1話. 俺はタコになった
学校からのいつもの帰り道。
俺はカバンを肩からさげて、部活帰りの夕暮れ時に家路についていた。
うちの高校のバスケ部は、都内でなかなかの成績をおさめていて、その中でも俺は花形のポイントゲッターだった。
ボールを手に吸い付くように自由自在に操って、相手を翻弄して決めるシュートは気持ちがよかった!
今日は特に練習試合前の猛練習でクタクタになって、疲れた右肩をグルグル回して歩いていた。
―チリンッ!チリンッ!―
自転車のベルが鳴らされたかと思うと、回していた腕に衝撃を受ける。
よろめいた時に、歩道と車道との段差に足を取られ、車道側に半身飛び出した形になった。
『あっぶね!!』
そう思った瞬間に、前方から来ていた車にカバンがぶつかる。
大した衝撃ではなかったが、体勢を崩した俺はスッ転んでしまった。
軽く頭を打った気がして、意識がとんだ……
◇◆◇◆◇
目が覚めた。
真っ白い天井、家とは違う固いベッドに寝かされていた。
『あちゃ~病院に運ばれた感じ?……』
そう思って体を起こそうとしたときに、横から急に声をかけられた。
「悠斗大丈夫!?目が覚めたの!?」
母さんの声が聞こえた。病院に来て目が覚めるのを待っていてくれたらしい。
「あのさ、母さん……」
体を起こして声が聞こえた方を見ると、イカがいた……服を着たイカだ。
顔もちゃんとイカだ……だけど、声は母親でちゃんと化粧もしていた。
服の袖から出ているのは、左右2本ずつのイカの手?スカートの下からは6本の足?
「あー……母さん、俺……ちょっと頭の打ち所悪かったかも……」
半分泣きそうになりながら、母親らしきイカにそう言うと、慌てふためいたイカの母はナースコールらしき何かを押した。
「すみません、息子の目が覚めたんですが、様子がおかしくて……直ぐに来ていただけますか?」
声は完全に母親のものだった…
「ねぇ、俺病院にいるんだよね?なんか検査したの?」
「ああ……先生は軽い脳震盪だとおっしゃってたわ。他には問題なさそうだって……」
そう言われて頭を触ろうと手を出すと……
自分の手は普通の人間の手だった。特に問題も無いように思える……
『いやぁ……これは参ったわ…打ち所悪かったっしょ……自分以外が全部おかしく見える』
そう思いながらも、色々と確認すべき場所を触ってみた。
先ずは頭。
うん、今まで通り髪も生えてるし問題なさそうだ……
次に足を触ってみると、ズボンには普通の人間の足が収まっていた。
「ねぇ、母さん。鏡見せてもらっていい?」
「あ、小さいのなら持ってるけど……これでいい?」
渡されたコンパクトミラーをのぞきこむと、自分の顔も知っている前のままの顔だった。
『マジでヤバイわ俺……自分だけ普通に見えるのに、他の人がまともに見えない』
担当の先生はまだ来ない……
そして、俺はちょっと精神的に参っているようだ……
「一応聞いてみるけど……俺ってどう見える?」
不安になって聞いてみることにした。
「なに言ってるのよ、変わり無く普通のタコじゃない……」
どうやら俺はイカではなくてタコらしい。
そうか、タコなのか……まあ人間でないなら似たようなものか。
「もうちょっと横にならせて。頭の調子が悪いみたいだわ」
そう言うと、心配そうにする母親らしきイカにコンパクトミラーを返して横になった。
『よし、もう一度寝てみよう。悪い夢だとしか思えん』
俺はベッドに再び横たわると、布団を掛けて目を閉じ……
「悠斗大丈夫なの!?」
慌てふためいて病室に飛び込んだ、麗しの彼女の声が聞こえた。
「ああ、お母さんすみません……悠斗くん大丈夫ですか?」
俺と奈理子は親も公認の付き合いだった。
彼女の方から告白されて付き合いだしたけど、奈理子の明るさや素直さ、ふざけているようで意外と真面目なところ、顔もめちゃくちゃ好みで……
今はベタ惚れ!まだ高校生だけど、将来結婚するなら奈理子しかいない!と思うほどだった。
だけど、今の俺には不安しかない……彼女の顔は今まで通りに見えるのか?
それともイカなのか!?タコなのか!?はたまた他の!?
恐る恐る目を開けて奈理子の声のする方を見た。
奈理子は可愛いイカだった……




