


『痛くなんてしないから、安心しなさぁい』


 顔があればきっと、相当に悪い笑みを浮かべているだろう調子で、ふよふよと宗介の左目に光球がにじり寄る。


 ――――逃げられない。


「や、やめ、やめろぉぉっ!!」


 悲痛な叫びが奈落の底に木霊する。


『逃がさないわよぉ! おとなしく“龍脈眼”を受け入れなさい!』


 些細な抵抗も虚しく、目を覆う左手とギュッと瞑られた瞼を通り抜け、光球が左目に入り込んだ。実体の無い精霊が目の中に入るという鳥肌物の体験に、「ぐおぉっ」と嫌悪感を露わにする宗介。


「な、なんてことを! 気持ち悪りぃ、さっさと出て行け……っ!!」

『言われなくてもぉ。さ、もう目を開けても大丈夫よぉ』


 宗介は言われるがまま、恐る恐る左目を開ける。


 途端、左目に射し込んだ強烈な黄金の光に眉を顰めた。


『ふふっ、“龍脈”を視る眼の調子はいかが?』

「ひ、左の視界だけ眩し過ぎて何も見えないんだが」

『その光が龍脈を流れる“魔力”よぉ。ここは地属性の魔力が一点に集まる場所だからぁ、焦点を上手く合わせないと何も見えなくなるわねぇ』


 “龍脈眼”。


 地の底を流れる膨大な魔力の流れを可視化する魔眼だ。龍脈と銘打ってはいるが、その魔力の可視化は地中のものだけでなく、大気中の魔力にまで及ぶ。


 ただし、視るだけだが。


「役に立つのか、これは……」


 顔を顰め、左目を手で覆いながら宗介はボソッとぼやいた。


『ゴーレムは魔力で動くのよぉ? 構造を把握するのにはピッタリではなくて? それとも、石化の魔眼とかのほうが良かったかしらぁ?』

「その響きはちょっと魅力的だけど、却下だな……。それで? この魔眼の使い方が分からんのだが」


 龍脈の、太陽のような金の輝きに目を細め、宗介は辺りを見回す。余程魔力が濃いのか、左目が痛みを訴え【痛覚遮断】がその効果を発揮している。


「……焦点を合わせて、見たいものだけに、目を向けるの。そうすれば、多分……」

「び、微妙に曖昧だな」


 エリスに説明されたまま、右目の視界を参考に、魔眼を騎士像へと向ける。意識から外された黄金の魔力は途端に薄くなり、騎士像に流れる魔力の流れが見え始めた。


 胸部装甲の奥、心臓部の大きな魔力塊を発端とし、頭部から四肢の末端までを巡る赤い魔力(・・・・)の流れ。更に手前には起動式を破壊した地の魔石があるが、魔力源はそれではないらしい。


