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トラストルノ  作者: なさぎしょう
輪舞曲
73/296

SOUP本部 静寂3


くそっ‼︎


せっかく捕らえた獲物をあっさり逃してしまった。今回使ったワイヤーは特注品で、そんなに簡単に切れるはずは無いし、ましてあんなにスパッと綺麗になんて断ち切られるわけ無かったのに…


伏は目の前に立つ人物をじっと見る。なんとなく実体の無い感じがする。

いるのに、いないような…


「逃げるなよ‼︎」


サッとどこかへ行くのでは?と思った伏はとにもかくにも力任せに叫んだ。

しかし数瞬の後、伏は引き止めたことを後悔した。


「…っ‼︎」


罠はことごとく破られ、避ける逃げるで精一杯だ。

反撃なんてしてる余裕がない。先程から、相手の持つ刃の切っ先が鼻先を掠め、はためいた服を切り裂き、腕に鋭い痛みを残す。

一方のこちらは、一撃一撃を手持ちのアイスピックで受け止め流すか、完全に避けきるかの二択。

持っている武器も悪かった。


でも…違和感がある。

強い。確かに強いが、まだ手加減している気がする。

わざとらしく大きく手を振っている気がする。

手は抜かれたく無い…‼︎


「ちっ…‼︎」


伏は苛立ち紛れに舌打ちを1つすると、左へ避け、前へ攻め込み、間合いを今までで1番詰めたかと思うと、一瞬でパッと離れる。そしてそのまま空を掴んで自分の方へ引き寄せる。

と、目の前に立つ人物が腰元からぐっと後ろに引かれ、前屈のような体勢になる。と同時に腕は逆に捻るように上に持って行かれ、刀を振るうことが出来なくなった。


「よしっ‼︎」


伏はそのまま相手に掴みかかろうと一歩踏み出す…


「まいっち‼︎危ない‼︎‼︎」


突如聞こえた名影の声に、咄嗟に身体を後ろに反らせる。と、何かが空を切ったのがわかった。

…弾丸だ。

先程逃した人物はライフルと思しきものを背負っていた。逃した獲物は大きく、そして厄介だったようだ。

スナイパーは厄介だからこそ、先に仕留めておこうと思ったのに…


「なーちゃん、どうしよう‼︎スナイパーがいると動き辛いよ‼︎」


そう叫ぶと、名影は何故かニヤリと笑い、首を3度横に振って見せた。


真城が向かっている。


「潤くんが行ってる…そりゃぁ…スナイパーさんも可哀想に…」


伏は少しおっかなそうにそう呟く。真城のやり方は、見ようによっては酷く残忍だ。


「こっちは、そいつをなんとかしなくちゃね…‼︎」


名影と伏は遠距離からの狙撃も十分に気をつけつつ、罠にかかった獲物に近づく…

あと数歩…


ゴキッ…‼︎


「へ?」


名影と伏はその場に立ち尽くしてしまった。目の前の人物は、ありえない方向へ肩を曲げ、そして非常に柔らかな動きでワイヤーから腕をはずす。

それから、衣服や肌が切れるのもいとわずワイヤーからするりするりとうまく抜け出す。

…いや、本来なら抜け出せるはずもないのだ。


「な…なんで…」





より不可思議なことに、立ち上がった人影には血肉の1つもない。

衣服はわずかに破れているが、怪我の1つももはやこの暗闇の中では見出せなかった。


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