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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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ワークショップ

「ところで、師匠の移転先のお店ってどんな感じなんですか?」

「えっと……確かこんな感じで」


 宝石商に見せて貰った見取り図を思い出しながら手元の紙に書きだしていく。


「展示用の棚を置いてもスペースが余っちゃいそうなのでどうしようか考え中なんです」

「広いお店なんですね。まだまだ色々並べられそう。……あっ!」


 見取り図を見てアキは何かを思いついたようだ。


「これだけ広いならワークショップとか出来そうですね」

「ワークショップ?彫金の?」

「はい。ほら、師匠の作業スペースの前にいくつか机を並べて……耐火ブースや水場も広いし複数人で使っても問題なさそうな作りですし」


 言われてみればリッカの作業スペースの前はぽっかりと空いており机の二、三台は十分置けそうである。耐火ブースも広いのでロウ付け用のバーナーを複数台設置しても問題ないだろう。


「師匠は教えるのが上手いから向いていると思います!」

「そうかなぁ」

「私が保証しますよ。師匠のお陰で大分作れるようになってきたので」


 「不器用な私でもこれだけ作れるようになりました!」とポスターを貼っても良い位だとアキは力説した。


「例えばですけど、イベントが少なくて暇な時期にだけ単発のワークショップを開催するとかどうですか?お店で開催すれば場所代もタダですし閑散期の収入源にもなりますよ」

「なるほど……」

「あとワークショップのキットを宝石商さんのお店と連携して作れば互いに利益が上がりますしお得です」


 アキ曰く決められた石の中から選ぶ手作り体験は大きなイベントでたまに見かけるが、「好きな石で彫金体験が出来ます」というはなかなか無いので強みになるらしい。隣に宝石店があるからこそ出来る芸当なので是非取り入れるべきだと熱弁を奮っていた。


「確かにイベントが無い時期は収入がきつい時もあるのでワークショップはありかもしれませんね」


 教えるのは不安だが、一定の収入を見込めそうな上に場所代が無いので申し込みが無くても損はしない。一考する価値がありそうだ。


「あとは貸しスペースにするとか」

「貸しスペース?」

「他の職人さんに貸してワークショップを開くんです。例えば七宝焼き体験とかガラス体験とか。職人さんから場所代を頂いて師匠の利益にするスタイルですね」

「それも良いかも」


 短いスパンでワークショップをするのは大変そうなのでたまに違う職人を呼んでワークショップを開くのも楽しそうだ。なにより他の分野の職人の技を間近で見ることが出来る良い機会だ。


「それだったらアキさんも造形魔法のワークショップをやってみては?」

「え?私ですか?」

「アキさんも教えるの上手いですし、彫金と造形魔法の両方に取り組んでいるからこそ教えられることもあるんじゃないかなって思うんです。それこそ造形魔法で作る原型教室とか」

「原型教室か……」


 アキは以前手仕事祭で話した職人のことを思い出していた。初心者だけでなく手仕事をやっていく上で細かい原型を造形魔法で作りたい職人や、原型の一部だけ造形魔法で作ってみたいと思っている職人には需要があるかもしれない。


 現代の造形魔法は「複製魔法で量産すること」を前提としたものだが、本来の役目である手仕事の原型製作を補助する為のツールとして造形魔法のワークショップを開く。ある意味で原点回帰とも言えよう。


(結局行きつく先は彼らと同じなのかもしれない。でも、造形魔法の使い方を見直す良い機会になるかも)


「機会があれば是非やってみたいです」

「私にもまた教えて下さいね」

「……はい!」


 師匠と弟子。ひょんなことからそんな関係になった二人だが、奇しくも同時期に職人人生の節目を迎えることとなったのだった。

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