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トラストルノ  作者: なさぎしょう
輪舞曲
72/296

SOUP本部 静寂2


準備を整え、3人は改めてジェスターの(・・・・・・)調達してきた(・・・・・・)地図を見る。最終確認は極度に緊張を高めるための儀式のようなものでもあった。

互いに目配せし合うと、ジェスターを先頭に内部に潜り込む。

まずは切断銃(カッティングガン)を自分達の頭上はるか上に向けて撃つ。すると、上の方で何かに切断銃(カッティングガン)から放たれたワイヤーが引っかかる。そのままトリガーをロックし、引き金を引くと、手にわずかに振動が伝わる。そのままそびえ立つコンクリート壁を3人はするすると登り、上に着くと、今度は足裏にゴム製のクリップを取り付ける。

そして今度はワイヤーを垂らして降りる。


このワイヤーはトランプの"ナイン"と呼ばれる人物が作り送ってきたものだった。正直性能に疑いがない訳でもなかったが、ナインは今までもSOUPやカンパニーの代物を凌ぐ物品を数々作り出していたことから、今回は使うことにした。

上にある電流線や、赤外線センサーの類を、一瞬にして無効化する不思議道具だ。周波によって云々…という説明が書かれていたがケイトもシンクも興味がなく、結局はよく分かっていない。


一息の音も立てずに降りきると3人はスッと別方向に動き出す。まずは1度別れ、それから地図でいうところのコード室を目指す。



正直に言おう。1人にされた途端に不安と恐怖で押し潰されそうである。

ケイトは冷や汗と眩暈を覚え、何度も立ち止まりそうになりながらも懸命に走る。

先ほどのカッティングガンの威力が続くうちはこの辺り一帯の監視カメラもまともに機能しなくなる。

全てを機械に任せたことによる致命的ミス。一箇所がダメになれば立て続けに全てが共倒れ。

ただ監視カメラが機能していなくとも、機械にすべて任せていたとしても…それでもケイトは先程から2人とは違う人間の気配を感じ取っていた。それも、1番近くで感じる気配がやけに狂気じみている、といえばいいのか…楽しんでいるような不気味な気配なのだ。

しかしその気配は先程からあまり動いていない。確実にケイトはその気配から遠ざかっている。

でも、動かないことが、こわい。


………っっ‼︎⁉︎


突如として一際大きな眩暈に襲われたようになり、立っていられなくなる。

よく見ると、足元に蜘蛛の糸のようなものがひっついている感覚がある。眩暈ではない、これに躓いて前倒れになったのた…しかし転ばない。

自分の胴体部分もその蜘蛛の糸が掬ってくれていた。


「……っかはっ‼︎」


ほっとするのもつかの間、足元の糸がそのままくるりと足をすくい取り上に逆さで吊り上げられた、かと思うと今度は手首、首元にまで糸が回り、ギリギリと締め上げられる。

必死で手元に仕込んだ小型ナイフで切ろうとするも、その糸は全く切れない。()が滑ってしまう。


これだから接近戦は嫌いなんだ…


気が遠くなりながらも、左腿に付けたタグを叩く。ケイトとシンクだけの最終連絡ツール。

タグと呼ばれる超小型のチップを体内に埋め込む。そこから送られる微弱な振動(バイブ)電流(ショック)によって互いに通じ合わせることが出来る。

今回は電流(ショック)が"HELP"を意味する。


だんだん呼吸が浅くなっていく。明らかに細い糸なのに物凄い締めつけで苦しい。しかもこれはただの糸ではないのか…ワイヤーのようなものなのかもしれない、肌が切れていく感覚がある。

と、視界の隅に人影を捉えた。

小柄な人影は近づけば近づく程にその華奢な体躯が明らかになる。でも…


「…ひっ‼︎」


どこかで見たことのある笑顔にそっくりな微笑みをたたえて、らんらんと瞳を輝かせ、そしてその少年は左手に光るものを持っていた。


--アイスピックだ。


角度によって医療用のメスなんかにも見える。ケイトはその瞬間に、本能的に身体が反応するのを感じ取った。歯を食いしばり身体を極力くの字に曲げる。

次の瞬間、先程までケイトの頭があった辺りに白い光の筋が走る。


シンクよりも先に、なんの伝もなしに死神(・・)がやってきた。


光の筋が通った後にはバラバラに切れた糸。ジェスターの扱う日本刀(ヤープソード)は、なんでも斬ってしまえるらしい。

その代わりに、1度上に持ち上げられたケイトの身体が今度はすごい勢いで地面に叩きつけられそうになる。


「…っ‼︎」


叩きつけられるのを覚悟で目を閉じると、すっぽりと何かに収まる感覚がする。そして次の瞬間にはふわりと抱え上げられ、その場を疾走して離れていく感覚。


「あ‼︎待て‼︎」


先程の少年の声だろうか、少し声高な声が後ろから聞こえてきたが、その声はケイトと--そしてシンクを追うことなく消えた。


「一足先に俺らはコード室へ向かうぞ‼︎なんらかの方法で俺らの動きがバレている可能性がある。」


シンクは途中でケイトを下ろすと、フードをちゃんと被らせ、切れた首元の衣服ごと、上から軽く包帯を巻く。


「辛いか?意識ははっきりしてるか?」


シンクの問いにこくこくと頷くと、シンクは他の切れている箇所にも黒いバンドを巻き、周りを見やる。

静まり返りすぎていておかしい…

とにもかくにも、2人はコード室を目指して歩を進めることにした。





2人の後ろ数メートルのところまで、音もなく、ただすごいスピードで迫り来る影がある。


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