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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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新しい販売方法

 とある休日。リッカはオカチマチの蚤の市に出店していた。秋の手仕事祭までの間は委託販売と小規模イベントに出ながら手仕事祭に向けて新作を作る算段なのだ。今回の蚤の市では新作を出さず手元にある在庫のみ販売している。それでも久しぶりの蚤の市なのでリッカのブースに立ち寄る客は多かった。


「お久しぶりです」


 いつもブースに立ち寄ってくれる女性がやってきた。


「お久しぶりです!どうぞ見て行ってください」

「ありがとうございます。でも実はもう買いたい物は決まっていて」


 女性はそう言うと「夜のブロ―チ」を手に取った。


蜃気楼通信(ミラージュ)を始めていらっしゃいましたよね?コミュニティ登録して宣伝を見て来たんです。画像を見た時からこのブローチが気になっていて、実物を見てもやっぱり素敵だなと思ったのでこれにします」

「ありがとうございます!蜃気楼通信(ミラージュ)も見て下さっていたんですね」

「はい。色々な職人さんの作品が見られるのでよく覗いているんです。そうしたら夜の装飾品店さんのコミュニティを見つけて」

「そうだったんですね。勇気を出してコミュニティを作って良かったです!」

「こういう小さいイベントだと情報を出していない職人さんも多いんですよ。だから小さいイベントこそ蜃気楼通信(ミラージュ)で宣伝して頂けると嬉しいかもしれないです」

「なるほど」


 確かに手仕事祭のような大規模イベントはどの職人も熱心に宣伝をしているが、蚤の市のような地域密着型イベントで大々的に宣伝をしている職人は少ないかもしれない。大型イベントは全国各地からの集客が見込めるが地域密着イベントの客のほとんどは地元の人間で宣伝に対する効果が薄くなりがちだからだ。


 だからこそいざイベントに行ってみたいと思っても情報が少なくて誰が出るのか分からず断念してしまったり、実際に会場に行ってもお目当ての職人に気づかずに帰ってしまったりするらしい。


「小さいイベントって地元の人しか来ないからあまり売れないだろうと思われがちですけど、蜃気楼通信(ミラージュ)は場所に関係なく人と人とを繋げてくれますから案外宣伝効果があるかもしれませんよ。本当に好きな職人さんが出るならと遠い場所であっても駆けつけるファンもいるみたいですし」


 転移港(ポート)が出来てより遠征しやすくなったせいか、小さな蚤の市を回っている愛好家もいるらしい。そういう人に宣伝が届けば思わぬ集客につながるかもしれないと女性は言った。


「これからは小さいイベントでも宣伝頑張ります」


 宣伝を忘れた苦い記憶をうっすらと思い出しながら改めて宣伝の大切さを実感したのだった。


 ぽつぽつと作品が売れて人の流れも緩やかになった頃、リッカのブースに一人の女性がやってきた。色鮮やかなトンボ玉のネックレスが印象的な女性はブースの前で足を止めると明るい声でリッカに話しかけてきた。


「こんにちは!夜の装飾品店さんですよね?」

「はい」

「私、蜃気楼通信(ミラージュ)の『手仕事好きの集い』でお話させて頂いた者です」

「もしかして、手仕事祭の……」


 コミュニティデビューをして『手仕事好きの集い』に参加をした際に「夜の装飾品店」を知っている人が居た。もしかしてその人だろうかとリッカは考えたのだ。


「そうです!覚えていて下さったんですね。私、トンボ玉の職人をしているカエデって言います」


 そう言うと女性は一枚のショップカードをリッカに手渡した。茶色い和紙風の紙に金の箔押しで楓の葉とショップ名「めーぷる工房」が印字されている。


「宣伝を拝見していたのでご挨拶に伺いました!これ、お土産です。近所の特産品なので良かったら食べて下さい。美味しいので!」


 リッカはカエデから小さな紙袋を受け取った。中には可愛らしい小瓶に詰められたメープルシロップが入っている。


「この瓶、相方のモミジが作ってるんです。綺麗でしょ!」

「この瓶手作りなんですか?」

「町おこしの一環というかコラボ的な感じで作った商品で、結構人気あるんですよ。一個一個モミジが手仕事で作ってるから個性があって可愛いってリピーターも続出で。

 あ、モミジって言うのはうちの相方で一緒に古民家を改造してガラス工房をやってるんです」

「古民家を改造!凄いですね」

「元々空き家だったのを安く譲って貰ってモミジと二人で改装したんです。家庭菜園なんかも作って割と楽しい生活してますよ。チチブの山奥ですけど蜃気楼通信(ミラージュ)と転移便があれば困らないし」


 イベントに行くためにトウキョウへ移動するのは時間がかかるが蜃気楼通信(ミラージュ)や転移便を使って通信販売をしているのでいくつか大型イベントに出るだけでも十分暮らしていけるらしい。


「通販ですか」

「ええ。そう言えば夜の装飾品店さんって通販やってないんですよね?」

「はい。委託販売はしているのですが通販までは。確かに蜃気楼通信(ミラージュ)があればできますよね、通販」


 蜃気楼通信(ミラージュ)を使えなかった頃は通信手段が手紙しかなかったので通販なんて考えたことが無かった。しかし蜃気楼通信(ミラージュ)上でお品書き配信が出来るようになった今、通信販売を行えばイベント以外でも作品を販売することが可能なのだ。


「通販限定色の商品や限定福袋なんかを出すとイベントの常連さん達も喜んでくれますよ。あとイベントでは買わなかったけど後になって『やっぱり買っておけばよかったなぁ』って後悔した時の後押しにも!」

「うわ、分かる……」


 思わず心の声が出てしまった。催事会場では「お金無いから我慢しよう」「今回は買わなくて良いかな」と思ったにも関わらず、帰りの路面電車の中やご飯を食べている時に「やっぱり買っておけば良かった……」と思った経験は無いだろうか。確かにそういう時に「通販やってます!」と言われたら買ってしまう気がする。


 それとは逆に「どうせ通販で買えるし」と思って結局買わなかったというパターンも存在するので必ずしもいい方向に働くとは限らないが、それでも少しは販売数が増えるのは間違いない。


「ところで、今度の手仕事祭は出るんですか?」

「出ますよ。丁度新作を作り始めるところで」

「おー!そうなんですね。私らも出るんで良かったら遊びに来てください!私の作品はもとよりモミジのグラスも可愛いんで!」


 ガラスのグラスと言われると行かざるを得ない。吹きガラスで作っているらしく一点一点模様や色味が異なり「味がある」と人気らしい。


「じゃ、長々とお邪魔しました!」


 また会う機会があるだろうと連絡先を交換してカエデは帰って行った。同じ分野の職人以外とあまり接点が無かったリッカにとってカエデとの出会いは新たな刺激になったのだった。


先日トンボ玉体験をしてきましたが作るのが難しくて苦戦しました。トンボ玉職人さんは本当に凄いなぁと改めて実感した次第です。

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