第7話
「うちの若い衆が死んでしまったと聞いて、慌てて尋ねたら、どうやら穏やかじゃないな。訳を聞かせてくれないか」
最悪の展開は最初から始まっていたのだ。あの迷惑な若い観光客は、この愚連隊のメンバーだった。
先日、村人たちは連邦の調査官が居なくなるのを心待ちにしていたが、この愚連隊は調査官たちが消えるのを待ってから、この村に踏み込んできた。
ペトロフは馴れ馴れしくエレンの肩に手を置いた。
一方、他のマフィア達はその様子を険しい表情で、背後から腕組して眺めている。
とても、突き返せるような状態ではなかった。
「は、はい。実は……」
「ほう、近隣の村の嫌がらせで年が越せないとな」
愚連隊を率いるのは軍の元前線指揮官のペトロフ。
脅しだけが武器の単純な男ではなかった。
近隣の貧しい集落に近づき、不満を煽り、同情する素振りを見せる。
「だとすれば、何故、じっとしている?
やられたのなら、やり返すべきではないのか?」
「そうだ!」「やられぱなしでいられるか!」
「我々としても、若い衆を失って黙っているわけにはいかんのだ。
もしも、隣村と戦争を起こすっていうなら助太刀しようじゃないか」
「おお!」
(馬鹿どもが!)
エレンは自分の失言が原因なのにもかかわらず、ギャングの言葉に乗せられる村の若者たちを内心で激しく侮辱する。
一通りの演説を終えると、沸き立つ村人たちを背後にペトロフはエレンの肩を組みに行った。
「あ、あの、お気持ちはありがたいのですが、私たちは隣村に呆れているだけで、いざこざを起こしたい訳では……」
「嘘だろう? 隣村のせいというのは」
「は!?」
「くくく、見ればわかるさ」
ペトロフは慰めるように、エレンの背中をポンポンと叩く。
「顔色が悪いぞ。何、誰にも言わないさ」
「な、何が目的なんだ」
「取引だ。
隣のコマンチ村を奪い取って、この村のものにしてしまえ。
君が運営するんだ。
増えた畑や牧場の分け前を3割我々に流せ。
なぁ、良い計画だろう」
「どうやって?」
その問いの返答代わりに、ペトロフは部下にクレートを持って来させた。
開かれたその中には、軍用ライフルが何丁も詰まっていた。
「銃は良いぜ。脅しでも、殺しにでも使える。
なぁ?」
「……」
「また来る。返事はそこで聞こう」
◇
一方、コマンチ村の方ではジョンが村長宅に呼び出されていた。
「それで、村長さん。俺に何の用なんだ?」
「単刀直入に言う。この村を守ってくれんか?」
村長は封筒をジョンに手渡した。
受け取るとすぐに、無遠慮にジョンは中身を確認する。――決して、多くはない。この村の懐事情を表しているようだ。
「先日の熊には本当に感謝している。お礼として弾ませてもらった。もちろん少ないのは理解しているが……」
しかし、前の村で報酬を払う者も一言も感謝するものなどいなかった。
ジョンは自分で富裕層や海外の顧客と商売をしていた。
だから、ジョンには必要ない。
「この村に居つくつもりもない。もうすぐ出る。俺は旅人だ」
「し、しかし、今日は初雪だ。すぐに厳しい冬が来る。何処に行くというんだね?」
「関係ないだろ」
ジョンはつっけんどんな態度を取り、背中を向けようとするが、村長は必死な声を上げた。
「待ってくれ!もう一つ理由があるんだ。ノエルのことだ」
「は?あいつがなんか言ったのか?」
「いいや、彼女は何も言ってない。
ただ、君が来てからというもの、彼女は凄く嬉しそうなんだ。父が亡くなってからいつも何処か心此処に非ずだった彼女が……」
「それこそ関係ない」
ジョンは今度こそ、村長宅を後にした。
◇
村長の言うとおり、厳しい冬は地域全体を襲った。
アパッチ村でも食料不足が解決していないまま、村全体が大雪に覆われた。
積雪の上で膝をついている人々がいる。その前には仁王立ちしている人々もいる。
「も、もうこれ以上払えないよ!」
「じゃあ、売らないよ」
「ひ、ひっ、どうか!どうか!」
アパッチ村では秩序が崩壊し始めていた。
貯えのある世帯が、持たない世帯の足元を見て見下すようになった。
もはや、ジョンを追放して近代化どころか、中世に逆戻りしていた。
しかしこれすらも長く続かなかった。
「大変だ!ブレバンズさん! アンタの倉庫にクマが入っていった!」
「何!? 熊公め、叩きだしてやるわ! ショットガンを持ってこい」
「て、手伝うからあとで飯を分けてくれ!」
ジョンが居なくなり、鹿の群れが活発化。そして、その群れに冬眠が妨害されたクマは寝付くことが出来ず、興奮状態で人里まで降りてきてしまった。
興奮状態にある熊の恐ろしさを知らない村人たちは、ジョンが倒せたのだから、自分たちでもできるだろうと考えていた。
「この畜生め!」
ショットガン片手に威勢の良い叫び声と共に倉庫に突撃した家主と、おこぼれをもらうために協力することになった斧やシャベルを持った数名の男たち。
しかし、数発の銃声の後、こんな声が聞こえて来た。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ」
その後、恐怖で固まり、誰も動けない群衆たちを尻目に、熊は家主の男を咥えながら森へと帰っていた。
倉庫に残ったのは荒らされた食料と、数名の死体だけだった。




