#8 少なくとも俺は
「はぁー、今日も疲れたな」
俺、美月、ミーシャ、ポーラ、デクアルート兄妹は学園の食堂で夕食をとっていた。
最近はこのメンバーで食事をするのが常となっている。
「こ、こんな事でバテるとは…日本男子の風上にも置けないな…」
「そういう美月もバテてるだろ……」
それもそのはず、昨日からフリーダムナイツを装着してのマラソンが始まったのだ。
補助動力を動かしてはいけないので殆ど鉄の塊を着て走っているのと変わりない。
また、30kmという距離もなんとも絶妙で、体力の限界ギリギリで見えてくる感じである。
そのため俺たちは夕食の時間はバテきっている。
「情けないよー?男の子なんだからもっとしっかりしなきゃ」
「うん、そうだなそんな事では騎士にはなれんぞ?」
そういうライラとミーシャはこう見えて恐ろしく体力がある。
なんでもライラは子供の頃から走っていたから。
だけどオルトが俺たちと同じ状態なので多分違う。
ミーシャは子供の頃から教育を受けていたから。
ミーシャはとても由緒ある騎士の家系で、幼い頃から騎士の訓練に励んでいたという。
「はは、二人は凄いね」
そういうポーラもさっきから料理に手が付いていない、なんでも走るのはあまり得意では無いらしく、いつも最後尾を頑張って走っていると言った所だ。
その日の夕食は各自ワイワイ話しながら食べる気力も無く、いつもより静かな夕食となった。
そのまま俺と美月はトボトボと寮の部屋へと帰る。
ライラとオルトは飲み物を買ってから帰るとか言って何処かへ行ってしまった。
ミーシャとポーラは俺たちとは階が違うので、直ぐに分かれてしまった。
そして、これが俺の体力の回復できない理由である。
「それでは寝るぞ。おやすみ鋼夜」
「ああ、おやすみ…」
と言って直ぐ隣からは寝息が聞こえてくる。
美月は子供の頃から寝つきが凄まじく良く、布団に入るとすぐさま寝てしまう。
流石にベッドは二つあるので良いのだが、その寝息だけは聞こえてくる。
流石に俺も健全なる高一男子、隣で幼馴染みの奏でる寝息を聞きながら熟睡出来るものではない。
なんとか慣れようと必死になっているが、その分美月の事を気にしてしまい、余計寝付けなくなる。
ようやく俺が寝付けたのは次の日になってからだった。
〜〜〜〜〜〜〜
「それでは今日の授業を始める。今日はチームについてだ」
俺は重力に負けそうになる瞼を必死に抑えながら授業を聞いていた。
「このクラスで6、7人のチームを作ってもらう、これは戦場でも有効なことだが、チームは違いを支え合うものだ、取り敢えず仮のチームだが組んでみろルームメイトは絶対だ」
そう言われ、俺と同じ美月がウロウロしていると、
「鋼夜、組もうぜ」
横からオルトとライラのペアが話しかけてきた。
「おう、いいぜ、いいよな?美月」
「ああ、構わん」
「じゃあ私達とも組んでくれるかな?」
そう話しかけてきたのはミーシャである。
「結局このメンバーなんだな」
「まあ、良いじゃないかチームワークは大切だぞ?」
俺たちがチームを決め、談笑していると不意にパンッ!という手を叩く音が聞こえた。
「よーし、各自決まったな?これではそのチーム内で親睦を深めるために模擬戦を行う、全員第一訓練室へと移動だ」
第一訓練室へと着いた俺たちは各自分かれて模擬戦をする事となった。
「今回はフリーダムナイツはいい、素手で戦ってみろ、それもフリーダムナイツの経験値となる」
ということを言われて俺たちは順番を決めることとなった。
「誰からやる?」
「うーん、どうせ全員とやるっぽいし、適当にクジでいいんじゃない?」
そう言ってオルトがクジを持っていたティッシュで作り出す。
その結果一番は俺とポーラとなった。
「お、お手柔らかにね鋼夜君…」
「おう、じゃあやろうかポーラ」
因みにポーラには武術の経験は殆ど無い、彼女はカナダ出身で一回だけお父さんに連れられてハンティングをしたことがあるらしいがそれっきりらしい。
