不思議な訪問者
今年の夜市もなかなか好調で、週の後半に入ると売り切れる作品も出て来た。年末の祭りということもあり財布の紐が緩む客が多いようで、ご褒美や贈り物として買って行く家族連れやカップルが多い。なんとなく幸せのおすそ分けをしているような気持ちになり、毎年温かい気持ちになるのだった。
「こんばんは」
リッカのブースに不動産屋がやってきた。
「おじさま、こんばんは」
「調子はどう?」
「良い感じです。新作も今までの作品も程よく売れてますね」
「それは良かった。そうそう、この前頼まれた件だけどあのまま進めることになったよ」
あの後アキから連絡があり、リッカが引っ越した後に店を使いたいとのことだったので不動産を紹介したのだった。不動産はアキがリッカの弟子だと聞き、大家と交渉してリッカと同じ条件で借りられるようにしてくれたようだ。
「ありがとうございます!」
「いやぁ、あんなに若い子が手仕事を始めてくれるって聞いて嬉しくてね。ほら、この町もどんどん人が減ってるからこちらとしても有難いのよ」
リッカの新店舗も閉店した店の跡地である。年を取った職人が店を畳み、利用する人が少なくなった資材店や鋳造屋が撤退し……という悪循環が生まれつつあるので外から入って来るアキのような若者は貴重なのだ。
「リッカちゃんのお店はどうなの?年明けには移転するんだっけ?」
「この前覗きに行ったら外装はもう出来上がっていましたね。魔法って凄いですよ、本当に。予定通りいけば年明けには完成するので、引っ越してお店の準備って感じですね」
「そっかぁ。完成したらお祝い持って遊びに行くね。あー、あとこれ」
不動産はにこにこしながら手に持っていた袋をリッカに差し出した。袋の中には蜜柑がたくさん入っている。
「沢山貰っちゃったからおすそ分け」
「ありがとうございます」
「引っ越し頑張ってね」
大量の蜜柑を手に入れたリッカはどうやって食べようか悩みつつ、無事に店の引き取り手が決まって安堵していた。
(アキさんに話を持ち掛けて良かった)
丁度アキが会社を辞めるタイミングで家を探していたのも運が良かった。これも巡り合わせだろう。昨年遊びに来ていたアキとコハルはそれぞれ新しい生活と新しい事業の準備に追われているので「今年は行けない」と連絡が入っていた。また年が明けて三人とも状況が落ち着いたらどこかのタイミングで集まれたら良いなとリッカは思った。
「こんばんは。作品を拝見しても宜しいですか?」
客の問いかけにハッとして声がした方を見ると、大きな眼鏡をかけた女性が立っていた。スラッとしているモデルのようないでたちに似つかわしくない分厚い眼鏡に思わず視線を奪われる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。もし可能ならば試着もしたいのですが……」
「勿論大丈夫ですよ。試着したい物が決まったらお声掛けください」
女性はそう言うと新作のペンダントをじっと見比べ、そのうち数点を試着した。今回は原石を使用した一点物なので吟味して選びたいという気持ちは良く分かる。
「セーターの上から身に着けても余裕があって良いですね」
「厚みのある服を着ると首回りが窮屈になりがちなので長さを調節できるチェーンを使っているんです」
「これなら季節を問わず使えるかも」
女性は色々な角度から鏡に映して確認して満足したのか、一番気に入った原石のペンダントを購入した。
「お買い上げありがとうございます」
「こちらこそ、素敵な作品をありがとうございます。お陰で良いお守りが出来そうです」
「お守り?」
「ええ。魔法を付与してお守りにしようと思って。素敵な『無垢の装飾品』を作る職人さんが居ると聞いて伺ったんです」
眼鏡で表情までは読み取れないが、女性は口元に笑みを浮かべて言った。
「また伺いますね」
「あ、ありがとうございます。……そうだ、実は年明けに店舗を移転することになりまして……」
リッカは新しい店の地図が載ったチラシを女性に手渡した。女性は地図を鞄にしまうと「ありがとうございます。では、また」と言って去って行った。
(なんか不思議な人だったな)
会話の内容から魔法付与の技師だということは推察出来たが、あの不思議な分厚い眼鏡が気になって仕方がなかった。透けているはずなのにどうしてかこちらから相手の表情が読み取り難く、あれも何かの魔道具なのだろうかとリッカは思った。
何はともあれ、腕のいい『無垢の装飾品』を作る職人であると技師の間で話が出ていたのは嬉しい限りだ。やはりこれからも魔法を介さない手仕事での装飾品作りを続けていこうと思いを新たにしたのだった。
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