幼馴染みは魔法少女?
廊下側の前から三番目、そこが俺の席だ。俺の学校生活のスタンスは目立たず、トラブルを起こさずである。リア充グループとは教室で話をするも、プライベートでは遊ばない。
オタクグループと遊びはするが、趣味の話をせず。ヤンキー達とは視線を合わさない様にしている。
「茂、朝のニュース見たか?……あれ、魔法少女絡みらしいぞ」
照が小声で茂に話し掛けてきた。照の家は高級料亭を営んでおり、様々な噂を手に入れる事が出来るそうだ。
照は常連客の政治家から魔法少女の事聞いたらしい。魔法少女をドヤ顔で語る政治家……何か嫌だ。
「魔法少女!?あれって、ただの都市伝説だろ」
魔法少女は、オカルト系の掲示板では数年前から噂になっていた。一時期下火になった物の、一年くらい前から目撃証言が増えているそうだ。
噂その一、魔法少女の服はリアルで、どう考えてもコスプレとは思えない。
噂その二、魔法少女は、人間離れした身体能力を持っている。
噂その三、魔法少女になった女の子は夢を叶える事が出来る。
噂その四、魔法少女になった女の子の中には、命を落とした者もいる。
まあ、心霊写真やUMAが下火になっているから、新しい都市伝説で楽しんでいるんだと思う。
俺は、魔法の存在は否定しない。今は使えないが、昔は最上級魔法を連発していた。
しかし魔法使いじゃなく、魔法少女となると別だ。魔法を使うのに性別も年齢も関係ない。わざわざ少女と限定する必要性がない……魔族でも性差別はタブーなんだぞ。
「まじだって。何人も見ているらしいぞ。不思議な事に動画を撮っても顔が映らないらしいぜ」
照の話では、魔法少女達はミニスカートで戦っているが、下着も映らないとの事……いや、その前に都市伝説相手にパンチラショット狙うなよ。
「戦うって……何と戦っているんだ?まさか悪の秘密組織って言うんじゃないよな」
少女って事はまだ子供だと思う。犯罪組織と戦うのは無理だ。
俺も国王時代は、犯罪組織に手を焼いていた。治世者側は国民の目があるので、卑怯な事や苛烈な方法がとれない。しかし犯罪組織にはモラルや常識がなく、どんな手でも使ってくる。決して子供が勝てる相手でじゃない。
「聞いて驚くな……相手はオークやゴブリンとかのモンスターらしいぜ」
マジか……オークもゴブリンも国民にいたんだぞ。
(おいおい?うちの国民じゃないよな……そ、そんな訳ないよね。でも、うちの国民だったら、俺はどっちの味方をすれば良いんだ?)
俺はブーロの身体を取り戻し、クレアーズへ帰るつもりでいる。その為に料理を覚え、様々な知識を蓄えているのだ。
ただ残念な事に結婚相手どころか恋人の目星すらついていない。だって俺が親しく話せる異性は、姉妹と幼馴染みだけ。その幼馴染みとも高校に入ってから、殆んど会話をしていない。
「意識不明って事は、魔法少女が負けているんだろ?魔物ならきちんととどめを刺すと思うぞ……でも、事件は起きているんだから、気を付けるよ」
今の俺の戦闘力は小学生レベルである。ゴブリン相手でも瞬殺されかねない。
「まあな。流石にゴブリンはないよな。おっと、授業だ。授業……余計なお世話だけど、早く愛野さんと仲直りした方が良いぞ」
照はそう言うと自分の席へと戻っていった。
愛野桜、俺の幼馴染みで同い年の少女である。明るい性格で誰とでも直ぐに仲良くなれる元気な少女……そして俺が好きだった女の子。
(仲直りって言われも……なんで距離を置かれている訳が分からないんだよな)
でも高校に入ってから、露骨に避け始めた。訳を聞こうとしても委員会が忙しいの一点張り……どう考えても嫌われるんだよな。
地域ボランティア委員会って、そんなに忙しいんだろか?
◇
俺と照は、授業が終わると直ぐに帰る。俺は家の手伝いと勉強。照は家業を継ぐ為、店で修行……放課後デートなんて都市伝説だ。
「ただいまー」
ただいまと言っても返事は帰って来ない。なにしろ森林家で最初に帰宅するのは俺なのだ。
俺の部屋は、元は物置……ちゃんとした部屋は姉妹に譲った。部屋にあるのは勉強机と本棚しかないので、問題ないのだ……今の俺に必要なのは知識であって娯楽じゃない。
「兄貴、ちょっと良いかな?」
本を開こうとした瞬間、部屋の外から向日葵が声を掛けて来た。
「どうした?おやつなら戸棚に入っているぞ」
向日葵が俺に声を掛けるのは宿題を教えて欲しい時か、お腹が空いた時である……部活が忙しいの分かるけど、たまにはお兄ちゃんにも構って欲しい。
「むー、違うもん!僕はしおりを貰いに来たのー。前に桜姉に綺麗なしおりプレゼントしてたじゃん」
俺は本を良く読むから、沢山のしおりを持っている。逆に漫画しか読まない向日葵はしおりを一つも持っていない。
ちなみに俺が桜ちゃんにプレゼントしたのは、桜の花びらが描かれたしおり。父さんの故郷に遊びに行った時に買ったのだ……捨てられてないと良いな。
「珍しいな……好きなの持って行って良いぞ」
向日葵に一冊のホルダーを手渡す。しおりって、雑にあつかうと直ぐへたれるんだよね。
「フ、フットサルの教本に使うんだよ……このしおり可愛い!これもらうね。それとこの事は、姉ちゃんや桜ちゃんには内緒にして」
向日葵はフットサルの特待生としてピュリアに通っている。
そんな向日葵が選んだのは、アニメ風のアルマジロが描かれたしおり。明るい色使いで、向日葵らしいしおりだ。
◇
その日の夜。茂が住んでいるマンションから少し離れた公園で、三人の少女が魔物と対峙していた。
魔物は全部で三体。コボルトが一体に、ゴブリンが二体。
「桜、変身するよ」
ショートカットの少女が、ポニーテールの少女に声掛ける。ポニーテールの少女の名は愛野桜……茂の幼馴染みの少女である。
「分かった。光も油断しないでね……恋の魔導書よ。私の恋する気持ちを、戦う力に変えて!」
桜は虚空から取り出した魔導書に、一枚のしおりをはさんだ。それは幼馴染みからもらった大切な宝物。淡いピンクの光が桜を包み込んでいく。
(茂、私に力を貸して)
「魔法少女ラブ・スエッティー!カムトゥルー。この街は私が守る」
桜はそう叫ぶと魔物へ向かっていった。