対する俺は………実際言うと殆ど中学校にも通わず7年前から師匠の元でずっと戦いの訓練をしていたので武術歴は7年である。
だが、ポーラもミーディア学園に入ってから武術の基礎は教えられるので少しくらいなら出来る。
だがポーラは運動をするのがあまり得意では無いらしく、成績は良くない。
「それでは試合開始!」
「行くよ鋼夜君!」
そう言ってポーラが真っ直ぐ俺に突っ込んでくる。
それを俺は体を捻って紙一重で躱す。
もう一撃、もう一撃と、何回もポーラが俺に拳を打ち込んでくるが、俺は全てを紙一重で躱す。
「強いね、鋼夜君」
「ああ、これでも7年間ずっと武術をやってきてるからな」
「そっか……私とは違うなあ……」
何かポーラが言ったが声が小さすぎて聞こえなかった。
が、ポーラが俺に突進してくるのを見て、構えを取る。
「そろそろ行くぞ」
突っ込んできたポーラの腕を取り、躱したそのままの動きで、ポーラの足を払う、躱された事で前に重心がかかっていたポーラの体は空中に浮き、落ちてきた所をお姫さま抱っこの要領でキャッチした。
「はい、試合終了」
俺はポーラの体を優しく降ろし、地面に立たせた。
心なしかポーラの顔が赤い、なんでだ?
「つ……強いね、鋼夜君は」
「おう、さっきも言ったけど7年間やってたからな」
「でも、なんで武術をやろうと思ったの?」
「それは……」
答えようとして、俺の口が閉じる。
この事は美月しか知らない、話して良いものなのか?という考えが頭の中を駆け巡ったのだから。
そんな俺の考えを読み取ったのだろう。ポーラが口を開いた。
「私ね、生まれつき運動神経が良くなくて、ドジで、おっちょこちょいで、私ってダメなんだってずっと思ってた」
ポーラが自分の事を淡々と話してるくれた。
「でもね、私には『ジュエル』があって、フリーダムナイツに乗れる才能があるって分かった時はすっごく嬉しかったんだ。私でもやれることがあるんだって思ったの」
俺はその話を無言で聞かねばならない気がして、黙ってその言葉を聞いた。
「でも、私には鋼夜君みたいな武術の才能も無いし、ミーシャちゃんみたいな持久力も無いし、美月ちゃんみたいな剣術も無いし、だからやっぱり私ってダメなのかなぁ……」
「そんなこと無い!!」
急に俺が大声を出してビックリしたのだろう、ポーラがビクッと体をを震わせる。
だが、俺はそれに構わず続ける。
「《千日の稽古を持って鍛となし、万日の稽古を持って練となす。》おれの師匠が好きだった言葉だ。ポーラはまだフリーダムナイツの操縦を始めたばっかなんだからダメなんて決めつける事なんかもっとダメだ」
「ダメだって思うことの方がダメだ……」
「そうだ、だから自分をそんな風に言うな」
「私も鋼夜君みたいに強くなれる?」
「……ああ、なれる。少なくとも俺はそう信じてる」
「そっか……私も強くなれるんだ…………ありがとう鋼夜君。鋼夜君に言われるとなんだか勇気が貰えるよ」
「俺ので良かったら何時でも持ってけよ」
「ありがとう……鋼夜君」
ポーラが微笑む。
だけど俺は最後に付け足すことがあった。
「鋼夜」
「え?」
「鋼夜でいい、くんは要らないよ」
「…!分かったよ、鋼夜!」
どうやらポーラの心の枷は壊せた様だ。
……全く……皮肉である。一番心の枷を壊さなきゃいけない奴が何言ってんだか……
「最後に一つだけいい?」
「ん?なんだ?」
「やっぱり…鋼夜の強い理由が知りたいなって」
「……俺は………強くないよ」
「えっ?」
急に俺の声のトーンが変わったので驚いたのだろう。
流石にポーラの心の中を聞いたので俺も答えない訳にはいかないが、まだ普通のトーンで話すのは無理らしい。
今、こうしている間にも『殺意』がふつふつと湧いてくる。
「俺は……あいつを殺すためだけに生きてるんだ……俺の両親と紗夜を殺した……あいつを……」