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トラストルノ  作者: なさぎしょう
輪舞曲
93/296

リタイア4


待つ間も周りに気をやり、ドローンに攻撃されないかを警戒する。あのチェーソー野郎やモンド氏が万が一にもここまで追ってこないとも限らない。

気が気じゃない。


しかしもう1つ気掛かりがある。2人と分かれてから、アリスの様子が一層悪い。恐怖もあるのだろうが、そもそも体調が悪いのではないかと思われる。


「アリス、大丈夫か?」


アリスは蹲ったままコクコクと頷く。

その様子はとても"大丈夫"には見えない。

立ち上がるのもしんどそうに見える。もし、いまなにかあったら…死んでも盾になろう。


ピッ…ピー…


「……っ‼︎ふ、フィル‼︎うしろ‼︎」


アリスがフィリップの背後を指す。

フィリップも背後を振り返り、息がつまった。赤い点滅が葉の隙間から覗いているのだ。

…化物の眼だ。


「アリス下がってろ‼︎」


背後の鉄の塊…何の建物か分からないが、ここに入れればもっと安全なのだが、生憎出入り口が見つからない。一見すると200cm四方のただの鉄の塊なのだ。ただ、屋根のように出っ張りが上部にあるため、それで上からは隠してくれる。

背後と真上からくる心配はそのためほぼ無いのだが、逆に言うと逃げ場も少ない。

背後(うしろ)以外を隠してくれているのはただの生垣で心許ない。


点滅していた光は、点滅をやめると嫌な沈黙ののち、一旦すっと消える。

しかしものすごい駆動音がしたかと思うと、生垣をぶち破ってフィリップを突き飛ばした。


「…っぐ、かはっ」


「フィル‼︎」


構えていたおかげで、そこまでの痛みではなかったものの、やはり機械。力が強い。

フィリップを突き飛ばすと、今度はアリスの方にくるりと向きなおる。アリスは恐怖で目を見開き、固まってしまっていた。


『アリスを不思議の国から救ってやりたまえ少年‼︎』


カルマのふざけた言葉が頭に響いてきた。ふざけた調子だが、有無を言わせない感じがひしひしと伝わってくる。

あの言葉だけは、守らなければ‼︎


フィリップは低姿勢のままドローンに向かうと、腕のように伸びたアームをひっつかみ、そのままドローンの上を通るようにして大きく前転する。

掴んだアームは、最初フィリップを前転させ切らずに地面に叩きつけようとしていたが、フィリップは見越してもう片方の手でドローンの本体に掴まり前転しきる。

ドローンのアームは見事に折れ、外れた。

すると着地と同時にその折れたアームを振り、ドローンの"目"であるカメラとセンサーを破壊する。


「あっち、行って、ろ‼︎」


なにも見えていないのかその場でグルグルしだしたドローンに、あらん限りの力でもってタックルをかます。

すると回転していた力も相まって、生垣にズボッとはまってしまう。


そうして一体をようやっと倒して気づいた…

生垣の周りに他に何台ものドローンの気配がある。飛行ドローンの羽音も聞こえる。

終わった…もう無理だ…





「あ‼︎ねぇあそこ‼︎いっぱいドローンがかたまってる‼︎」


「場所がバレたか⁉︎」


「飛行ドローンだけ対処お願い‼︎地上のドローンは、僕に任せてよ。」


伏は二タッと笑うと、とっておきのワイヤーを取り出す。人間には絶対に使わない。柔肉なんぞに使うための代物では無い。

金属を切る。そのためのワイヤーだ。

ただ切るのには特殊な角度やスピードを要する。そうでなければ、傷も付かない。現にそのワイヤーを伏は素手で握っているのだから。


まずは先行して、アレイの操作する飛行ドローンが飛び回ってる奴らを熱線攻撃で次々と撃墜していく。


そのあとから伏が続き、地上で事情をよく分かっていないらしい操縦者(

プレイヤー)達によってあたふたさせられているドローンを次々にワイヤーで切ったり、時には自らの力任せに、脆そうな接合部を破壊したりしていく。

本当に人間技と思えない。


「てぇーいっ‼︎」


二台を纏めてワイヤーで縛り、そのままぐっと引くと、まるで豆腐でも切るかのようにスパッとあっさり切れた。


「?大丈夫?」


伏は生け垣に囲まれた中心に向かって声をかける。生け垣は伏よりも高く中はよく見えないが、人の動く気配がする。

伏とアレイは目配せをすると、生け垣の中に入っていった。





無理だ。と悟ってすぐに、ドローンよりもやばい(・・・)奴らがやってきた。

出張った屋根のせいで真上は見えないが、一瞬生け垣と屋根の間から見えたのは、まるでSFゲームや映画のような華麗な飛行戦だった。

次々と殺人ドローンが後からやってきたやつにやられる。多勢に無勢…なんて言葉が馬鹿馬鹿しく思えてくる。たった一機でいったい何機破壊したのだろう?


生け垣の向こうからもすごい音がする。

おそるおそる隙間から見ると、東校の1番小柄なやつが、およそ人間業(にんげんわざ)とは思えない動きと凶器のワイヤーでドローンをひょいひょいと片付けていく。


レベルが違うのだ……


まざまざと思い知らされる。東校(むこう)はカルマのような、文字通りの精鋭(・・)が4人いるのだ。

"おそれるなかれ"などとはよく言ったものだ。彼らはおそれるどころか、楽しんでさえいるように見える。

一度(ひとたび)戦場に入って仕舞えば、もはや人は人でなくなる。人であることを捨てねば、生きられない。

それはなにも今回のような目に見える戦場だけではないだろう。SOUPに入れば、否応なく内部の様々な争いごとに巻き込まれる。


それを…生き抜く自信がなくなった。



ドローン達を手早く片すと、東校のやつら2人がそろって生け垣からひょこっと現れた。


「大丈夫?」


アリスがほっとしたのがわかる。

恥ずべきことながら、フィリップ自身もほっとしていた。


「す…すまない。」


「ありがとう。」


「いやいやなんの‼︎でも、どういたしまして‼︎」


小柄な彼はにっこりと笑う。


「いや、どういたしまして、ってまだ何も終わってないし解決もしてないからな?どうやってここから出るか、出てから感謝してくれよ。」


もう1人はもうテキパキと"SURVIV"の画面になっているエアスクリーンに端末やら諸々を接続して何かしている。

小柄な彼も「たしかに‼︎」と言って照れくさそうにしつつ、もう1人--ディモンドを手伝う。


「何か出来ることはないか?」


「いんや、今は無いね。しいて言うなら、近づく輩がいないか耳そばだてといてよ?」


「わかった。」


ディモンドは物凄いスピードで機械を操作し続け、そしてピタリと動きを止めた。


「えぇ…強運の持ち主かよ…」


「なになにー?どうして何が強運?」


「ゲームはさ、一方的に馬鹿みたいに強いのって面白く無いわけじゃん?だからこっちにもお助けグッズとか諸々がある訳だ。それのひとつが抜け道(バイパス)でさー…」


そういうと全体マップを出す。


「で、その抜け(バイパス)を探してみたんだけど、その1つさ…たぶんこの後ろの塊だわ。」


4人は一斉に背後にあった、コンクリートと鉄の塊を見上げる。


「でもこいつ…出入口らしきものは無かったぞ。」


フィリップの言葉にアリスも頷く。


「無いものは作りゃいいだろ?」


「……は?」




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