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第8話

「いやぁ、今年は本当に運が良かった」


 コマンチ村では本格的な冬を迎えた頃、宴会が行われていた。

 無事に冬を迎えられたことに対する祝いだ。

 この村では肥沃な土地がありながらも、何年もの間、収穫寸前で獣に畑を荒らされていた。

 ところが、今年は何処からともなく流浪の猟師が現れ、手も足も出なかった熊を退治し、その他の害獣も始末してくれた。

 お陰で被害はなく、畑の作物は全て無事に収穫された。

 余った作物は街に売り、久方ぶりに贅沢な年越しが可能となったのだ。

 冬が明ければ、余った資金で村を開拓することだって出来る。


「うむう、しかし、何とか留まってくれんかの……」

「なぁ、ノエルちゃん。君なら、引き留められるんじゃないか? な」


 村長と村人たちは尚も、ジョンを諦めきれてなかった。

 例えば、この宴にも誘ったが、ジョンは首を縦に振る素振りすら見せなかった。

 その為、村人たちはノエルに懇願したのだったが、彼女は首を横に振った。


「ううん、彼、もうすぐこの村を出るみたい」

「こんな大雪の時期に……せめて、年越してからでもよかろうに」

「何か、やらないといけないことがあるのかも。邪魔しちゃだめだよ」


 ノエルはジョンから聞いたわけではない。

 しかし、父が猟師だった彼女には解った。

 ジョンの目つき、あれは覚悟している目だった。

 彼女の父は死の前日、あの目つきをして、猟に出た。

 そして、当時、村を荒らしていたクマと相打ちになった。


「ノエルよ。本当にいいのか?」

「だから、引き留めたら……」

「村の事は忘れろ。お前さんは良いのか?」


 村長は、静かにノエルに尋ねた。

 彼女は一瞬、押し黙った後、静かに呟いた。


「私は大丈夫だから」

「そうか……なら、せめて、別れは盛大に送ってやらんとな!」


 その後、宴会は賑やかに続いた。

 コマンチ村の村長はふと思った。


(そういえば、(アパッチ)村は静かだな。どうしたんだろうか?)


 何時も冬が来る前に、隣村の人間が来ていた。

 アパッチ村の住人は毎年獣たちに荒らされて厳しい冬を迎えるこの村を皮肉交じりの嘲笑しに来ていたのだが、人の良いこの村長は皮肉に気づいてなかった。


(心配だ。豪雪で郵便が止まる前に一通送るとしようか)


 ◇


 大富豪で革命が起こったように、去年までの余裕のある暮らしから打って変わり、アパッチ村の状況は悲惨なものだった。

 熊襲撃は何度か続き、鶏といった家畜もやられた。

 減った食料を補うためには、一部の裕福な村人が持っている四輪駆動の積雪対応の車が頼みの綱だったが、あくる日車のエンジン部が水浸しになっていた。

 彼らに見下された貧しい世帯による報復だった。

 獣を狩ることも提案されたが、狩の知恵が無い村人たちではシカの群れに翻弄されるばかりで、ただの一匹も仕留められなかった。

 これまでジョン頼みで作物に恵まれた豊かな暮らしを享受していたアパッチ村には、かつて馬鹿にしていたコマンチ村のような冬を越す備えも知恵もなかった。


「エレン、これはどういうことだ!? なんとかしろ!」

村長(アンタ)の酷い政治で、無茶苦茶になった村を持ちなおそうとしているんだ! 黙っていろ!」

「なんだと、この若造が!」


 村長とエレンは鉢合わせるために、怒鳴り声で大喧嘩を繰り返し、他の村人たちの失望を買った。


「ゆ、郵便です! それじゃ!」

「待て!」「逃がすな!」

「なんだよこの村!?」


 積雪前の最後の郵便バイクが来た。

 既に少し錯乱している一部の村人たちは、郵便配達員から(バイク)を奪おうとしたが、逃げられてしまった。


 送られてきた手紙は意外と多かった。

 エレンは何か助けになるものはないかと、無許可で封筒を次々に開いていく。

 が、殆どはジョン宛ての手紙だった。

 その多くは、ハンタークラブや富裕層からの忘年会(イヤーエンドパーティ)誘いであり、ジョンがどれ程名声を上げていたかを見せつけられ、エレンは顔を真っ赤にして震えた。


 そして、最後の手紙に手を付けた。


「隣村から……?」


『アパッチ村の皆様、お元気だろうか?

 ……今年の冬は姿をお見せになっていないが、何かあったのでは?

 とても心配している。

 私たちは隣人だ。力になれることがあれば、手を貸すから何でも言って欲しい』


 隣村の村長の温かい手紙を読んでエレンは口に手をやり、肩を震わせた。



(あ、煽った……! あのどうしようもない田舎村がこの僕の村を!)


 エレンは激怒した。

 そして、次に掛かれている文章を見て、正気を失った。


『もうじき出ていってしまうようだが、流浪のハンターが私たちを救ってくれた。

 ジョンという男だ。会わせてやりたかったものだ』


「……っ!? 何故、あいつが!? 

 そうか、わかったぞ!」


 そして、彼の脳裏で繋がった。

 隣村とジョンは結託し、獣たちを使い、アパッチ村を陥れたのだと。

 もちろん、隣村云々はエレンが咄嗟についた嘘だったが、正気を失った彼は嘘と現実の区別がつかなくなった。


 このタイミングで、待っていたかのように奴らが現れた。


「エレン君。久しぶりだな。

 村の様子は良くないみたいだな? 

 どうやら……その顔、覚悟が出来たようだ」


 再び現れた連邦愚連隊隊長ペトロフは、にんまりと笑った。

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