「…………魔石が、二つ? 地属性でもない、よな」

『そうねぇ。本来の核である地の魔石とは別に、火の魔石を使った予備動力源を持っているみたい』

「成る程、あの赤いのは火属性か」


 宗介はジッと目を凝らし、魔力の動きを観察する。


 どうやら心臓部では、連鎖的に爆発が起こっているようだ。あの騎士像のけたたましい駆動音は、恐らくこの爆発が原因である。


「構造の透視は流石に無理か……。エリス、胸部装甲を引っぺがせるか?」


 とりあえず、あれを止めねばならない。つまり予備動力源を停止させなければならない。


 胴体の奥底に内蔵された魔石に触れ、起動式を消す。


 その為には、やはりエリスの協力が必要だ。


「……余裕。任せて」


 エリスは頼られたことが嬉しいのか、ほんの少しだけ表情を緩め――――そして即座にスッと目を細め、騎士像を睨みつける。


 溢れる魔力によって銀色の髪が、白いドレスがふわりと揺れる。


 瞬間、騎士像が悲鳴のような唸り声を上げた。


「オ゛オ゛オォォオオ゛ッ!!」


 メキ、メキ、メキッと石のボディが嫌な音を鳴らす。勿論その間も、ただの一ミリも動くことは許されない。


 ゆっくりと装甲に亀裂が奔り、黄色い魔石が零れ落ち、鎧がめくれ上がっていく。


「え、えげつない」

「……気にしないで。これでいい?」


 髪を揺らし、肩越しに振り向くエリス。この程度がどうした? と言わんばかりの無表情に、宗介は若干の戦慄と得も言えぬ安心感を覚えた。


 終いだ、とエリスは騎士像を操り、強制的にその場へと跪かせる。これで宗介からも見やすくなった。


「さ、サンキュー、エリス。しかしこれは……魔王も、中々に粋な物を創りやがる」


 大きな亀裂から覗いた動力源に、宗介は思わず松葉杖を進めて騎士像に歩み寄った。ドドドドッという爆音に顔を顰めながら。


『面白いわよねぇ、これ。爆発のエネルギーを利用して内部機関を回すことで動力を得てるんでしょう?』

「ああ、完全に内燃機関(エンジン)だ。それもX型24気筒…………もどき。相当なモンスターマシンだぞ、こいつ」


 無数のパイプ等でゴテゴテと装飾された、大人一人分はあろうかという、宗介を以ってしてファンタジー世界にはそぐわないと言わざるを得ないその“機械”。


 騎士像の予備動力は、“内燃機関(エンジン)”そのものであった。


 ただ唯一、埋め込まれた紅蓮色の魔石がファンタジー世界らしく光を放っていたが。


「……これ、うるさい」


 流石のエリスも剥き出しになったエンジンの騒音は不快なようで、無表情を盛大に歪めている。


「多分、残りの魔力量的に一分ほどしたら停止するから、それまで我慢してくれ。流石にエンジンを素手で触る勇気は無えよ……」


 本来、このエンジンは地属性の魔力という動力を補助する役割の代物だろう。巨体らしからぬ超絶的な挙動をする時等がその例だ。しかし今は、こちらがメインの動力となっている。


 そして“ここ”は、火の魔力が希薄だ。どうしてもすぐに内包された魔力は尽き、その時こそ本当にこの騎士像の最期。


 わざわざ起動式を破壊しにかかれば、折角残った左手も大火傷するだけである。


「む……分かった」


 少々不服そうに、エリスが右手を振るう。石の床が盛り上がり即席の枷となって、未だ跪いて唸る騎士像をきつく拘束した。


「後はクロ、任せる。私は、鉱石を集めてくるから……」

『任されたわぁ』


 地の枷と騎士像の制御権をクロノスに肩代わりしてもらい、エリスは九十九層に続く扉へと向かう。満足に歩けない宗介の代わりに、ゴーレム創造で必要な素材を確保しに向かうのだ。


「すまんな……。ちょっと制作意欲が湧いてきたから、持ち帰れるだけ頼むわ」

「ん、任せて。使い切れないだけ取ってくる」


 エリスはほんの少しだけ足取りを軽くし、そして薄暗い闇の中へ溶けて消えていった。吸血鬼が持つ能力の一つ、【影化】だ。ちなみに半吸血鬼の宗介にその力は無い。


『それじゃあ、ソウスケはこれの構造を調べるのよね?』

「ああ。機巧師として、ある種完成形にあるこのゴーレムの技術を吸収しない手は無いからな」


 カツンと松葉杖を鳴らし、動きを止めた騎士像に歩み寄る宗介。


 無念そうにエンジン音を鳴らす姿とは対象的に、彼は獰猛な笑みを浮かべる。


「さぁて。それじゃあ、隅から隅まで調べさせてもらおうか」

「オォ……」


 その悪魔的な表情に騎士像の眼光が泳ぎ、唸り声が一瞬途絶えたのは、きっと、気のせいではないだろう。




 ◆




 そして一週間。



「どうしてこうなった……」


 宗介は寝室に置かれた鏡の前で、両の膝(・・・)をついて項垂れていた。


「かっこいいから、大丈夫」

「かっこいいのか、これ……?」


 背中をさすって慰めてくれるエリスを尻目に、宗介は鏡越しに自らの姿をマジマジと見つめる。


 そして案の定、自殺願望に襲われた。


 その姿は、一言で言えば「凄い」であった。悪い意味で。



 月光石のランプに照らされて鈍い輝きを返す、鉛色の髪。生と死の狭間で揺らいでいた肉体がやっと安定してきたのか、吸血鬼らしく、真っ直ぐ下ろせば目を隠す程の長さとなった。ちなみに、完全な吸血鬼であればもっと長くなるらしい。


