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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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忠告と対策

 いよいよ秋の手仕事祭当日。リッカのブースにはリッカとコハルの姿があった。大体の設営を終えるとコハルが鞄から大ぶりのペンダントのような物を取り出し、机の下の見えない位置に取り付け始める。


「コハルさん、それは?」

「ああ、この前話した防犯魔道具だ」

「それが例の……」


 数日前のことだ。「古都の銀細工工房」のトウジからリッカの蜃気楼通信(ミラージュ)に連絡が入った。


『リッカさん、連絡が取れて良かった。連絡先知らなかったから探してたんだよ』

『どうしたんですか?』


 何やら深刻そうな様子に不安になるリッカ。


『実はこの前参加したイベントで盗撮騒ぎがあってね』

『盗撮?』

『職人に無断で蜃気楼通信(ミラージュ)で作品を計測したんだ』

『え!』


 蜃気楼通信(ミラージュ)での計測は作品をそっくりそのままの原寸大で立体画像として保存出来てしまうため禁止している職人が多い。立体画像でデザインや仕組みを盗み、粗悪なコピー品を作って海賊版を販売している業者もいると聞く。


『昔からそういう人が居るとは聞いていたけど実際に参加しているイベントで出たのは初めてでね。最近は蜃気楼通信(ミラージュ)もかなり普及しているし、ぱっと見ただけじゃ魔道具かなんて分からないから計測魔法を使われても気付きにくいんだ。

 秋の手仕事祭みたいな大きなイベントだとお客さんが多くて目が行き届きにくいから気を付けた方が良いよ。盗作されたら敵わないし』

『分かりました。教えて下さりありがとうございます』


 不安を覚えたリッカはすぐにコハルに相談し、コハルが前回の手仕事祭で試験的に導入していた防犯魔法の魔道具を持って来てもらうことにしたのだった。


「これは使えるぜ。なんて言ったってあのナギサを跳ね除けたんだからな」


 前回の騒動の際、アキのブースが被害を受けなかったのはこの防犯魔法のお陰だ。魔道具は一定の範囲内にある特定のタグが付いた作品に対して作用し、作品の持ち出しと作品に対して使用された魔法を無効化する効果がある。


 魔法無効化はそのままの効果だが、持ち出し対策魔法はタグ付きの作品が無断で持ち出されそうになった場合に魔道具と反応し転移魔法が発動し、作品が元の場所に転移するというなんとも大がかりな仕組みである。


「この防犯魔道具を開発している会社に魔工宝石の原型を卸した関係でサンプルを貰ったんだが、まさかこんなに役に立つとはな」

「実績もありますし、安心感が違いますね」


 この魔道具が実用化されれば二日間開催の際に作品を展示したまま翌日へ持ち越す職人も安心して持ち場を離れることが出来る。イベント関係者や展示会関係者にはかなり需要がありそうだ。


「さて、宣伝の様子はどうだ?」

「こちらはぽつぽつ反応がある位ですね。新作ブローチのポスターの方が反応が良いです」

「そうか。こっちは結構反応があってな。実際に見に行くって言ってる人も居たぜ。やっぱり石の愛好家と装飾品の愛好家だと感覚が違うのかもしれないな」


 リッカのコミュニティでは天然石のブローチの方が反応が良かったのに対し、コハルのコミュニティでは問い合わせが何件も来る程度には注目されていたらしい。主に目的や技術面についての問い合わせが多かったらしく、同業者なのではないかとコハルは踏んでいた。


「上手く行ったらマネする所も出てくるかもな」


 流行りそうな物は取り入れる。それはどんな企業でも行っていることだ。コハルはそれを咎めたり止めたりするつもりはない。むしろ全てを(つまび)らかにし、修理と再生石を業界に広めたいとすら思っていた。そうすれば造形魔法一辺倒で消費主義の風潮が少しは変わるかもしれないと思ったからだ。


「でも、良いんですか?ライバルが増えるってことですよね?」

「ああ。まぁ、真似するのと出来るのとは違うからな。技法を知っても技術者の腕が無ければ品質が落ちる。無いも同然だ。自分で言うのも恥ずかしい気がするが、オレの『真似』が出来る職人なんてほんの僅かだから心配要らないぜ」


(コハルさん、かっこいい)


 コハルは自分の技術に誇りと自信を持っている。自信満々に言い放ったコハルにリッカは思わず惚れ惚れしてしまった。

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