2話. イカす彼女
奈理子に告白されたのは、高校一年の終わりの頃だった。
少し日に焼けた健康的な肌、日の光で栗色にも見える明るい黒髪は肩までの長さで、黒目がちの瞳は濃く茶色く、彼女の生き生きとした元気な光を灯していた。
同じクラスの子で、前から『可愛いなぁ~』とは思っていたけど、常に目で追うような存在にまではなっていなかった。
ある日の部活帰り、いつもは仲間と一緒に帰るところが、忘れ物をしたので1人で教室まで取りに戻っていた。
机の中の忘れ物を取ろうとしていると、開けたままの教室のドアから奈理子が息をきらして入ってきた。
「ラッキー!私ってば運良すぎ!」
驚いて固まった俺に、嬉しそうに近づいてきて、乱れた髪の毛を直すと……
「あのさ、悠斗くん……中山悠斗くん!私と付き合ってくれませんか!?」
ガチか!俺が告白なんてされる日がくるとは!
いや、これはもしかしたらイタズラかも……
不安になって周りをキョロキョロとしてしまった。
「悠斗くん、ガチだから!先生にレポートの件で呼ばれてて、窓の外を見たら悠斗くんが1人で戻るの見えたから!」
少し息があがり、赤く高揚したほっぺたがめちゃくちゃ可愛かった。
「俺で……いいの?」
「悠斗くんがいいの!」
そんな思い出から早1年……ケンカもした日もあったけど、もう俺には奈理子以外の女はあり得ない!ってくらいに最高にイカす彼女だったんだ。
◇◆◇◆◇
目をつぶって声だけを聞けば間違いなく奈理子。
ほら、走って高揚して頬を赤くしてさ、サラサラのキレイな髪にいい匂いを漂わせて、黒目がちの瞳でまっすぐと俺をみて微笑んでいるんだ。
だけど……目を開けると制服を着たイカ。
走って少し高揚していたのは間違いないが、イカだった。
これは究極の試練だと思ったね。
『姿の変わった彼女を愛せるのか!?所詮見てくれだけの愛だったのか!?』
そんなナレーションが聞こえてくる感じがしたよ。
「ああ、奈理子ちゃん、心配かけてごめんなさいね……軽い脳震盪みたいなんだけど、ちょっと混乱してるみたいで……」
母さんに促されて、隣の椅子に奈理子が腰かけると、担当医の先生が病室に来た。
担当医の先生はタコだった……
「お母様、ナースから悠斗くんのご様子がと伺いましたが、どうなさいましたか?」
俺の様子を確かめながら聞いてくる。
「悠斗くんはどこが調子悪いの?」
いや、そんな聞かれ方しても……何て言ったらいいんだ?
担当医もタコなんですけど!
担当医の後ろをついてきたナースはイカだった。
『少しだけ理解した!そうか……男がタコで女がイカなんだな!オッケー、そういうことね』
って、納得できるかよ!?
「先生……頭打って、なんか見えるものが違う形に見えたりするってことありますか?」
恐る恐る聞いてみることにした。
「悠斗くん、つまりどう言うことなのかな?」
「いや、男がタコで、女がイカなんですけど……あははは、ちょっと打ち所悪かったっすかね?」
から笑いが出た。
「悠斗くん、申し訳ないけど……それは普通のことだから、そのこと自体に疑問を持つことが心配になるなぁ……」
あ、そうなんだ!
俺の方が普通じゃなかったのか!
「念のためMRIを撮りましょうか?転んだときの状況や打った場所を考えると、脳には支障が無いとは思うんですが……念のためお勧めします」
母さんも奈理子も不安そうな顔をして俺を見つめていた。
「先生、お手数をおかけしますが……念のためお願いします」
母さんがそう言うと、準備をするからしばらく待つように言われ、俺はドッと疲れてベッドに再び横になった。
「ちょっとだけ目をつぶらせて……2人の声を聞いてると安心するから、なにかお喋りでもしててくれると助かるな」
そう母さんと奈理子に伝えると、そっと目を閉じた。
『次に目を開けたときには、この悪夢から解放されてるといいな……』
そう願っていた。