 その髪から覗く双眸。右は前と変わらぬ日本人の目だが、左が特に凄まじい。漆黒の強膜に、魔法陣が浮かぶ血色の虹彩である。およそ人間の目ではない。これは酷く悪目立ちする上、“龍脈眼”によって魔力が可視化されてマトモな視界を得ることができないので、普段は黒い眼帯を着けることにしている。


 そして何よりも「凄い」のが、彼の“義肢”だろう。


 まず、銀色の右腕。


 肩口に煌めくソフトボール大の黄色い宝玉――――エリスが魔力を凝縮して創り出した超高純度な地の魔石を核に、それを保護するバンパー型軽量装甲と、各部に金のラインが入ったミスリル製の腕から構成された、“義手型ゴーレム”である。肩の黄玉や手の甲にはめ込まれた透明の宝玉には、精密極まりない魔法陣が刻まれている。


 内部には、宗介がメカオタク魂を以って色々と――小型エンジンや仕込み刀、ボウガン機構等――詰め込んでおり、一つの武器となっている。


 そして、左脚。


 こちらもやはりミスリルの輝きを放つ、“義足型ゴーレム”だ。核は太もも側面に見える魔石で、やはりエンジン等が内蔵されていたりと、ただの義足という範疇には収まっていない。


 どちらも装甲は薄いが、ミスリルの強度がある為そう簡単に破損することはない。そしてもし破損しても、“自己修復機能”により大地に脚を付けて龍脈と接続するか、エリスから直接魔力を流してもらうことで“地属性”の魔力を得ると、即座に損傷箇所が治るというスグレモノだ。


 ゴーレムとしては比較的軽量で、日常的な動作は問題無し。戦闘挙動にだって十分に耐え、エンジンを動かせばより不可の大きい挙動も可能という、最高の逸品である。


 さて。


 黒寄りの銀髪、眼帯の下に魔眼、武装を内蔵した義手と義足。これだけでも十分にヤバい、もしくは痛い(・・)奴なのに――――極めつけは上から羽織る血濡れた黒マント。今は着ていないそれは、聖ルミナス王国から賜った気配遮断のマントだ。


 義肢を覆い隠せて気配も消せるというこれ以上ない代物なのだが、対鮮血姫戦でベットリと血を浴びて変色し、しかも肩口に少し穴が空いていて義手の魔石が見えるという、如何ともし難い代物となってしまった。一応、性能に問題は無く、替えの利かない一品なのでそのまま使ってはいるが……明らかに禍々しい雰囲気を醸し出している。



「これ、北池に殺されても文句言えない気がする……」


 中二病を極めた悪者みたいな見た目に、遠い目をする宗介。義肢を創っていた時はノリノリで内蔵武装を考えていたのだが、その結果がこれである。完全に黒歴史だ。エリスによる必死の慰めも、あまり効果を発揮していないらしい。


『ま、仕方ないわよぉ。喪った手足を取り戻せただけ十分でしょう?』

「……いや、そうなんだがな。協力感謝するよ、“地の大精霊”様」

『感謝されたわぁ』


 若干嬉しそうにふわふわと舞う光球を視界の端にやり、宗介は義足をスチャッと鳴らして立ち上がる。そして自身を慰めてくれていた少女に向き合った。


「エリスもな。お前が居てくれなきゃ、地の底で無残に死ぬだけだった」

「……ん」


 無表情ながら、若干嬉しそうに頬を緩めるエリスに心から感謝しながら、スチャッ、スチャッと純白のベッド――気絶から目覚めた時に使っていたもの――に歩み寄る宗介。


 その上に横たわっていた、ギラリと重厚な輝きを放つ“ハンドガン”を義手でつまみ上げ、無駄にスピンさせながら右脚のホルスターに仕舞った。同時に左手で血濡れのマントを掴み取り、バサァッと羽織る。


『準備完了ねぇ』


 そのクロノスの言葉に、宗介は強く頷く。


「地上に向かう。もうしばらくの間よろしく頼むぞ、エリス」

「ん、任された」


 ここから先は、生きる為に。


 宗介は、下から上へという前代未聞の方法で、“フォールン大空洞”の攻略に乗り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