最強の2人
「わ…たし?」
「いいえ。人間見た目がいくら似ていても、同じ人間、ということにはならないでしょう?」
「じゃあ…あなたもクローンなの?それとも…」
「オリジナルではありません。」
目の前の"私"は落ち着き払って言う。それはもうとっくの昔から知っている、とでも言いたげだ。
一方の名影は絶望していた。
一体あと何人、"私"がいるの?
「あなたは原型にあったことは?」
「ない…わよ。」
「そうですか。原型も私も、あなたには全然似ていない。あなたはあなたですからそんなに絶句しないでください。」
「待って……ナギを殺したのは…」
「……私です。4年前と同じ過ちが繰り返されないように、という意図と…まぁあとは諸事情により殺害しました。」
「四年前と同じ?」
「えぇ、四年前にとある偽物が本物を殺してしまう事件が起きました。それを行ってしまうと、"クローンは危険"という認識が広がり排除の対象となってしまう。ですから……‼︎」
「……⁉︎」
折角の話の途中、突然閃光が2人の間に出現した。名影は咄嗟に真城を庇うように覆い被さり、ジェスターはその場で屈みつつ、周りに気をやる。
なんだ…彼女の仲間にしてはいくらなんでも無差別な攻撃すぎる…ましてこれはケイトやシンクでもない。そもそもあの2人はもう外へ出れそうだと連絡があった。
すると光の中に影が跳躍したのが見えた。
あのシルエットは……サイスか?
いや違う何人かいる。
SOUPの連中?
ジェスターは身を屈めたまま影の1人にタックルをかますと、名影と真城を庇うように立ち塞がり、追撃してきた2人を刀で軽くあしらう。
「ちっ…SOUPのクソ連中…‼︎」
背後で名影が呟いたかと思うと、懐から硝煙弾を取り出し相手に投げつける。と同時に、あろうことか真城の頬を思い切り抓る。
「…うぐっ」
「起きた⁉︎じゃあほら行くよ‼︎あんたも‼︎」
名影はジェスターにも声をかけると、先程登ってきたワイヤーの方へ行く。
頭を振って覚醒した真城と、ジェスターもあとに続く。敵であったとしても、今もっとも危ない敵は間違いなくあちらだ。
「SOUPの連中、私達ごと殲滅する気か⁉︎」
ジェスターがワイヤーで伝い降りると下にいた連中を鮮やかに斬り伏せる。その直後にジェスターが片手で器用に降りると、上で名影に何か言われたのか、ジェスターには襲い掛からずにスナイパー対策の煙幕剤を撒く。
名影は薄れた煙を縫って迫ってきた男2人の攻撃を易々と交わすとその顎と急所に強烈な一撃をお見舞いしていく。そしてヒラリと柵を乗り越え、片手でワイヤーを掴むと半分落ちるようにして着地した。
「抜け道がある‼︎」
ジェスターの指示で3人は駆け出した。しかし3人の行く手を阻むのは"殺人ドローン"。しかし先程までのとは違う。"SURVIV"での時間限定は終了している。
今度のドローンはSOUPが手中に戻したドローンだ。
「ふざけやがって‼︎」
正直痛みは無いが意識が朦朧とし始めている。真城は2人についていくので精一杯だった。
「はっ‼︎所詮は機械でしょう?」
ニヤリとすると、名影は真城の懐に勝手に手を突っ込み丸い鉄球を取り出した。そしてそれをあらん限りの力でもって、ドローン達の中心に投げ入れる。
バチバチッ…バチッ…‼︎
すると一斉に電気と火花が散り、ドローンの大半が動かなくなる。
「へぼいわね。」
しかしまだ動くものが6体。
名影はジェスターをちらりと見やると、左側の三体を指し示す。
「私はあっち‼︎」
するとジェスターも手振りで「了解、私はあちらを」と了承の意を示す。真城は体調も悪く仕方の無いことなのだが、手持ち無沙汰だ。
「機械相手なら手加減しなくていいから楽ね‼︎」
名影がドローンの弱そうなアーム部分を握ると、そのまま器用に身体を反転させ引きちぎる。
ジェスターは胴部分の隙間に、隠し持っていた小型ナイフを刺し入れ中のコードを絶ち切る。
そんなことで数分のうちに名影とジェスター達は抜け道に辿り着く。
「この道の先は?」
「東の……亜細亜座交遊館の近く。」
「亜細亜座?あっそう。」
言うが早いか名影は真城に手を貸しつつ中に入り込む。ジェスターもドローンが追ってこないことを横目に確認すると中に滑り込んだ。階段で登ったり降りたり。
そろそろ本格的にふらつき始めた真城を2人で挟み抱えて進む。途中途中にこれ見よがしな罠が仕掛けられていたが、2人はそんなの何てこと無いようにして進む。
真城は薄れゆく意識の中で、2人を交互に見やった。すごい2人だ…でも違う。
真城にとっては名影のジェスターは全く違った存在として写っている。ただ…確かに2人とも、自分や他の大多数の人間達とは一線を画していると感じた。
「出られた‼︎SOUPのクズ共が‼︎」
名影は暴言を吐きながらも楽しそうだ。
ジェスターはそばに貼られていた古ぼけた旧時代的紙のポスターを破くと、そこに文字を走り書きする。そしてどこにそれだけ詰まっていたのか、と思うほど大きな黒布を取り出すと2つとも名影に投げて寄越した。
「もし…もしまだ聞きたいことがあるなら、そこに来て。裏に回って、双子の姉妹だとでも言ってくれればいいわ。」
「は?ちょっと待ちなさいよ‼︎」
しかし真城を背負って追いかけられる訳もなく…ジェスターの影はふわりと闇に紛れて消えた。
今はとにかくどこかで無人自動車でも拾って帰らねば。いち早く、PEPEへ。
名影は暗闇ではどうせ読めまいと、メモを懐にしまい、自分と真城に器用に黒布を被せると真城を引きずるようにしながら歩を進めた。
平生とは似つかぬ程、うだるような気持ちの悪い、熱帯夜の出来事であった。