SOUP本部 SideH 作戦
「君達には私の方から説明と案内をしよう。」
わざわざコート氏が直々に案内をしてくれるとは、随分なもてなしだ。
「まず、案内の前に3人組について今のところ知り得ている情報を伝えなければな。」
そういうと、分厚いファイル3冊を机に置く。今時には珍しい紙媒体の書類を挟み込んだファイルだ。
データではなく形あるものとして残しているのか。
「そこに一人一人の特徴をまとめて書いている。」
だとしたら結構な情報が3人組についてはあるんじゃないか。PEPEの4人はそう思ってファイルを開いた。
「…同じようなことばっかり。」
伏が思わずつぶやく。
3人組に関しては確かに書いてあるのだが、どれも曖昧な言葉や見た目に関するアバウトな情報ばかりで役に立ちそうにもない。
「1人目は…接近戦を得意とする、男、目元からの推測年齢20代後半から30代頃…あらゆる格闘技に長けていると思われる…旧東アジア系…目元以外の顔は不明…」
読みながらアレイが呆れたような表情になっていく。なんとなーくな情報ばかりで全く人物像が思い描けない。
「あ‼︎こっちの人はスナイパーだって‼︎あと…白?なんか狙撃地点近くにて白いものを見たという証言が何件かあるんだって。あとは…ない。」
壊滅的な情報量だな。伏は必死に分厚い資料をめくって他の情報を得ようとする。
「使ってるライフルの種類もまちまちみたいだ。狙撃地点も様々。逃げも早く顔も背丈も年も全く分かってない…」
伏はがっくり項垂れる。
「こいつはまだ情報多い方かな…10代後半頃と思われる。華奢な体躯、目元から推測する限りでは旧東アジア系、性別は不詳。刃物をよく扱っている。(日本刀の使用が多い。) 3人のなかでも単体での行動が多い様子。か…」
そんなに情報が多いとは、言えないな。
ただ1つ分かったことがある。
「だから、あなた方は今回私たちにこの3人組を、という西校の意見を全面的に飲んだわけですか?」
他の3人は頭をかしげる。
「国、という体制は崩れてもやはり地域ごとに人種に偏りはある。そして人間というのは同種の人間であればあるほどより細かい差異が分かる。」
「つまり3人組の中に東アジア系と思しき人間が2人もいて、でもSOUPの方々だと目元や顔をアジア系と一纏めにしか見分けがつかないから、俺らに詳しい特徴とかを掴んでこいってか?」
真城が鼻で笑うように名影の言葉に続く。
「あとは、単純に疑ってもいらっしゃるんじゃないですか?」
そう名影が問うと、コート氏はもう降参、という風に両腕を上げ、それから続けてくれ、と手で名影に示す。
「まずは接近戦を得意とする男。目元だけではこの推測年齢も定かでない。もっと上かもしれないし…下かもしれない。それからこの日本刀を扱うアジア系の華奢な人物。」
名影とコート氏は互いに視線を合わせて不敵に笑う。
「旧日系人とのハーフで接近戦を得意とするアレイ・ディモンドに、日本刀を扱う名影零と真城潤、そしてなによりSOUPとはウマの合わないカンパニー側からの人間である伏舞人…本当は恩のことも疑ってたんでしょうけど、スナイパーにはそれぞれクセがある。そのクセが恩とその白いスナイパーとは合わなかった。」
「は?俺らが3人組だと思ってるのかよ。ありえないだろ。」
アレイが頓狂な声で返す。
「だが実際のところ君らの中には反体制派がいるだろう?」
その問いに、アレイは首をかしげる。
「アンチ?誰が?」
「僕たちだよ。元、だけどね。」
伏がキッとコート氏を睨みつけながら、言い放つ。
「僕、聖くん、ロブ、あとは元首席の聖くんのお兄さんが…なーちゃんと潤くんも元アンチだったって聞いたことがある。」
「まぁ…一時期少しだけ…」
アレイだけが何が何だか訳も分からずキョトンとしている。実際のところ、この"反体制運動"は今はほとんど表立っては行われておらず、さらに言えば伏たちのように今はそれほど体制に対する不満を持っていないもの、運動に時間を割けなくなったものたちが多く知らないものも多い。
アレイの近くに反体制派の人間がいなかったのなら、知らなくても当然かもしれない。
「私達からしても、今回の件は疑いを晴らす機会だってことなんでしょうか?」
可笑しそうに名影が問うと、コート氏も苦笑しながら答える。
「これをチャンスとするか否かは君ら次第だがね。」
「やってみますよ。」
アレイは隣の伏から細かい説明を耳打ちされたようで、「なんだ、そんなの引きずることでもなくね?」と退屈げに言いきる。
「とりあえず施設内をご案内いただいた後、我々自身で作戦をたてさせて頂きますね。」
名影もさることながら、伏、真城、アレイの3人もしっかりとコート氏を見据え、覚悟を決めたようだった。