貝のブローチ
翌日から心機一転、新作作りが始まった。まずは購入したラリマーを使って原型を作る。コハルには同じ大きさで追加発注してあるので届くまでに原型を完成させるつもりだ。
今回のコンセントは「海」。ラリマーの海面を思わせる模様を活かしヒトデと星をモチーフに作る予定だ。早速デザイン画の製作に取り掛かる。
(ラリマーを中央に据えて星とヒトデで回りを囲むシンプルな物でも良いけど、やっぱり一捻り欲しいな)
1センチ前後の石なので何にでも使えそうだ。ヒトデや星と合わせても問題が無さそうなモチーフは無いだろうか。海と言ったらまず思いつくのはイルカだが、それだと石よりもイルカに目が行ってしまいそうだ。海獣や魚でも同様のことが言えるだろう。
とすると次に思いつくのは貝だ。ホタテのような二枚貝の貝殻ならば真珠がメインの方が良い。他の貝だと巻貝なんてどうだろうか。
本棚から海の生き物が載った図鑑を取り出す。大昔に水族館で購入した図鑑が役に立つとはと思いながら貝が乗っているページを開いた。巻貝と言っても多種多様だ。ころんと丸みを帯びた形の物もあれば三角状に尖った形や木の実のような形をした物もある。
巻貝に石を乗せるならどこだろう。蓋の部分に石座を設置すれば収まりがいいかもしれない。石が丸いから貝殻は尖っていた方がメリハリがつきそうだ。
「よし、これにしよう」
考えた結果、図鑑に載っていたハッキガイを滑らかにしたようなデザインにすることにした。
(この貝の形ならネックレスよりもブローチの方が合いそうだな)
当初ネックレスを作ろうと思っていたが貝の形状を見て考えが変わった。これはブローチの方が映える形だ。斜めに身に着けることを想定し、貝の上部から下部にかけて半円状になるようにパールやヒトデ、星を配置したらちょうど垂れ下がっているように見えて可愛いかもしれない。順番に並べるのではなくランダムに少しずつずらしながらバランスよく配置するのが良い。パールの大きさもランダムにしたら可愛くなりそうだ。
大体のデザインが決まったので早速ロウで原型を作り始める。まずは基本となる貝の造形からだ。1センチの石が蓋の部分になるようにしなければならないのでそれを意識しながら板状のロウにペンで貝の形を描いていく。
下書きが出来たら糸鋸を使ってその通りに切り抜いてヤスリで形を整える。ここからが腕の見せ所で、板状の貝にロウを盛ったり削ったりしながら立体的な形に整えていく。ブローチなので今回は貝をまるまる作るのではなく前面だけを作る。板の裏側はいじらずに表面だけ立体に仕上げていくのだ。
根気よく盛って削ってを繰り返しある程度形が出来たら粗目の紙やすりで形を整える。ロウの気泡で穴が空いた部分が出てくるのでそこを埋めるのも大事な仕事だ。そうしなければ鋳造した時にそのまま穴が空いてしまい悲惨な事になる。
目が細かい紙やすりでツルツルに近いところまで仕上げたらようやく石座作りに移行する。貝の蓋がある場所に石よりも一回り大きい土台を作り、土台の大きさに合わせて壁のパーツを作り貼り付ける。今回は覆輪留めにするのでぐるっと一周石を囲うように壁を作るのだ。壁の高さは倒した時に石を囲みすぎないように石の高さの半分より低めに作った。
石座が完成したら今度は裏返して余分な部分をくり抜いていく。このままの状態で鋳造すると重量と代金が大変なことになってしまうので裏をくり抜いて軽くするのだ。ブローチ金具を取り付ける部分は多めに残してあとは加工したスパチュラで綺麗に削り取る。ついでに石座の土台の底にも穴を空け軽くした。
裏をくり抜き終わったら表面に戻って貝のテクスチャを付けていく。今回は細かい筋を入れたいので熱したスパチュラを押し当て線を引いて行く。あまり力を入れると貫通してしまうので優しく丁寧に作業を重ね、貝のパーツは完成だ。
「我ながらいい出来かも」
リアルとデフォルメのバランスが良い造形に仕上がった。他のパーツに取り掛かる前に一息つくために紅茶を淹れる。「紅茶商人の家」で購入したオレンジとチョコレートの紅茶だ。以前ナゴヤで購入したティーカップに淹れてほっと一息つく。
(チョコレートの甘い香りにオレンジの酸味のある香りが良く合うなぁ)
そういえばオレンジピールにチョコレートをかけたお菓子があったような。心なしか口の中に甘酸っぱい味が広がったような感じがした。
一息ついたら残りのパーツ作りに取り掛かる。まずは星とヒトデ、パールの土台作りだ。薄めにスライスしたロウの板を大小様々な星形に切り抜き、それを星とヒトデに整形していく。星は立体星の形に削り、ヒトデは角を丸く落としてスパチュラでテクスチャを付けた。パールは小さな円形の皿を作り追々芯を立てる。
パーツが出来たらそれを貝の上部から下部にかけて半円状になるように配置する。バランスを取りながらランダムに配置したら仮接着した後にロウで本留めした。最後にパールの芯を取り付けて完成だ。
集中して作業をしたからか、既に時刻は夜中の0時を過ぎていた。
(よし、これでロウの原型は完成したから明日鋳造屋に持って行こう。鋳造している間に再生石の装飾品に取り掛かるか)
気分転換したからか一日で作業が終わった事に驚きつつもリッカの頭は既に次の目標へと切り替わっている。いよいよ本丸の再生石に取り掛かる時が来たのだ。コハルからの課題をどうクリアするのか、リッカの挑戦が始まった。
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