可愛いお客様
新店舗の様子を見に行ったり作品の仕上げをしたりしているとあっという間に年末がやってきた。夜市のはじまりである。リッカはいつものように店の前に設営し、魔導ランタンを吊り下げながら
(この場所で夜市に参加するも最後かぁ)
と感傷に浸っていた。来年からは新しい店の前にスペースを構えることになる。そんなに距離は離れていないとはいえ少し寂しい。来年からはアキがこの場所で夜市に参加することになるのだろうか。そうしたら遊びに来ようとリッカは思った。
日が暮れ、次々と灯される魔導ランタンの灯りが夜市の始まりを告げる。年末の風物詩である夜市を楽しむために路面電車の駅から人が流れ出て来た。
「わぁ!きれいなネックレス!」
元気な声が聞こえて来たので目線を下げると可愛らしい女の子が目を輝かせながらアクアマリンのネックレスを見つめていた。年に一度のお祭りだからか薄い水色のドレスを着ておめかしをしている。
「壊したら大変だから触っちゃだめよ」
後ろで母親らしき女性が女の子に注意する。
「分かってるもん!」
女の子はむっとした様子だがじっと手を触れることなくアクアマリンに見惚れていた。
「すみません」
母親が申し訳なさそうに頭を下げるのでリッカは思わず笑みを返す。あの位の女の子にとって宝石のネックレスはお姫様が身に着けているような憧れの存在なのだろう。六角形の不思議な形をした石に女の子は夢中だ。
「これ欲しいなぁ……」
女の子は小さな声で母親にねだるが、母親は「お小遣いで買えないでしょ!」と一喝した。
「今日はお小遣いでお買い物するんだね」
しょんぼりする様子を見かねたリッカが声をかけると女の子は小さく頷いた。
「えらいね。貯金頑張ったの?」
「うん。お手伝いとか一杯して……。でも、足りないみたいだから我慢する」
「そっかぁ」
我慢するのも勉強のうちである。思わず「おまけしてあげるよ」と言いたくなってしまうが、母親が制止している以上甘やかすのは良くない。
「来年でも再来年でも、いつになっても良いからお金が貯まったらまたおいで。このペンダント、取っておくから」
「良いの?」
「うん。お母さんにお店のカードを渡しておくね」
「ありがとう!」
女の子の表情が明るくなったのを見て思わずリッカも笑顔になる。リッカは母親に年始に店舗移転をする旨と連絡先が書いてあるショップカードを手渡し、
「余計なことをしてすみません」
と小声で謝った。
「いえ、こちらこそすみません。お心遣い感謝します」
母親はそう言うと女の子の手を引きブースから去って行った。時折振り向きながら手を振る女の子を見送りながら「迷惑だったかな」と心配になるリッカだったが、自分の作品との出会いが女の子にとって良き物で合ったら良いなと思ったのだった。
「こんばんはー。差し入れを持ってきましたよ」
一日目が終わりに近づいた頃、リッカのブースに宝石商がやって来た。手には小さな紙袋を持っている。
「これが例のクッキーですか?」
「はい!結構好評なんですよ」
宝石商こだわりの宝石アイシングクッキーである。ヨコハマデートの際に思いついてからこの日のために飲食販売をする為の資格を取り練りに練った力作らしい。大きな宝石型にカットされたクッキーの上に色とりどりアイシングクリームで色付けがしてあり、ポップな宝石画のような見た目が女性や子供に人気のようだ。
パッケージには窓が付いていて中身が見えるようになっており、中身と同じ宝石の色で出来た紙製のパッケージとそれに合う色のリボンで梱包されているのでお土産やプレゼントとして買って行く客も多い。
「宝石とセットで買って下さる方も居ますし大成功ですよ」
「凄いですね……」
(まさか本当に作るとは思わなかった……)
アイシングクッキーを作ると言い出した時は冗談かと思っていたが、あれよあれよと準備が進み大量生産をしているのを見て本気だと気付いた時の驚きといったら……
「今日もこれから仕込みですか?」
「はい。明日の分のアイシングが残っているので、夜市は従業員に任せて早めに上がろうと思っています」
今のところクッキー作りを宝石商一人で行っているのでこの一週間は大忙しだ。
「あまり無理しないでくださいね」
夜市にクッキー作りに家作りと毎日多忙な日々を送る宝石商が倒れないか心配でならない。
「大丈夫ですよ。リッカさんこそ無理しないでくださいね。今回はあまり手伝え無さそうですが、何かあったら遠慮せずに連絡してください」
一週間通しで行われるイベントは一人で乗り切るには体力的に厳しい物がある。大体は店の従業員が持ち回りで参加しているのだが、リッカの場合は個人店なので毎年一人でこなしていた。
たまに宝石商が手伝いに来てくれてはいたが、それでも寒い中毎日休みなく露天に立ち続けるのはきついものがある。最終日に年越しをする頃には毎年ヘロヘロになっているのが常だった。
「分かりました。ありがとうございます」
自分の店に戻って行く宝石商を見送った後、客足もまばらになって来たので早めに露店を締めて店の中に戻る。冷え切った身体を温かい紅茶で温めながら宝石商お手製のクッキーを頬張ると明日以降も頑張れるような気がしてきたのだった。
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