嗤わない話
「誤解の無いように聞いてほしいのだが…
なぜ君は僕たちと共にいる?」
ずっと疑問だったこと。別にジェスターにいて欲しくない訳ではない。裏切り者だとか思っている訳でもない…ただ、ジェスターは全て持っているはずなのに、なぜ自分達と一緒になって"世界"をぶっ壊しにかかっているのかが分からない。
「君は、亜細亜座や君がここで今燃やさぬよう盗まれぬよう大事にしている物、とか大切なものが多くあるはずだ。なのになぜわざわざ全て失う危険を冒してまで僕らと共に戦ってくれる?」
死んでしまってはなんにもならない。
居場所も、金も、仲間も持っている。時間は忙しくて無いかもしれないが、それでも恵まれていると思うのに、わざわざ僕らの計画に直接的に関わってくれる人間は珍しい。
間接的に金の支援などなら金持ち連中も何人かひっかけてあるが、物資の支援や後方での準備でなく、バリバリの前衛で、暗殺においても自ら手を下してくる。
しかも、僕らの漠然と掲げる"打倒SOUP"もしくは"完全個人主義の確立"という目標に対しても、それほど深く共感しているようではない。
…いや、そこに関しては僕も大して共感してないけども。
「ひとつ、あなたは勘違いしてることがあるわ。私は、私が死んだ後にまでそれらの物が残ってほしいとは思ってないの。ただ、私より先に亡くなるなんて許せないだけ。」
そこでジェスターは1度言い淀む。
「それからね…私にとって亜細亜座は形見みたいなもので…でも今となっては姿形もすっかり変わって、形見ですらなくなってしまった……しかもそうしてしまったのは、私自身なのよ。」
彼女は皮肉っぽく笑ってみせる。
そして宙を仰ぐように何事かを思案すると、また視線をケイトに戻し話し始めた。
「で、本題のなぜあなた達と一緒にいるのか、だけれど。そうね、深い意味は無いわ。きっとあなた個人の考え方に非常に近いと思うわよ。」
僕と同じ…?
「えぇー…明確に誰かを、とかじゃなくって、とにかく"世界"とやらに一矢報いてやりたい‼︎ぶっ壊してやりたい‼︎的な?」
「えぇ、そうよ。あなたはさっき失ったら困るものが…って言ったわね。でも実際には失いたく無いものなんて無いのよ。無くされたの、それゆえに私は捨て身でぶっ壊しにかかれるの。」
無くされた。この言葉が引っかかった。
彼女が無くされたもの、変えてしまったもの…となると、やはりアレか。
「君がもし取り戻せるのなら取り戻したいもの、自暴自棄にならなくなるものってさ…"8人だったころの亜細亜座"かい?」
「えぇ、そうよ。」