リタイア
もうどれくらい走っているだろう。なんとか出口を見つけて外には出たものの、建物がどのゲートからも遠く、壁の抜け道を探そうにも、そこまでの道のりがあまりにも長い。
それでも走らない訳にはいかない。
「アリス、大丈夫か?」
時折手を引くアリスを振り返りながら聞くと、アリスは頷く…が心ここに在らずといった感じだ。
置いてきてしまった2人のことを考えているのだろうか…心配なのはわかる。フィリップだって平気なわけではなかった。
しかし、今はとにかく逃げなくては。
「っ‼︎…またかよ‼︎」
SOUP本部内は無数の"無人機"が走ったり、飛んだりしている。
そしてどうもそのうちの大多数が敵によってハッキングされているらしく、先程から2人のみならず屋外に出ていた守備隊の人間にも攻撃を加えてくる。熱線や電流、その他諸々。実際ドローンによると思われる死体も見た。
「誰がこんなこと…」
さすがの高性能だからこそ余計に危ない。
しかし普段であればドローンはフィリップ達にとって心強い味方のはずなのである。
もしかして…この"SURVIV"とかいうゲームの…?
注意して見てみると、画面の端の方に"Order"という項目がある。
そこを開くと、いくつかの指令が出てきた。
その中の1つに目が止まる。
「なんだよ…これ。」
『ドローンを操作して、このゲームから脱出しようとするやつを阻め‼︎』という文字の下には点数表のようなものがある。
『守備隊1人撃退…5p
"西の客人"1人撃退…10p
"西の客人"を時間内いっぱいまで1人も脱出させなければ全員に30pプレゼント‼︎』
ふざけているのか?
こんなのおかしいだろう。だいたい別にマイナスになる訳じゃないなら殺す必要はないはずだ。こんなよくわからない点数のために画面の向こうの人々は人殺しになっていってるのか?
「フィル…応援を頼みましょう。」
「誰に⁉︎」
応援なんて頼めるもんなら頼んでる。モンド氏はあっち側の人間だったし、守備隊の人々は会う人会う人、負傷しているか、物言わぬ塊になっている。
どこかにいる沢山のプレイヤー達によって操られていると思しき機械のせいでみんな死にそうになってる。他人を構っている余裕などないだろう。
「首席…東の首席の連絡先、一応知ってはいるんでしょ?」
「…っ‼︎」
…知ってる。
でも向こうも大変かもしれない。それになにより、東の連中にだけは頼るものかという薄っぺらなプライドが邪魔をする。
「首席以外に知っている人はいないの?」
フィリップがすぐに答えずにいると、首席にかけるのが嫌なのだと勘違いをしたアリスが聞いてくる。
「他に…いる、1人だけ。」
ディモンド博士の親族だと言っていたあの彼だ。
「電話…してください。」
アリスは改まって頭をさげる。フィリップもさすがにその態度には驚いて、そして自分のちっぽけなプライドに嫌になった。
「わかった。」
コール音すらもとてつもなく永く感じる。
早くここから出させて欲しい。