店の行く末
「――さん、リッカさん!聞いていますか?」
「……え?」
宝石商の呼びかけにハッとするリッカ。突然のことに思考がフリーズしていた。
「店舗部分のことなのですが」
「あっ、はい」
「もし宜しければなのですが、リッカさんのお店を1階に移しませんか?」
「え!」
「実は元々の建物が大きかったせいで結構土地が広くて、私の店だけだとスペースが余りそうなのです。家賃の節約にもなりますし、リッカさんのお店も一緒にどうかなと思いまして。勿論内装はリッカさんの好みに合わせてお作りしますよ」
「家賃0でフルオーダーってことですか……?」
「はい」
住居話に加えて転がり込んできた店舗移転の話にリッカは目を白黒させながらも考える。正直言ってかなり魅力的だ。
(家賃が無くなる上にフルオーダーの内装……)
不動産屋の計らいでかなり安くして貰っているとはいえ家賃を払わなくて良くなるならお財布的にもかなり助かる。しかも自分好みの内装を一から組めるなんて夢のような話だ。だが宝石商と一緒に住むのはまだ気恥ずかしい気も……
「ちなみに、住居スペースのキッチンには拘る予定なので今よりもっと美味しい料理をご馳走できますよ」
「お話お受けします」
したが、そう言われては断る理由が無い。リッカはすっかり宝石商に胃袋を掴まれていた。今でさえ夕飯時に持ち寄る総菜が楽しみで仕方ないのだ。これがパワーアップする上に毎日食べられるようになるとなれば断る理由がどこに有ろうか。
「決まりですね。まだすぐにという状態ではないので、追々細かいレイアウトについて話し合いましょう」
「分かりました。でも良いんですか?私の店まで……」
「ええ。空きスペースの有効活用にもなりますし、ちょっと考えていることがありまして。悪いようにはしませんから『家賃が浮いてラッキー』と思って頂ければ」
何か含みを持ったような言い方をする宝石商を怪訝な顔をして見つめるリッカ。「うまい話には裏がある」と言うが相手が宝石商なので大丈夫だろうと自分を納得させた。彼が「悪いようにはしない」と言っているのだから悪いようにはならない。そう確信するだけの信頼があるのだ。
「となると、この店ともお別れかぁ」
オカチマチに越してきて以来一緒に苦労を共にしてきた店だ。古くて小さくて狭い店だが「自分の店」を持った時の感動は忘れられない。店名を記した看板を表に掲げショーウィンドウに作品を飾る。初めて店を開いた朝はとても清々しい気持ちだった。
十年ほど過ごし自分なりに手を加えて愛着が湧いたこの店と離れるのは寂しい。自分が手放せばまた埃を被ったままの空き店舗になってしまうのだろうか。
(誰か使ってくれる人が居れば……)
そう考えた時、ある人物が頭に浮かんだ。
「あ!」
思わぬひらめきに大きな声で叫んでしまい、宝石商がワインを片手に何事かとリッカを見つめる。
「良いことを思いつきました」
居るではないか。この店を大切に使ってくれそうな人が。彼女ならばきっと喜んで引き受けてくれるだろう。手を加えて大事に使ってきた什器や棚もきっと活かしてくれるに違いない。そうなれば自分が先輩方からしてもらったようにあれも受け取って貰おうか。もう少し話が固まったら彼女に話してみようとリッカは思ったのだった。
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