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【完結】夜の装飾品店へようこそ~魔法を使わない「ものづくり」は時代遅れですか?~  作者: スズシロ
3章

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即売会デート

 ついにオーダーを受けていたペアリングが完成した。真っ白な化粧箱に入れ金の星が散った深い紺色のレースで出来たリボンで綴じる。それを手紙と共に包装紙で包み転移便で発送した。


(初めてのオーダーメイドだったけど何とか完成して良かった。お客様に喜んで頂けますように)


 長い時間をかけて作った作品が出来上がった時の解放感は何事にも代えがたい。肩の荷が下りた安心感でふわふわとした気持ちになる。


 残った仕事はコハルからの依頼だけだ。次の手仕事祭までまだ時間があるので気持ちにも余裕がある。図書館へ通ってアンティークジュエリーの図鑑を漁ったり蜃気楼通信(ミラージュ)のアンティーク好きの集まりに参加をしたりしながらどういう形にするのが一番良いのか考えているのだ。


(こっちのデザインは固まりつつあるとして、それとは別に新作も作りたいんだよね)


 秋の手仕事祭に挑むにあたって再生石の装飾品のみを新作として持って行くのには不安があった。全く新しい分野の作品なので売れるかどうか分からない上に一点物なので数を作れないからだ。売り上げの事を考えるとそれとは別にいつもの作風で新作を作っておいた方が良い。


(とはいえアンティーク物ばかり見ているせいでデザインが引っ張られそう……)


 一度アンティークジュエリーを頭から切り離して考えないと混ざってしまいそうな気がする。


「そう言えば石の在庫が少なくなっていたような」


 石をしまってある引き出しを開けて在庫を確認するとやはりストックが少なくなっている。前回の指輪で消費したからだ。どうしようかと思っていると机の上に放置してあった手紙が目に入る。石の即売会のダイレクトメールだ。


「よし、気晴らしに石でも買いに行くか。これってトウカさんやコハルさんも出るのかな?」


 蜃気楼通信(ミラージュ)で連絡を入れると宝石商は出ないがコハルは出るという。宝石商もその日は休みなので気晴らしと仕入れを兼ねて二人で遊びに行く事にした。


 石の即売会が行われるヨコハマは歴史のある街である。古い建物がある地域を「望郷の港(ノスタルジア)」と名付け保護地区に指定しているため再開発の手を逃れた貴重な建物が沢山ある。


 魔法技術の発展により大都市間の移動は転移港(ポート)を通じて行われるようになり、その影響で都市のコンパクト化が進められ郊外とその周辺への移動手段は路面電車へ置き換わった。都心部の住宅地は再開発によりコンパクトな機能性集合住宅へと姿を変え、オカチマチやアサクサバシ、魔道具街などの専門街のように古い建物が乱立している地域の方が珍しいくらいである。


「『望郷の港(ノスタルジア)』観光楽しみだな~」


 ヨコハマ転移港(ポート)に降り立ったリッカが手にした地図を眺めながら胸を躍らせる。路面電車では来れないのでそんなに距離が離れていなくても転移港(ポート)を使わなければならないのはコンパクト化の弊害だ。


「お昼ごはんに食べたい物、決まったんですか?」

「とりあえず洋館併設のカフェに行きたいです!」

「分かりました。では即売会を見終わったら向かいましょう」

「はい!」


 観光と言えば食べ物である。観光地域である「望郷の港(ノスタルジア)」には異国情緒溢れる飲食店が沢山あり、数日前からどこで何を食べるかがリッカの悩みの種になっていた。昔からある喫茶店も建物が素敵で行っていたいし、古い洋館の併設カフェでアフタヌーンティーやケーキも食べたい。異国街で食べ放題も捨てがたいし倉庫街の中にあるビアホールも魅力的だ。


 夕飯は宝石商がどこかのレストランを予約をしたらしい。となると行ける場所は一か所だ。


(折角のデ……デートだし、二人で楽しめる場所が良いな)


 喫茶店は一人でも行けるし食べ放題は食べるのに夢中で無言になってしまいそうだ。倉庫街のビアホールは出来れば夜に行きたい。となると


(アフタヌーンティーかな)


 お洒落な洋館でアフタヌーンティー、悪くない。それに一人ではなかなか注文し辛いのでこの機会に体験してみたい。ということで昼食は洋館で食べることにしたのだった。


「夜は良いところを予約したので楽しみにしていてください」

「おー!何でしょう」

「ふふ、行ってからのお楽しみという事で。まずは買い物を済ませましょう」


 即売会は望郷の港(ノスタルジア)の近くにある展示ホールで開催されている。年末に行われている物ほど大規模ではないがこじんまりとしている分掘り出し物目当ての来場者が多く訪れている。リッカ達も掘り出し物目当てに早朝から足を運んでいたのだった。

しばらくデート回です。

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