呼称の選定
新店舗のことや委託先への納品、在庫の補充などをしているとあっという間に時が過ぎ、秋の手仕事祭まであと一月ほどとなった。そろそろ新作の宣伝を始めなければならないので、リッカはコハルと相談しながら再生石の売り出し方を考えていた。
「まずはシリーズ名をどうするかだな」
再生石を使った装飾品をどう呼称するか決めなければならない。呼び方一つで相手に与える印象がガラッと変わってしまうので出来るだけ良い呼称を付けたい。
「リッカは今回どんなコンセプトで作品を作ったんだ?」
「今回のコンセプトはアンティークですね。コハルさんが以前再生石を『古い技法で作った』と仰っていたのでピッタリかなと思いまして」
「アンティークか。それで燻しをかけてあるんだな」
「はい」
蜃気楼通信で送った再生石の装飾品の立体画像を眺めながら作品に込めた想いを説明するリッカ。
再生石は一つ一つの石が辿って来た人生が凝縮された物であるということ。宝飾品や装飾品が消耗品になっている今、無事に残っているアンティークは代々大切にされて来たり、一方では存在を忘れ去られていたりと色々な物語を宿していること。そして「古い時代の技法」と「古い時代の装飾品」という共通点があること。
「コハルさんは最終的に再生石から石の修理に繋げたいんですよね?」
「ああ。再生石で天然石を出来るだけ再現できるようになれば、天然石そのものを修復出来るようになるからな。ようは再生石は修理に興味を持ってもらうための入口だ」
「でしたら『思い出を修復する』という所をプッシュした方が良いと思うんですよね」
宝飾品が使い捨てされるようになっている今、古い作品を修理してまで使いたいと思っているのは余程その作品に思い入れがある人間だけだ。彼らにアピールするならただ修理が出来るというだけではなく「思い出の品を蘇らせます」というアプローチの方が心に響くのではないかとリッカは考えていた。
「ようは言い方です」
「一理あるな。物は言いようだ」
とすると、何という名称にすればそれが伝わるのだろうか。
「『面影』はどうですか?」
「うーん、抽象的すぎないか?」
「じゃあまんまですけど『思い出』とか」
「直球過ぎるがそれが一番しっくり来そうだよな」
時にネーミングは直球の方が良いこともある。あまり凝り過ぎた呼称を付けても何を表しているのか客に理解されないからだ。「思い出」ならば一目で「思い出に関することなんだな」と読み取れる。単純だが大切なことだった。
「じゃあ『思い出』で決定ですね。ポスターはどうしましょう。コハルさんが作りますか?」
「いや、作品に合ったポスターを作るならリッカに任せた方が良いだろう。頼んでも良いか?」
「分かりました。では出来次第画像を送りますね」
今回は「思い出」の担当としてコハルにも売り子としてブースに立ってもらうことになっている。デザイン面での説明は出来ても技術面での説明はコハルにしか出来ないからだ。それ故、事前の宣伝もコハルの蜃気楼通信コミュニティとリッカのコミュニティの共同で行う手筈になっていた。
「ああ。宜しく頼む」
コハルとの通信を切った後、リッカはポスターのデザインをどうしようか考えていた。まず中心に添えるのは作品の画像で良いとして、周りをどう装飾しようか。「思い出」から連想してアンティークジュエリーが載ったアルバムを描いても面白いかもしれない。それにキャッチコピーを入れればより分かりやすくなりそうだ。
ポスターが完成したのは数日後のことだった。茶色い地に金のストライプが入った紙にアルバムの絵と作品の画像が載っており、「『思い出』を修復しませんか?」というキャッチコピーと「再生石『思い出』」というタイトルが入っている。
このポスターを原本にチラシを製作し、蜃気楼通信をやっていない客には新作のお知らせに同封して郵送する。蜃気楼通信ではリッカのコミュニティでチラシを載せるだけにして細かい説明はコハルのコミュニティで行うことにした。リッカのコミュニティにリンクを貼って誘導する予定だ。
完成したポスターをコハルに送信し、指示を待つ。許可が下りれば『思い出』関連の準備は終了だ。残すは自分の新作のパッケージ作りとポスター作りのみだが、当日まで時間があるのであまり焦る必要はなさそうだ。
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