もう一人の幼馴染みも怪しい?
寂しいけど、姉ちゃんや向日葵と一緒に登校しない日もある。二人とも特待生だけあり部活が忙しいのだ。そんな日は、俺は必ずある事をしている。
ベランダからマンションの入り口をチェックするのだ。
(しかし、凄い人気だな……今日も裏口から出るか)
眼下に見えるのは、幼馴染み達の出待ちをする少年少女達。
姉妹ガードがあれば無傷で済む。しかし、俺一人であの集団を突っ切ろうとすると、小突かれたり嫌味を言われたりするのだ。
別に俺がなにかした訳ではない。美人の姉妹を持ち、人気者と幼馴染みというだけで仲が良くしているという嫉妬である。
裏口に向かうと、一人の少年が駆け寄って来た。
「しげ、おーす。たまには一緒に行くか」
声を掛けて来たのは、少女漫画から飛び出して来た様なイケメン。モデル体型でありながら、しっかり筋肉もついている。
「月牙、向こうでファンが待っているぞ」
夜隠月牙、こいつが俺のもう一人の幼馴染みである。ピュリアに剣道の特待生として通っており、成績も優秀。コミュニケーション能力も高く、友人も多いという完璧超人なのである。
「たまには静かに登校したい日もあるのさ……さあ、行くぞ」
月牙の誘いに無言で歩き始めた。
「学外風紀委員の仕事随分忙しいみたいだな……まあ、五常の馬鹿が主な原因だと思うけど」
ピュリアは元お嬢様学校だっただけあり、お金持ちの子供が多く通っている。かたや五常は元男子校だった為か、気の荒い生徒が少なくない。昔はピュリアの生徒に因縁をつけて金品を巻き上げる事件が多発したという。
そこでピュリアで腕に自信のある生徒が集まり自警団として立ち上げたのが、学外風紀委員の始まりある。
ここ十年はは形骸化していたが、ニ、三年前から両校の間でトラブルが多発する様になったという。
「でも、話を聞くとうちの生徒にも問題があった時も少なくないし。どっちが悪いとは一概には言えないさ」
ピュリアには優秀な生徒も多い為、五常の生徒を見下す者も少なくない。今年になり月牙の他にも腕に自信のある生徒が学外風紀委員に入った所為で、虎の威を借り五常の生徒を挑発する者まで出て来ているらしい。
「学外風紀委員の月牙が僕と一緒にいる所を、ピュリアの生徒に見れるとまずいんじゃないの?」
これは月牙への配慮もあるが、俺の願いでもある。俺は元政治家だから、それなりに面の皮が厚い。何を言われても平然としている自身はあるが、へこむ物はへこむのだ。
「そんな事気にすんなよ。俺に文句を言う奴なんていないぜ。お前を悪くいう奴がいたら、俺がしめてやるよ」
月牙はそう言うと、肩を叩いてきた。幼馴染みの好意は嬉しくあるが、有難迷惑な話なのである。
もし、月牙が誰かをしめたら、倍返しされるのは俺なんだし。
「まあ、そうならない様に上手く切り抜けるよ……ところでさ……ところでさー、優は元気にしているか?」
『桜ちゃんは元気にしているか』と言い掛けて、強引に言い直す。
月牙と桜ちゃんも幼馴染みで仲が良い。そして二人が並ぶと、とても絵になる。俺が入る隙がない位に……。
「元気もなにも、殆んど学校に来ていないぞ……あいつの事なら、俺よりお前の方が分かるだろ」
内木優はピュリアの生徒だけど、月牙とはあまり親しくない。
正確に言うとあいつの友達は俺と照位だ。小学校の頃は三人の名前から一文字ずつとって、茂照内トリオと呼ばれていた。
「月牙さん、おはようございます。少しお時間をもらえますか?」
月牙の会話に割って入って来たのは、ピュリアの制服を着た少年。月牙に負けず劣らずのイケメンである。いわゆる秀才クール系の二枚目で、眼鏡が嫌味な程似合っていた。
「龍貴、どうした?……茂、こいつは氷室龍貴、俺と同じ学外風紀委員なんだ」
愛想笑いを浮かべながら、頭下げるが龍貴君はガン無視です。それだけじゃなく、凄い冷たい目で俺を見ている。
「貴方のお耳に入れたい事が二つ程、昨夜我が学園の生徒が五常の馬鹿に脅され、お金を盗られたそうです」
あー、そりゃ学外風紀委員なら怒るよね。つうか、金欲しいならバイトしろよな。
「茂は関係ないだろ!?……まじか!分かった……茂、済まない。先に行ってくれ」
龍貴が何かを耳打ちすると、月牙の表情が一変した。目に怒りの色が浮かんでおり、否が応でも、事の重大性が伺える。
「僕の事は気にしないで良いよ……月牙、無理だけはするなよ」
昔の部下が見たらドン引きするかも知れないが、普段の一人称は僕を使っている……俺に切り替えるタイミングを見失ったのです。
◇
その日の夜。氷室龍貴は、被害に遭ったピュリアの生徒の元を訪れていた。犯人捜しという名目であったが、龍貴には別の思惑がある。
背が小さく気の弱そうな少年だ。今も学校の有名人である龍貴が訪ねて来た事に驚き、身を縮こまらせていた。
「五田忍君ですね?何があったか教えてもらえますか?」
龍貴が、優しく微笑みながら話し掛ける。その笑みを見て、安心したのか忍は重い口を開いた。
「町を歩いていたら……いきなり五常の生徒に絡まれて……」
忍は、そう言うと大粒の涙を零す。
「それは、悔しいですよね……五常の奴等に復讐する力が欲しくないですか?」
龍貴が取り出したのは、血に塗られた様な真っ赤な短剣。忍がそれを受け取ると、龍貴は邪悪な笑みを浮かべたのだ。




